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せっかく見るのなら楽しい夢を希望いたします。許せません!

 目を覚ました場所は絢爛豪華なお屋敷の中。

 そしてここはその応接間。

 わたくしはこの場所をよく知っております。


 男性同士の話し声が——。


「カトリアーヌ候殿、本日は良いお知らせを持って参ったのです」


「ほほう、何でございましょうか、シドニア枢機卿殿」


「うむ。……貴殿の娘君のことですがな。単刀直入に申し上げますと、我が家系にお迎え入れたいと思うのですな。はっはっは」


「な、なんと? ご冗談がお上手でいらっしゃいますな」


「私は貴公のためを思って——」


「いえ、ですがそれは。我が娘はまだ——」


 なにやら口論をしているようです。

 すると、突然背後に気配が。

 まずいです、夢中になっていて気がつきませんでした!


「あら? 駄目ですよカトレア、立ち聞きをするなど淑女のやることではございません」大人びた女性の声。


「お母様、あの殿方は何を馬鹿げたことをのたまっておられるのです?」


「しーっ、大事なお客人様ですわよ、お話は別のお部屋で聞きましょうか」




「カトレア、どうしてあんなことを言ったの?」


「だって、だってあのお方、カトレアのことをお嫁にしたいだなんて。馬鹿ではありませぬか。親ほども年の離れた殿方のところに嫁ぐなど無理です。絶対にできませんわ」


「あなたはカトリアーヌ家の長女。君主の娘として頑張らないといけないの。お母様だってそうしたんだから、カトレアにだってできるはずよ」


「嫌です、頑張るなどできません。絶対に嫌でございます! うう……」


「あらあら、ほんとに気が強い子ね。お父様だって頑張っておられます。落ち着きなさい。経過を見守りましょうね」


 良からぬ考えが脳裏をよぎりました。

 気に食わないのだから殺してしまえと。

 幼子のわたくしにできる手段は唯一つ、毒殺です。



 ——1ヶ月後


「よくぞいらっしゃいました、枢機卿殿」


「カトリアーヌ候殿、例の件についてはいかがですかな? わたくしは娘君のことを大変気に入っておりましてな。良いお返事をいただきたいものです」


「は、はあ、それについてはもう少し。我が娘もまだ幼くてですな」


 ガシャン!


「いつまで待たせるつもりですかな? 貴候はご自身の立場をわかっておいでか? そもそもこの家と領地は——」


「落ち着いてくだされ、何卒、何卒——」


 私は決意しました。

 今日こそあのロリコンじじいを殺してやる、と。

 そうして紅茶に毒を盛ったのです——。


「ぐ、ゲホッゲホッ……が、ああ……」


 扉越しに響く苦痛の声。そして床に倒れ込む鈍い音。


「な、なんということだ! 誰の仕業だ? いかん、このことがばれては我が侯爵家は潰されてしまう。ああ、なんと言うことだ」


 その後、父は枢機卿の死を隠蔽。

 事なきを得たように思われましたが——。


 半年後に父は命を絶ちました。大好きだったお父様……。

 わたくしを一生懸命に守ってくれていたお父様。


                 ◇ ◆ ◇


 ——あら、ここはお屋敷の寝室でしょうか。

 どうやらわたくしは眠っていたようです。

 そして起き上ったまでは良いのですが、額に手を当てたまま固まってしまいました。引っかかるのです。


「わたくしは何故ここに……」


 いっこうに思い出せません。

 頭の中に霧のようなモヤがかかったように思考を阻むのです。


「そもそも、何故あのような胸くそ悪い夢を見たのです? う……夢?」


 すると頭の中の霧が突如現実世界に現れたのです。

 目の前に黒い影のように立ちこめてきました。


「な、なんです? 何なのですこれは?」


 ありえません。夢の続きだと思いました。

 やがてそれは形を成してゆきます。

 それは、おぞましき『あの者』へと姿を変えていったのです。

 それと同じくして、わたくしの顔面は引きつっていきました。


「カトレア、カトレア。ああ……苦しいのだ、助けておくれ」

 ——シドニア枢機卿。

 青ざめた表情で胸を押さえながら床に這いつくばっている様子でした。


「汚らわしい!」

 ズサッ!

 即、首をはねました。一瞬のためらいもございません。

 腐りきったゴミ。見るのも憚られます。

 此奴のせいで父上は……。


「カトレア、カトレア……ゴボボボ」


 おかしなことに動きが止まりませんでした。

 四肢がみみずのようににうねっているのです。


「な、なぜです? まだ息があるというの?」


 先ほど刎ねた筈の首がまたくっついて、ナメクジのように這い寄ってきます。

 背筋が凍るような思いでした。


 首はあさっての方向にねじ曲がり、口からは血を垂れ流し、目玉は半分飛び出しておりました。なんと醜いことか。


「わしの妃に……なるのじゃ。貴女のことをかわいがってやろう、なぁカトレア」


 足首にいやらしい手を伸ばして来ます。蹴飛ばしました。

 しつこいですわ。いい加減くたばりなさい!

 ズサッ!

「オッ、オオオ、痛い、痛い。乱暴はいけませんぞオオオ、カトレア嬢。よい子にっ、すればァ、悪いようにはせぬ、そのかわいい顔を——」


「しつこい! しつこい! しつこい! 死ね、死ね、死ね!」


 めった刺しにしました。もう見たくない。

 こいつのせいでお父様が死んでしまったんだ。


「決して私のせいでは、私のせいでは……」


「カトレア、カトレア。ああ……苦しいのだ、助けておくれ」

 先ほど刎ねた顔のはずでしたが、それは——。

 え? お父様?


「あああ! うわあああああああ! あああああああああああ!」


 耐えられません。わたくしは頭を抱え、地面をのたうち回りました。


「もう嫌、駄目、やめてください。お父様を殺した……私のせいで? 私が殺した? お父様を? うう、あああああああああ!」



 ——ドクン! その時、心臓が強く脈打つ感覚が……。



「まったく。情けのない顔をしておるな」


「あああ……あ、あぁ? 声? 一体どなたでございますか?」


 くしゃくしゃに乱れきった髪。涙と鼻水、よだれまみれ。

 みすぼらしい格好になってしまった、このわたくしを呼ぶのは誰?



 【次回:胸くそ悪い夢を見せられたら誰だって不機嫌になりますわ!】


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