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6.クラス分け

 

 入学式の後、私たち新入生はそれぞれのクラスへ向かうことになった。

 私は一年D組で、幸いなことにトゥーリ様、マッキー様と同じクラスになれた。ゲームでD組なのは知っていたけど、お二人と同じクラスかは分からなかったんだ。クラス分けは成績順でも爵位順でもないが、それでも派閥やバランスなどが考慮され、知人や仲の良い人が集まりやすくなるようにされているみたい。ちらほらと顔見知りの令嬢がいて安心だ。

 なんとこの世界の学園では、クラスが男子ごと、女子ごとに分かれているんだ。それでいいのか乙女ゲームよ。席替えやグループ分けのドキドキイベントを丸ごとスポイルすることになるんだが?


 ゲームではアレクシス殿下がA組、ヒロインのレネ・アーデン様がF組で、主要キャラとは分かれている。そしてもう一人、同い年のプリンセスロード候補生がB組にいる。


 そういえば、入学式からクラスへ向かうときに最初の出会いイベントがあったはずだ。

 広い校舎で迷子になったヒロインが、アレクシス殿下と出会い案内してもらう。今頃は二人でクラスに向かっている頃だろうか。

 だから、アレクシス殿下はここには来ないはず……なのに。


「リズリー嬢! 倒れたと聞いたが、大丈夫なのか!」


 なぜかアレクシス殿下がDクラスの扉を開いて現れた。

 驚いて立ち上がると、アレクシス殿下は私を見つけてホッとしたように微笑んだ。どうしてアレクシス殿下が……?


「あのう、殿下……。私のことを心配して来ていただいたのですか?」


 アレクシス殿下とは、プリンセスロード候補生になってから正式に顔合わせをした。それからは何度か公務でお会いしたけれど、実務的な会話を少ししたくらいだ。個人的な付き合いがあるわけではなかった。それなのに、アレクシス殿下は駆けつけてくださっんだ。そのことが、じんわりと温かい気持ちになって……。


「あ、いや……うん。報告を受けて急いで来てしまったが、お元気そうで、よかった」

「ご心配をおかけしました。このとおり、少し立ち眩みがしただけで、その、特に異常はありませんでしたわ」

「無事ならいいんだ。騒がせてしまったね」


 あ、あれ? おかしいな。何だか顔が火照ってきたぞ? もしかして倒れた影響で、熱でも出たのだろうか。アレクシス殿下も何だか顔を赤らめて、気まずそうにそらした顔を、手でパタパタと煽っている。

 春の陽気で教室に熱がこもっているのかしら、と見回すと、何だか教室の令嬢たちから生暖かい視線を感じる。


「それではリズリー嬢、無理はしないで。お大事に」

 アレクシス殿下は名残惜しそうに私の髪に軽く触れ、教室から立ち去った。同時にクラスの令嬢たちから、ほぅ、というため息とキラキラした視線が飛んできた。た、確かに令嬢たちが期待するシチュエーションだったかもしれない。でも、アレクシス殿下が特別お優しい方なので、顔見知りの私を気遣ってくださっただけなんですわ。それでも、聞いてすぐ駆けつけてくださったことに思い至って、何だか胸のあたりがぽかぽかして。少しの間、さっきまでアレクシス殿下が立っていたところを見つめ続けた。


 その後、お茶会大好きなマッキー様から聞いたのだけれど、令嬢たちの間で、今一番の話題が私達のことなんだそうだ。

 三人の王子たちは未だ婚約者が決まっていない。そして、プリンセスロード候補生もちょうど三人。ちょうどピッタリじゃない! と。それはもう決定事項のようなもので、あとは誰と誰が結ばれるのか? というのが旬のトピックらしい。――そう、昨日までは。


 つい先程、そのバランスが崩れた。


 聖女が新たに候補生に加わったことにより、王子三人に対して、候補生が四人。候補生の中から一人、あぶれることになる。

 そもそも、貴族令嬢は学園在籍中に婚約者が決まることがほとんどだ。しかし、プリンセスロード候補生でいる間は婚約者を決めることができない。正確には決めること自体はできるのだが、選考レースにおいて大幅に遅れを取ることにつながってしまうんだ。つまり卒業までにプリンセスロードが決まらない場合、四人のうちの少なくとも一人が、婚約者がいないまま学園卒業という憂き目に合うということだ。そしてそれは、貴族令嬢として大きな瑕疵となってしまうのだ。


 これからのお茶会は荒れますよ、とマッキー様はやや興奮気味に教えてくださった。私もトゥーリ様も社交は得意な方ではないので、こういった情報収集はマッキー様にほとんど任せっきりになっている。それならと、マッキー様にはお茶会で今後の聖女の評判について調べるようお願いした。あんな発表があったのだから、レネ・アーデン様は針の筵のようになっているんじゃないかしら、と気になっていたんだ。


 聖女が新たに候補生になったことは、私たち元からの候補生には衝撃的な出来事だ。だからといって、騒ぎ立てたり王宮に問い合わせしたりなどという行動は、おそらくは減点対象になる。プリンセスロードたるもの、どんな相手が来ようと動じないものなのだ。どんと構えて迎え撃ってやろう。


 聖女といえば、アレクシス殿下との出会いイベントはどうなったのだろう? 殿下が急いでこちらに駆けつけたということは、イベントは起こってない、よね? 悪いことしちゃったかな。いや、破滅ルートを避けるにはこれでよかったのかもしれない。


 実際のところ、前世での『プリ乙』の里奈の推しは、アレクシス殿下なのだ。ちょっと頼りないけど頑張り屋で、優しく微笑んだスチルにハートを撃ち抜かれたんだ。

 とはいえ、それは主人公レネ・アーデンの視点から見たアレクシス殿下であって、リズリーと相対したときのアレクシス殿下がどうなるのか、前世に気付いてからずっと不安だった。


 少なくとも今現在は嫌われてないみたい、だけど。

 聖女レネ・アーデンに対するモヤモヤした感情は、確かにある。

 この感情が今後もし表に出てきて、聖女に当たるようになってしまったら、さっきみたいにアレクシス殿下は私のことを心配してくれるだろうか?

 これからどうすればいいのか解らなくなってきた。王子たちや聖女を避ければいいのか、それとも積極的に関わって、嫌われないように仲を深めていくべきなのか。一歩間違えれば破滅につながる、この世界。不安に胸が押しつぶされそうになって……。


「ふふん。私はもうとっくに決めてますわ」

「え~。私は二つまで絞り込んだけど、どっちにしようかなあ。あっ、リズリー様は決まりましたか?」


 耳馴染みの楽しそうな声に話しかけられて、意識が現実に戻ってきた。

 眼の前で、トゥーリ様とマッキー様が、くりん、とした瞳で私の返事を待っている。


 ああ――。そうよ、ここはゲームの作り物の世界ではないし、彼女たちは物語のキャラクターではなく、今を生きている、『人』だ。上手くゲームを進めよう、なんて考えるんじゃない。リズリー・アマンダルムとしての生を、学園生活を過ごしていこう。ただまっすぐ、リズリーとして生きる道を。その結果がどうあれ、自分の選んだ道なのだから、後悔しないように全力で。


「ところで、何のお話でしたの?」

「もう、聞いてなかったのですか? 放課後のクラブ活動ですよ!」



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