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「善行縛りってなんですの!?」ですわっ!


 声の主は語りかけてきました。


「貴様か——我を目覚めさせたのは」

 わりとイケボ。

 真面目そうな口調の声がどこからともなく響き渡ります。


「頭の中で声が? どういうことですの?」


「我が名は聖剣の神アーレス。だが今は魔剣の神というのが正しいか」


「……よくわかりませんが」


 ちょっと自分で神とか言うの止めてほしいですわね。

 精神年齢おいくつですか? と。

 普段愛らしい笑顔を振りまいている私ですら心なしかいぶかしげな口調になっちゃいますですわ。困っちゃいます。


「我が刀身を振るった愚か者たちのせいで、我は魔剣の神に堕とされたのだ。全くもってファッキンな者共よ」


「ふぁ、ファッキン??」


 イケボで厨二病の上に性格わっる!

 どういうミスマッチでしょうかね。

 戸惑いを隠せませんでしたが、精神攻撃はまだ続きます。やめてくださいまし!


「貴様、これまで散々悪事を働いてきたようだな。だが、今後一切悪事を働くことは禁止する。これからは気持ちを改めて善行のみを行うのだ、でなければ貴様の命は無きものと思え」


 唐突に偉そうに、何を言うのかこのなまくら刀め。

 さっきまで石ころに挟まってただけのくせに!


「まあ? 慇懃無礼も甚だしいですこと。わたくしは富も地位も美貌も全て備えもった高貴なる存在。誰の指図もうけませ…ん、こ、と…よ……ぐえぇ」


 気づいた時には意識は遠くなり、口からよだれが垂れていました。

 ——お花畑を垣間見ました。

 ですが、もってかれるわけにはいきませんことよ!


「おおおおおおおおおおおおおおおおお、わたくしはああああああああ!!」

「っく! はあ、はあ、はあ」

 何とか命からがら現実世界に戻って参りました。

 もうLPが半分ほど削られた気分でした。ババアだったら絶命必死でしたわね。


「なに、貴様! 戻ってこられたと言うのか?」


「な、何したですか……うう……」

 人に造られただけのたかだか鉄の塊めが。許せません。廃棄しちゃる!


「契約に背いたことで魔剣の呪縛が発動した。すまぬが我にも止められぬのだ」

 わりとしょんぼりとした口調になったイケボでした。


「まさか引っこ抜いたら契約っていうのでは無いですわよね?」


「そうだが?」


「勝手に契約してんじゃねえです! 解除だ! 解除おおおお!」

 

 剣をへし折る勢いで断固拒否です!

 わたくしはそんなこと一ミリも希望しておりませんわ!


「そう簡単にできるものではない。見てみよ」


 ふと手元に目線を落とすと、

 刀身に刻まれたルーン文字が紫色に光りました。

 なになに——。

 はぁ??


 『予約・購入後キャンセル不可』


 なぜか文字が読めてしまうわたくし。これ、魔剣の力なのです?


「てか! もっと格好良い呪文とかじゃなかったのこれぇ!!」

 一方的に売りつけられました。悪徳商法の類いでしょこれ?

 

「だが悪の誘惑に耐えるなどと、貴様も悪人の類であったか。これまでしてきた愚行の数々、その軽々しい命を積んだとて贖罪できるとは言い切れぬな」


「よくお分かりですこと。確かにこれまで領民をゴミか虫ケラのように扱って参りましたわ。アハハハ!」


「なんという俗物であろうか。自ら高貴などとのたまっておきながら、到底聞き入れられぬ人格よ。貴様、これからは善き人間として生きることを誓え。でなければ命は無いぞ」


「うぐっ……。わ、わかりましたわ。この若さで早死にするなどたまったものではありません。あなたの言うことを聞きましょう」


「物分かりが良いところだけは褒めてやろう。そして喜べ、悪いことばかりではないのだぞ、我が刀身を振るうことを許可するのだからな〜。ファファファ」


「そ、それは光栄なことですわね」

 面倒な男ですこと、適当に話を合わせます。


「今後は悪事を働くことは一切禁ずる。善行のみを重ねよ。そのおこないによって我が聖剣に昇華された時、貴様の命は解放されるであろう」


「なんだかわかりませんが、言う通りにいたします。早く楽にしていただきたいもんですわね」


「我としても一刻も早くこの酷い姿を脱したいのでな、悪いようにはせん。ウイーンウイーンの関係で期待しておるぞ」

 なんだか満足げな口調でそう言い残すと、イケボの声は遠くにいってしまいました。

 ……win-winと言いたかったのでしょうかね。


 そして、剣は赤黒く色を変えました。先ほどまでの輝きとは真逆のなんと不気味な色でしょうか。どうせなら白く美しい刀身のほうがこのわたくしには相応しいとも思いました。

 抜いてもらうまで猫かぶっていやがった。姑息で狡猾なヤローです。


                 ◇ ◆ ◇


 長話をしていた間、不思議と時間が止まっていたようでした。

 余興の続きに戻るとしましょう。


「この魔剣、わたくしが振るうにふさわしいと見えます。良きでございます、このわたくし、カトレア・カトリアーヌが貰い受けましょう!」


 ビシッと魔剣を振りかざし、かっこいいポーズで決めちゃいました。

 やだ、なんてお美しいわたくし。


「な、なんとカトレア嬢が? 素晴らしいです! 魔剣を抜いたのはカトレア嬢でございます、皆様盛大な拍手を!」

「うおおおおおお! すごいぞおおおおおお!」

「勇者様の誕生だ〜!!」

「写真だ、記念写真をとるぞおおおおおお!」


 舞踏会は熱狂的に盛り上がりました。ですが、私の心はもはや上の空でございましたわ。


 こんなことなら来るんではありませんでした。ひゃう。どっと疲れが〜。



【次回:人をゴミ扱いしてきた悪役令嬢は善行を重ねる旅に出る!】



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