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37.ミング子爵領へ

 

 王子殿下がいきなり予定を空けられるわけもなく、ミング子爵領へは、夏季休暇の中頃に訪問することに決まった。


 それまでにいろいろなことがあった。

 一つは、夏季休暇前の学期末試験の結果発表だ。


 一年生の上位三名は変わらず、一位トゥーリ様、二位私、三位アレク様。王宮での教育を終えたレネ様は五位に上がった。そしてパトリシア様は少し順位を落として六位。魔法訓練にかなりの時間を割いているようだ。そしてマッキー様がなんと九位に上がってきた。賢姫の側仕えとして恥ずかしくない成績を残したいと、ひたむきに努力してくれたのだ。胸が熱くなるわ。


 究導会はあの襲撃のあとも次々と魔術を発表し、世間に浸透させていった。王宮の喧伝では使用を非推奨とし、学園でも授業に取り入れることはなかったが、それでも生徒たちはじわじわと手を出していくようになった。


 それと夏季休暇に入る直前、究導会に関する新たな情報がもたらされた。十年前に組織に加入し、変革をもたらした優秀な人物。その正体だ。


 ――ルーベラ・トロアーバ侯爵令嬢。


 王立魔法学会で行われた発表会に堂々と出席し、自らその名を明らかにしたのだ。魔法学会においてその名を知っていた者は多い。十年前、ウエストパレス学園に天才と呼ばれる女生徒が入学した。彼女は魔力量こそ平凡だったが、卓越した魔法技術で瞬く間に世間に知れ渡った――が、ほんの二ヶ月ほど在籍しただけで学園を去った。

 そのまま世間からは忘れられていったのだが、十年の時を経て、究導会の代表として再び表舞台に戻ってきたのだ。


 現在、当時の学園に在籍していた生徒などに聞き取りを行い、ルーベラ・トロアーバの足跡を調査しているところだそうだ。トロアーバ侯爵家からは除籍されていないものの、ほぼ勘当に近い扱いで、交流は全く無い。トロアーバ侯爵家といえば、100年前の聖女の家系である。


 偶然でしょうけれど、私たちがちょうど100年前の聖女について調べていたところにこの知らせを聞いたものだから、驚いたわ。また何か続報があればすぐに知らせてもらえるでしょうから、それまでは静観ね。私は私で、やるべきことを堅実にやるだけだわ。


 というわけで、ミング子爵領へ向かう日がやってきた。

 事前にモニカ様にお願いし、期間中は子爵邸に滞在させていただくことになっている。アレク様は王国中を忙しく回っておられるので、別ルートで向かい、現地で合流だ。もしかしたら道中の馬車でご一緒できるかな、なんて期待していたけれど、ちょっとだけ、残念。


 長い旅路で退屈しないようにと、馬車の中には大量の本がトゥーリ様によって持ち込まれていた。揺れる馬車の中で読書なんて、すぐに乗り物酔いで気持ち悪くなるだろうと思っていたけれど。そう、彼女がいるのよね。地属性魔法のスペシャリスト、マッキー様。振動耐性の防御魔法を常時展開して、馬車の中でゆったり読書しても大丈夫にしてもらえたのだ。どうしよう、うちの子たち、優秀すぎる……!


「あら、マッキー様がお読みになっている本……あっ!」


「ふー。難解すぎますよお。これをお二人は十歳の頃に読んでたんですか。すごいです!」


 それはトゥーリ様と初めてお会いした日に彼女がお読みになっていた、テセーナ夫人の手記だ。夫人がプリンセスロード候補生時代の経験を元に書き記したもので、私の人生の指針にも影響を与えてくれた思い出深い書物なんだ。まさかその後、私たちの教育係になっていただけるとは思いもよらなかったけどね。マッキー様も、当時の話を聞いて読んでみようと思ったらしい。


「テセーナ夫人もミング子爵領に訪れていたみたいですねー」

 マッキー様が手記を読みながら呟いた。そういえばそんな記述もあったな。ブライトストーン絡みではなく、単に先の聖女の足跡を辿る旅行での出来事を綴ったものだ。ミング山脈の自然や歴史に触れて感銘を受けた、といった内容だったか。『プリ乙』でもミング山脈のグラフィックは力が入っていて、すごく美麗だったなあ。これから訪れる目的地に思いを馳せ、俄然楽しみになってきた。


 道中、稀にだが魔物に出くわすこともある。事前にトゥーリ様が警告してくれるので、出会った瞬間に手早く退治していく。おかげで大した問題も起きずにミング子爵領までやってくることができた。


 領都まであと半日くらいかというところまで来たとき、トゥーリ様が警戒を呼びかけた。


「魔物、のようですが、どうやら馬車を襲ってるみたいですねえ」


 三人ともすぐに読書を中断し、御者に指示してそちらへ向かいながら準備を整える。現場が見えてきた頃には、魔物の種類や数、襲われている人数などはトゥーリ様の探知ですでに把握できていた。魔物はゴブリン八体。襲われているのは馬車に二人、護衛らしき戦っているのが二人だ。護衛の人はゴブリンに遅れを取っているわけではないが、相手の数が多くて手間取ってるみたい。


 助けに入ったほうがいいだろうということで、サクッとアイスジャベリンで三体ほどまとめて貫く。だけど混戦状態になってるから、規模の大きい魔法はもう使えない。


 ああ、こういう時究導会の連射魔術があれば便利かもなあって考えてたら、なんかできそうな気がしてきた。アイスアローを三本ほどポンポンっと放ってみる。シエル様ほど早くはないけれど、かろうじて連射といえる位の速度で撃つことができた。やってみるものだなあ。


 アイスアローはゴブリン三体に突き刺さり、残りは二体。護衛の人たちが楽々処理して、無事乗り切った。

「いやあ、助かった。すごい魔法ですね!」

 彼らにはすごく感謝された。馬車に乗っていた人は御者と、背の高い神父様だ。

「今の魔法は、究導会の魔術ですか!?」

 神父様がすごい勢いで食いついてきたのだが……お互い顔を合わせた時に知り合いだと気づいた。


 彼は――レネ様の後見人の、マナウ神父だ。


 話を聞くと、レネ様が夏季休暇中であることを利用して、ミング子爵領にいる知人の神父に会いに来たとか。マナウ神父も私たちのことは知っていて、お礼を言いつつ、一言だけ忠告をしていった。


「究導会の魔術は、使わないほうがいいと思いますよ」


 うーん、彼も究導会には疑問を抱いている側の人なのか。


 神父たちと別れてミング子爵邸に向かう。馬車内ではトゥーリ様が難しい顔をしていた。

「あいかわらずリズリー様の魔法はよくわかりませんねえ。究導会のものとは違うようですが」

 私の魔法が変だとはよく言われるが、トゥーリ様にもそう思われてたんだ。


 ミング子爵領の領都は王都と比べるとこじんまりとしているものの、人々には活気があり楽しげだ。もうすぐ夕暮れだけど、屋台などもたくさん出ていてまだまだ賑わっている。きっと領主のミング子爵が上手く治めているのだろうな。



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