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第2話:決戦前夜

偶然手に入れた謎の本。そこに書かれた「私をみつけて」のメッセージに導かれ、私は異世界に転移した。

私は、5人の悪そうな女性に「愛の契約」を勧められた。


登場人物

ヴェルムリス=デモニス(私):主人公。かつて暗黒の世界を作り上げた闇の王の写し身。女幹部たちの主君として君臨することを望まれている。


夜月:地雷系女幹部。ヴェルムリスに激烈な愛情を向ける。

ルビリア:姉御肌の女幹部。今回のお話で登場。

ミラ:ダウナー系科学者女幹部。今回のお話で登場。

エリュシア:氷の女王系女幹部。

レイア:忠犬騎士系女幹部。


 「よお、ミア。邪魔するぜ」


 魔城ルクス・ノワールに存在する研究室。あらゆる薬品の瓶と、草花や動物由来の材料、薬物、医学などに関わる専門書が所狭しと並ぶ小さな一室に、快活な声が響き渡る。声の主は赤いツンツン頭をした長身の女性である。丈が短いレザーのジャケットを袖を通さずに羽織り、サラシで胸の部分だけを隠している。タイトなレザーのパンツに、鋲がついたブーツ。彼女の性格を端的に表したワイルドな風体で、一眼で鍛え上げられていることがわかるほどの良い体格がわかりやすい。赤い髪の女性は研究室の中に入ろうとするが、足元には書類やら、本やらが散りばめてあって思うように進めない。「オイオイ、相変わらずスゲーとこに住んでんなあ」


 狭い研究室の奥、机に向かって研究の記録を書きつけていた女性が声に反応して振り返る。銀色のウェーブがかったロングヘアーは腰の辺りまで伸び、ツヤツヤと美しく照明の光を反射している。蜘蛛の巣のようなデザインの、糸が放射状に絡み合ったようなドレスの上から白衣を羽織って科学者らしさを演出している。「ルビリア。どうしたの?……って、聞くまでもないかしら?私たちのあるじサマのことでしょう?」蜘蛛糸のドレスを着た女性──ミアが、やれやれといった様子で応える。


 赤い髪の女性──ルビリアは、「へへ」と笑い、足元の障害物を乗り越えて部屋の奥へとずかずかと進み、ミアの肩に腕を置く。


 「わかってるじゃねえか。アンタはどう思う?オレは……どうにもわからねえな。あるじサマとは言ってもそんなにやるやつとは思えねえし。しかし、ちょっと面白かったよな!俺たちがあんだけユーワクしといてアレとはよ!


──────

 昨日のことである。この城「ルクス・ノワール」に、魔王の写し身といわれる男が招かれた。暗黒の大陸イーヴェル=ガルドを支配するために造られながら、数千年もの間、時の流れから切り離され、王が再び玉座に着くことを待ち続けたこの城の封印がついに破られたのだ。自分が置かれている状況がわからないまま鎮座する男に、5人の女幹部は自分達の主人として、「契約」を結ぼうとする。


 「「「「「「私たちと愛の契約……しましょう?」」」」」


 ルビリアは玉座の背もたれ側から男の顔を覗き込み、それから頬擦りをした。ミアは男の膝の上に頭をもたげ、それから細く白い指で男の首から胸元にかけてスーッとなぞった。だが、男の答えは意外なものであった。


 「……うーん!よくわからないし、一旦持ち帰る!!」


 「はあ?!」最初に声を上げたのはルビリアだった。何?一旦持ち帰る!?この状況で!?なんて優柔不安なヤツ!ルビリア以外の4人も、みなキョトンとしていた。男は続ける。


 「だって、ちゃんと説明聞かないまま契約なんかしたら、不利になっちゃうかもしれないよ!自分が置かれてる状況を整理したいし、とりあえずもう今日は休む!!オレは、その場の流れに任せて、店員に勧められるままよくわからない携帯プランに入ったりしないのだ!」


 「はあ……?ケータイ?なんだそりゃ……!?いいから、オレと……!」逸るルビリアを、夜月(地雷系女幹部、月影の魔女)が静止した。「まーまー!いーじゃん!ダーリンが好きなようにすれば!ふふ、そうだよねえ〜いきなりじゃビックリしちゃうよねえ〜!ちゃんと考えてるダーリン偉いよ〜!じゃあ、ダーリンのお部屋に案内するから、ゆーっくり休みながら考えてえ、最高の答え出そうね〜!」

 

 夜月が案内役を買って、王のために用意していた部屋に案内した。しばらくして玉座の間に戻ってきた夜月は、何事もないようなそぶりであった。ルビリアは問いただす。「おいおい、いいのかよ!こんなに長い間待ってた王なんだぞ!もしオレらの主になることを拒んだら……!」


 「ん〜?ま〜、私としても早く契約結びたいけどお、やっぱりムリヤリはだーめ!契約は合意の上じゃないとねん!」


 「それに……」夜月がぴたりと止まる。冷たい瞳。冷たい笑み。周りの空気が凍りつく。


 「絶対に、私からは離れられないから」


──────

 ルビリアは思い出し、再び頭を悩ませた。「まったく……これだけの良い女を前にして、あの返事ときたらな!しかし、一番ゾッコンだった夜月があんな余裕そうなのは不思議だったぜ。いざとなったらオレらのことを出し抜いて二人だけで契約交わしちまうつもりかもな……?レイアも主人の言うことは絶対だって言ってやがるし……」


