表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

通りすがりの貴族を魔物退治に駆り出すなど不敬!ですわ ☆その2

「お神様、なにか霧を払う方法などはございませんですか?」


「……」


 でええい、めんどくさいやっちゃあ。もう!

「アーレス様、あなたのことでございますわ」


「……ほう、我に助けを請うとは。よかろう、まずは敵の姿を見つけることだ」


「ご覧の通り、視界が悪くてはどうにもなりませんです」


「案ずるでない」


「おお! なにか妙案があるのですね?」


「魔剣ポイント会員の貴様なら会員優待スキルを使うことができよう」


「はい?」


 会員? 優待スキル?? もうヤケです。

「ははあ、素晴らしいですわ。使えるもんは使いますわよ!」


「うむ、では我を天に掲げ、魔剣サーチ! と叫ぶのだ」


「ま、魔剣サーチ!」


 ……なんてダサいネーミング。屈辱ですわっ!


 高貴なわたくしが馬鹿っぽいポーズでこのような台詞まで。

 死ぬほど恥ずかしかったですが、それに見合うだけの効果が——。

 魔剣が輝き、赤い光線が現れて進むべき道を照らし出したのです。


「その先に倒すべき敵がいる、向かえ!」


「素晴らしい! では、いきますわよ!」


 村の中を駆け抜け、全速力で魔物の元へ向かいます。

 不気味な静けさのなか、時折響き渡る村人の悲鳴と断末魔。


「ぐわああああああ、た、助けてくれえええ」

「まだ、まだ死にたくないああああああああ」 ——グシャアア。



 村は血なまぐさい捕食場となり果てていました。

 状況を鑑みれば、目標に近づいているのは確かです。


「むごいことを……。ですが犠牲は仕方ありません。今は現況を叩くのに専心いたしましょう」


 呟くと、お神さまから慈悲のお声をいただきました。

「貴様は同族がやられて何とも思わぬのか?」


「あら、お弔いの言葉はかけておりますわよ。わたくしは冷静に最適な判断を下した迄でございます」


「外道な輩よ。聞いた我が間違っておったわ」


          ◇ ◆ ◇


 ——程なくそれを見つけました。

 重々しい空気。

 あ、わたくしはそんなもの気にもいたしませんが。


「あなた、ここで何をしていますの?」


 威圧的な声で問いかけます。

 ……答えはありません。

 見れば、何かをむさぼり食う背中がありました。

 どうやら傍若無人なお方のようで。


「なんとか答えたらどうですか!」


 すると、ゆっくりとこちらに頭をひねり、次第にその姿が露わになりました。

 頭に生えた羊のような形状の角、長く鋭い爪、青白く不気味な顔。少年のように見えますが違います。背中には蝙蝠のような羽。——そう、魔族です。


「……やあ、君、食事の邪魔をするなんて失礼な人だね」


 ふん、このわたくしを前になんたる無礼な態度。

 まあいいですわ、無礼な輩の相手をするのは慣れてきたところですの。


「あなた、この村をこんなにしてどうするおつもりで?」


「これは僕に割り当てられたお仕事なんだよ〜。ぼくは真面目に働いているだけさ」


 冷静な語り口の魔物は続けました。

 蛇のような目を、ぎょろりと見開いて言います。


「勤勉な労働者の邪魔をするなんてひどいと思わないのかい?」


「仕事? 腹を空かせて食っているだけじゃないですの」

 何を、とは言いたくないですわね。


「ちがうよ、もうすぐ魔王様が復活される。だから僕は魂を献上しなくちゃいけない。サボったりすれば、僕だって魔王様に消されちゃうんだからね」


「魔王が復活?」


 小声で問いかけます。

「お神様、どういうことですの?」


「わからぬ。だが先の戦いで魔王を討ち滅ぼしたのは確かだ。この目でしかと見たのだからな。ところで貴様よ、言の葉を発するものは高位の魔族、気を引き締めてかかるのだぞ」


「そんな危なっかしい奴が相手なのですか! いくら契約上の成り行きとはいえ嫌です。厄介ごとは御免ですわ! だいたいあなた様は魔剣なのでしょう、なんとかしてください!」


「……。」

 きーっ! だんまりを決め込むなんてむかつくヤローですこと。


 慌てふためく私を前に、魔族は冷たい視線を向けます。


「そろそろお喋りも終わりにしなきゃねえ〜。まだまだ沢山仕事が残ってるんだよ。フヒヒ、ヒヒヒ」


 勤勉で熱心な働き者のようです。

 再開されます。人を狩る業務が。


 ——ギィィイン!

 両爪の一撃を受け止めます。


「これは驚いた。僕の一撃で砕けない剣なんて久しぶりに見たよ」


 これ見よがしに笑みを浮かべる魔族。ですが……。

 わたくしも思わず口元が緩みました。


 だって、可笑しいのですから。


「軽い」


「!?」


「フフっ、あなた、甘く見すぎですわ」


「なんだって?」


「この剣の素性も知らずに対峙するなど笑止。己が愚であると知りなさい!」


 弾き返し、更に踏み込んで一撃。

 軽い。魔族の両腕は宙を舞いました。


「な、ありえない! 僕の腕が!」


「ありえますわ」

 汚らわしい血を振り落とし、その赤黒い刀身をかざしました。


「……魔剣レヴァンタイン」


「まさか! 君が何故それを!?」


「何故って、わたくしの方が聞きたい位です。まったく余計な手間を取らせてくれましたわね。さ、死して地獄で後悔するといいですわ」


 剣を一振りして、ビシッと見栄を切るわたくし。

 さっきは格好悪いポーズをとらされましたから、ただじゃ置かねえです。

 ——と、思っておりましたが一筋縄にはいかないみたい。


「フヒヒ……。小娘と思って甘く見ていたようだね。だがこれならどうだい?」


 ——気づいた時には霧が渦を巻いておりました。

 標的を見失った次の瞬間、耳鳴りと目眩が。

 濃い霧の中から声がします。


「地獄で後悔するのは君の方さ。良い夢を見ると良いよ」


「くっ、何をするつもりですの?」


「完全に飛んだ後、あいつらと同じ目に遭わせてやる。フヒヒ」


 意識が遠のいていきます——。



 【次回:夢の中で悪役令嬢の過去が明らかに?】


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