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9.選考レース

 

 魔術クラブを後にして、クラブ棟三階の、他のクラブにも回ってみた。

 魔道具クラブや錬金術クラブなど興味深いものも多かったけど、なんだか集中できてないなって感じた。


「少し休みますか」

 目ざといマッキー様は、すかさず休憩を促してくださった。ちょうどベンチがあったので一休みすることにした。


「先程のパトリシア様のお話が気になっているのですよね」

「ええ。少し考えることが多くて」


 怪しげな組織や、教会の動きも気になるけれど。

 パトリシア様に、ずいぶん先を行かれてしまったなあって。

 貢献度についても積極的に動いているし、魔法についても、クラブの研究でさらに引き離されてしまうでしょうね。


 候補生には、一学年上にもうひとかたいらっしゃるのだけれど、そちらも違った方面で敵わない方だ。それに加え、新たに候補生になった聖女レネ様はそもそもヒロインだし。この選考レース、私の立場は結構厳しい状況になっていると、改めて思い知らされた。


 もちろん私にも強みはある。成績は上位をキープしているし、孤児院の慰問では私が一番頻度が高い。それに、最終的には原作知識がある。それを利用して上手く立ち回れば大いに挽回できるだろう。でも、真剣に頑張っている他の方々に対して、少し姑息な気がして使う気になれないのだ。


 この選考レースにおいて評価されるのは、主に社交、美麗、学力、魔力、貢献度が査定の対象となっている。


 社交は、まだデビュタント前なので大きな成果にはならないが、それでもお茶会などで交友関係を構築することは必須だ。こちらは前世を思い出したことが逆効果になっている。もともと里奈は社交的ではなかったし、この世界の常識やリズリーの世代とはズレているため、積極的になれないのだ。なので、社交はサポート役であるマッキー様に丸投げして助けてもらっている状況だ。


 美麗は、もともとの顔の造形の良し悪しもあるが、それよりも化粧の技術やスキンケア、身に纏う衣装、健康の維持管理などに大きく左右される。申し訳ないが、こちらはバッチリ前世知識を活用させてもらっている。スキンケアの方法や生活習慣、食事の栄養バランスなどは、前世を思い出したその日に直ちに改善した。ただ、それで大幅に変わったわけではなく、もともとが公爵家として質の高いものを与えてもらっていたし、侍女たちの技術も一流だ。それらと前世の記憶を組み合わせて、現状で最適なところまで美容のノウハウを高められたと思う。それでやっと、他の候補生たちと比べてもらえるかどうか、というくらい相手は強敵なのだ。


 学力はまあ、がっつり前世の影響を受けている。切り離せないから仕方ないけれど、そもそも前世を思い出す前からリズリーちゃんは優秀なのだ。なんとかここで頑張っていきたい。といってもトゥーリ様に負けているんだけどね。


 魔力は、もうパトリシア様の独壇場だ。あと聖女レネ様も将来的にそれに匹敵する魔力に成長する。たしかパトリシア様が、オーンハウル殿下のルートの悪役令嬢だ。レネ様がオーンハウル殿下のルートに進めば、終盤二人の対決があるはず。……なんだけど、パトリシア様の様子を見る限り、オーンハウル殿下にはほとんど興味がなさそうなんだよなあ。ちょくちょく原作と違っているのは何なんだろう。

 それはともかく、魔力については私もそれなりに多い方なので、引き離されないようには頑張っていきたい。あと、原作知識を使えば、魔力を増幅させるアイテムなんかもあるけど、使うかどうかは悩みどころだな。


 そして貢献度。色んな分野で王国に貢献することで評価される。これはおそらくレネ様が有利。すでに聖女としての活動で怪我人を癒やしたり、結界を張ったりと活躍しているそうだ。聖女じゃない私達は、孤児院の慰問などの慈善活動ね。あとは大きな事件を解決したり、デビュタント後の外交などが評価される。


 この中で、もっとも効果が大きいのは貢献度。現プリンセスロードのキャサリン様も、当時は敵国だった隣国のラースロー帝国と戦時中で、停戦協定を結ぶ時に一役買っている。この時の功績が大きく評価され、プリンセスロード就任の決め手にもなっているといわれているんだ。


 この貢献度、実は原作知識を活用して大きく稼ぐことができる。ただ、それらはいずれレネ様が取得するはずの成果なのだ。それを横取りするのは気が引けるんだよね。そもそも何故知ってるのって聞かれたら答えようがないし。

 いや、一つだけ、使えるものがあった。それはもともと原作でもリズリーが達成することなので、逡巡する必要がない。ヒロインのレネ様がアレクシス殿下ルートに進んだときに、リズリーが有利に立つためのものだ。つまりそれを使うということは、レネ様が、アレクシス殿下ルートに入ることを意味するのだ――。


 ふと顔を上げると、マッキー様が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。ちょっと考え事をしすぎたようね。

「もうそろそろ日が暮れてくる頃ですね。今日はもう終わりにしますか?」

「そうね、あと少しなのだけれど」

 クラブ棟の廊下の奥を見ると、残るクラブはあとひとつ、一番奥にある、薬学クラブだけだった。

 たしか、薬草やポーションなどに関連したクラブだ。それも面白そうだけれど、もうタイムリミットだ。

「また後日にして、今日は帰りましょう」


 そういえばアレクシス殿下はどのクラブに入ってるのだろう、そんなことを考えながら、クラブ棟を後にした。



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