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第1話:地雷系ヤンデレ女幹部「月影の魔女」夜月=ノクスフェリア

偶然手に入れた謎の本。そこに書かれた「私をみつけて」のメッセージに導かれ、私は異世界に転移した。

私は、異世界の文化を学ぶ中で、本の手がかりが古代の遺跡にあるという情報を得た。


登場人物

「私」:このお話で名前が判明する主人公。知的好奇心豊かで、良くも悪くも素直な性格。


謎の地雷系少女:今回登場する悪の女幹部。愛情たっぷりでいきなり「私」に全力アタックを仕掛けてくる。その正体は……?


 私は馬車に乗り、本の手がかりがあるという遺跡に向かっていた。はるか遠くには、なだらかな丘陵がうっすらと姿を見せ、その影に太陽が姿を隠そうとしていた。この世界に到着してから体感では半日ほどが経過していた。異世界といえども、時間の流れは現代日本と変わらないようである。


 馬車から降りる。足元には風にそよぐ緑の絨毯がどこまでも続き、柔らかな草の香りが鼻をくすぐった。果てしなく広がる草原の只中に、石造りのアーチや柱が円を描くように並び立っていた。


 アーチの高さは4メートルほどで、厚みのある灰白色の石材が積み上げられ、半円形に弧を描いている。かつては堂々たる門だったのだろうか。今は上部が欠け、左右の支柱だけが立っており、表面には草の根が這っている。


 アーチの周りには、円形や角柱の柱が点在し、規則性を欠いた配置で立っている。太さは50センチほど、高さは2.5メートルから3メートル。いずれも、長年の風化と崩壊により完全な形を保っている部分は少なく、柱の足元に草が根を張り生い茂り、表面はひび割れ、傾き、あるいは倒壊していた。


 遺跡の地面には平らな石板が不規則に敷かれ、かつての床を形作っている。石板はひび割れ、草に覆われた部分が目立つ。そのほかにも、あちらこちらに小さな石の塊や崩れたアーチの破片が散らばっており、かつてここが、もっと壮大な神殿だったことを想像させた。


 柱の間にある草に埋もれかけた石の小道を進む。歩くたびに草が足に絡みつき、風が柱の間を低く唸って通り過ぎ、草の擦れる音が耳に響く。その不穏な雰囲気の中を進むと、遺跡の中心部らしき場所に到達した。

 そこには緩やかなクレーターが広がっていた。クレーターの直径は10メートル、最も深い部分は1メートルほどで、その中心部には四角い台座がどっしりと構えていた。


 私はクレーターを降り、台座に手を触れてみる。腰の高さほどの台座は、幅2メートルほどで、風化で角が丸まり、ヒビが無数に走っている。側面にはかすかに幾何学的な模様が浮かんでいたが、その意味は判別できない。そして、台座の表面には、ちょうど手に持っている例の黒い本を広げたらピッタリとハマる程度の窪みがあった。

 私には確信があった。本をめくり、例のメッセージ──「私を見つけてね」と書かれたページを開き、台座の窪みに置く。


 その瞬間、全ての音が消えた。風の音、鳥の声、足元の草や石が擦れる音。あらゆる音がぴたりと止まり、数秒の間、完全なる無音が続いた。その静寂を破ったのは、柔らかく、暖かな女性の声であった。


 「見つけてくれたんだね。ずっと待っていた……。この時、この瞬間を」


 声がするのは、私の背後であった。ゆっくりと振り返ると、そこには一人の少女が、恍惚の表情を浮かべて立っていた。


 まず目を引いたのは、肩のあたりまで伸びた、ふわりとボリュームのある鮮やかなピンク色のツインテールヘアであった。髪と同じピンク色の瞳は、黒く濃いアイライナー、長く伸びた下まつげ、そして繊細なピンクのアイシャドウで引き立てられている。滑らかな陶器のような白い肌は夕日に照らされて柔らかな輝きを放っている。

 彼女が身にまとう繊細なレースをあしらった黒とピンクのフリルドレスには、さりげないチェーンやゴシック調のアクセサリーがあしらわれている。かわいらしさとエッジが絶妙なバランスで融合されたその服装は、現代日本でのいわゆる「地雷系ファッション」に違いなかった(この世界に地雷という概念が存在するかはわからないが)。


 ミステリアスでありながらも魅惑的な表情を浮かべながら、彼女の艶やかなピンク色の唇がゆっくりと動く。「ホントに見つけてくれて、ありがとう。約束を守ってくれたんだね、私の愛しい人。たった一人の……運命のダーリン……!」言い終えると同時に彼女は私に駆け寄り、体重の全てを乗せかけるように抱きついてきた。大きく柔らかな胸が押しつけられ、重たく甘ったるいフローラルの香りが鼻を突き抜けてくる。彼女は明るいピンク色の頭を私の胸にぐりぐりと擦りながら何かに浸るように呟いている。「何年も……何千年も……この時だけを待っていたんだよ……!ダーリンのぬくもり、におい、感触、全部……ゼンブ私だけのもの……!」


 その反応から、彼女が「私を見つけてね」というメッセージの送り主であるということ、そして、そのメッセージの送り先が私で正しかったことを物語っていたが、肝心の、彼女が何者で、なぜ私を選んだのかは、皆目検討がつかなかった。「……君は……?」私が一言尋ね終わるより先に、彼女は涙ぐんだピンク色の瞳で私の目を見つめ、右手の指を私の手に絡め、左手で私の頬に触れ、そして、そのまま唇を重ねた。