 ミアもルビリアの言葉に応じてぼんやりと天井を眺め、この問題を思慮する。「あの二人は、言ってみれば魔王(仮)派、ってことよね?彼が契約交わしたくないって言ったら賛同しそうな。あなたはそれを危惧してるのね?」


「そういうことになるな。うーん、エリュシアのやつはどうだろうな。媚びを売るようなタイプじゃねーし、アイツ、そもそも男なんて嫌いだろ?担ぎ上げて裏で支配するって魂胆かね?で、アンタはどうなんだ?魔王(仮)が逃げ出したら……」

 

 ミアはふう、と息を吐き、引き出しからキセルを取り出す。「私はそうね……契約もだけど、結構彼自身に興味があるかも……。あっけらかんとしているように見えるけど、何かを変える素質を持っているのは確かね、あの子。力や特殊な能力ではない……何か、人と違う意志みたいなものを感じるわ。ふふ、早く正式に王の座に着いてくれたら、どんなに楽しいかしら」


 「はは!まあ、この数千年で一番楽しいのは間違いねえな!」ルビリアは豪快に笑い、それからすぐに真剣な顔つきに戻る。「オレとしちゃ、本来の力をさっさと取り戻してえし、犬に噛まれたと思ってテキトーに契約するつもりだったんだがな。こうなりゃ、あいつの王の器ってもんも測りてえ。元々オレは運命とか、前世とか気にするタイプじゃねーしな。オレが納得するヤツじゃねえと王とは認められねえし、契約もしねー」


 「それは同感ね」ミアはキセルから甘い香りの煙を燻らせて遠くを眺める。「せっかくの運命の相手……。確かめてみたいわ。もっとも、その機会はすぐに訪れそうだケド……」研究室に唯一の外光を差し込む小窓に目をやる。遥か遠く、紫の空と大地が浮かぶ先に、巨大な群れがせめぎ立つのを感じる。

 「在野の魔族より先に、帝国騎士団が彼に気が付くとは意外だったわ。彼ら、もうイーヴェル=ガルド国境の結界外からこちらを覗いてる」


 「はは!おもしれえじゃん!」笑い声と共に、ルビリアの赤い髪が灼熱のようにチリチリと燃え光った。「オレらから王の身柄を奪おうってのか!数千年ぶりに楽しませてもらうぜ……!」


──────

 イーヴェル=ガルドと大陸との境界には強力な魔力の障壁が存在し、人間も魔族も安易に越えることはできない。この障壁は空まで続き、大陸全域を照らす太陽の光すらも遮断するため、境界から先は深淵の暗闇が続く別世界である。地続きではあるものの、地理的にも首都のほぼ裏側に位置するため、人間たちはイーヴェル=ガルドの領域のことを「世界の裏側」や「魔界」などと呼ぶ。

 人間にとって、イーヴェル=ガルドの生態系も、政治体制も、生活も、全てが数千年の間不透明であり、唯一、境界の近くに常駐する帝国監視隊が、中の様子を持てるテクノロジーや魔法を使ってなんとか窺い知ることしかできなかった。


 その監視隊から帝国本隊へ緊急の電報が届いた。紫がかった霞の中、昨日まで存在しなかった城のような建築物が突如として現れたという知らせである。半日ほど前、帝国騎士団は、以上な磁場の乱れと共にこの世界に現れた男──帝国議会はこれを漂流者と仮称している──が、何者かに身柄を奪取され、さらにそれを何者かが妨害したという報告を受けた。馬車の御者によると、この漂流者は近くの街から古代遺跡へと移動し、その後、突然姿を消したという。時間的に見て、この漂流者と、イーヴェル=ガルドに現れた城は何かしらの因果関係があるというのが、帝国議会の見識であった。


 すぐさま、特別に再編成された帝国騎士団が境界近辺へと派遣された。任務は、城の調査及び大陸へもたらす影響の検証。もし、魔族に大陸に危害を及ぼす意図がある場合、これを速やかに阻止、排除する。そして漂流者の捜索を行い、もし接触できた場合はその身柄を拘束して帝国へと送ることである。


 数千年の間、いずれ起こる魔族との戦いに向け、帝国はこの障壁を突破する方法を検討していた。理論上、高位の魔道士最低20名が、同時に対結界魔法をぶつけることによって、結界が再生するよりも先に、領域内に進軍することができる。


 騎士団長の号令と共に、それは行われた。地鳴りとともに、結界に高さ・幅ともに15メートルほどの小さな穴が開く。時間にして2分に満たない、穴が塞ぎ切るまでの間に、計68名の騎士がなだれ込んだ。先に騎馬隊が駆け入り、ついで歩兵がなだれ込む。作戦に参加した魔道士のうち7名が失神し、うち2名が死亡したことにより、再び結界を開くのは、中の兵が脱出する際に留めるという判断がなされ、入れなかった80名ほどの兵は結界の外側で備えることとなった。


 魔族と人間が直接武力で衝突するのは、有史以来初めてのことである。

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