 馬車から身を乗り出してこちらを見ていた御者のオッサンは、ウヒョウやりおった!と大声で叫び、口笛を吹いて指を鳴らし、そのまま馬車を翻して走り去ってしまった。往復分の料金を受け取っていたにもかかわらずである。しかし、御者への怒りも、瞬間の驚きと、柔らかな唇の感触にかき消されていった。次第に瞼が重くなり、彼女の感触を感じたまま、私は眠るように意識を落としていった。


──────── 

 そして次に目が覚めた時、私は冷たい石造りの玉座の上にもたれかかっていた。広大な部屋も石造りで造られており、天高くに釣られたシャンデリアの炎と、壁に掛けられた燭台の紫色の炎が、わずかに空間を照らしていた。


 「おはよ!よく眠れた?」私が座る玉座より数段の階段を挟んで、先ほどのピンク髪の少女が立っていた。「なーんにもわからないって顔してるね!かわいいダーリン!ここはあなたのための城。深紅の禁城ルクス・ノワールよん!ようこそ……いや、おかえりかな?私たちのあるじサマ……!」


 彼女を中心とし、ほかに4人の女性が扇状に立ち並んでいた。彼女の左隣にいる、水色の長い髪をした、高貴な印象の女性が私をまじまじと見つめて口を開く。「ほう……。これが我らの主人か。その玉座に鎮座する、その資格が果たしてあるのか……」その隣に立つ、赤い短髪が特徴的な長身の女性が不敵な笑みを浮かべる。「思ってたよりもひ弱そーだが、へへ、まあまあいいんじゃねえーの?」ピンク髪の少女の右隣に立つ、騎士のごとき甲冑をまとった金色のボブカットの少女が二人の言葉を遮る。「エリュシア、ルビリア。不敬ですよ。口を慎みなさい。ここにおわすのは、運命が選んだ我らの主君なのです」「まあまあ、そう怒らないの。すぐにわかることだわ。彼が、どうやってわたくし達を楽しませてくれるのか……!」ボブカットの少女の隣に立つ、長い銀髪をひるがえした女性が妖しく笑ってたしなめる。


 ピンク色の少女は楽しそうに続ける。「ホラみて、ダーリン!私たちは、みーんな、貴方に期待してるのよん!みんな色々言ってるけど、結局、みーんな、貴方と愛し合う日をずっと夢見てきた……!今日この日、貴方に会えたことがたまらなく嬉しいの!そう。ずーっと……気の遠くなるような時間…!貴方を待っていたの……」


 私は正直に、自分の心情を述べるしかなかった。「みんなは何者なの?この本を送ったのは君?これはオレに送ったものなの?なんでオレが……みんなのあるじなの?」私の質問攻めにもピンク髪の少女の表情は変わらない。喜びと、明らかな情欲が混じった恍惚の表情を浮かべている。「モチロン、ゼンブ教えてあげる。その本を送ったのは私……夜月よづき=ノクスフィリア(noxphilia)。貴方だけの忠実なしもべで、月影の魔女。そして……愛する貴方の恋人!」


 「貴方がその本を手にしたのは偶然なんかじゃないよ!貴方はまだ自分のことを何もわかってないの。教えてあげる。はるか昔、一人の英雄が人間達のために戦って、その人間達に……手酷い裏切りを受けた。その英雄と仲間達が作り出した自分達のためだけの王国が、エリオスト大陸(この世界の地球にあたるもの)の裏側にある、この暗黒の王国、イーヴェル=ガルド(Hiver=Guard)。そして貴方こそ、その英雄の魂の写し身。偉大なる闇の王、ヴェルムリス=デモニス(Velmrith=Demoniss)その人。私たちは……もうわかるよね?英雄の仲間であった5人の写し身だよ!」


 ヴェルムリス。夜月と名乗るピンク髪の少女から告げられた名前は、およそ現代日本人らしからぬ響きではあるが、確かに聞き覚えがあり、不思議と自分の名前であるという馴染みがあった。彼女が語ることはとても信じがたいものであるが、この世界に自分が存在しているという事実、そして彼女の言葉・表情・行動全てから溢れる愛情が真実であることを裏付けている。否定する根拠がない以上、受け入れるしかない。


 金色のボブカットの騎士が語る。「私たちはいわゆる魔族と呼ばれる存在です。それぞれ別の生活を続けていましたが、魂の奥底で感じていたのです。私たちの前世というべき5人の魂が……ふたたび貴方を主人とあがめ、この世界を再び治めるべきであると。その声に導かれ、私たちはここに集い、貴方をこの場に呼ぶ準備を進めていたのです」


 水色の髪の高貴な女性が語る。「英雄がイーヴェル=ガルドを創立して以来、長大な時間が流れ、今となっては混沌を極めておる。偉大なる主君がおらぬことで、魔族たちは日々、空白の玉座を狙って熾烈な争いを繰り広げておるのだ。さらには、魔族の動きを警戒するエリオストの騎士団の動きも活発になっている。そなたが必要なのだ。魔族を束ねる圧倒的な支配者の存在が……!」


 「そーいうわけでえ……!」夜月が駆け寄る。私の首に腕を回し、頬に顔を近づける。それに合わせて、4人もそれぞれ玉座を囲む。ある者は私の肩に手を置き、ある者は膝に頭をすり寄せ、ある者は腕を組み、ある者は玉座にもたれかかって私の顔を覗き込む。


 「「「「「「私たちと愛の契約……しましょう?」」」」」


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