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3.側仕え

 

 半年がかりの二次選考が終わったときには、残ったのは私を含めて三名だけだった。


 選考会の初日の賑わいを思い出して、ちょっとさみしくなった。

 それでも二次選考を通過したのが三人もいるというのは、通常の選考会よりも多いんだって。一人も残らないことも多く、大抵は一人か二人残ればいい方らしい。

 そしてこの二次選考を乗り越えた私達三名は、そのままプリンセスロード候補生と呼ばれる立場になる。


 お父様もお母様もびっくりしてた。まさか残るなんて思ってなかったみたい。屋敷に帰ったら盛大にお祝いをしてくれたわ。両親や使用人たちだけでなく、お母様の実家のご家族や、付き合いのある近隣の家からも駆けつけてきてくれた。それほどプリンセスロードの候補生になるってことはすごいことなんだって。たくさんの祝いの言葉をいただいて、私は感極まって号泣してしまったわ。王宮のマナーの先生に見つかったら大目玉を食らうでしょうけど、今日くらいは許してね。


「よくやったな、リズリー!」

 従兄弟のジーマ・リッチヒルも祝福してくれた。やや小太りでお調子者の彼も、嬉しそうにしている。兄ぶって、がははと笑いながら私の頭を撫でようとしてきたけど、私と同い年だからね。ひょいっと避けて、ぷよっとしたお腹に軽くパンチを入れてやった。

「次はあなたの番よ。王子の護衛騎士になりたいんでしょう? そんなお腹で大丈夫なの?」

 へへっ、と鼻の下を擦って笑いながら、体重を増やして体を大きくするんだ、なんて言い訳をしてたわ。本当に大丈夫かしら。


 ***


 候補生となった私達三名は、王都の外れにあるハイサンド大聖堂に集合した。


 ハイサンド大聖堂は、王都近郊では最も大きな教会の施設で、天井高くまでキラキラしたステンドグラスが輝いてとても神秘的に感じた。

 ここでプリンセスロード候補生就任の儀式が行われる。この儀式で神の祝福を受ることによって、正式に候補生に指名されるのだ。


 大聖堂内にはとても大きな女神像があった。神官や聖騎士たちがずらりと並び、司教のありがたいお言葉を頂戴した。私たちは女神像の前で跪き、祈りを捧げる。

 とても長い時間そうしていたような気がする。まだかな~、と少し目を開けてみた。すると、女神像の胸元が少し煌めいた気がした。――なんだろう、と目を凝らして見ようとしたが、同行していたマナーの先生の咳払いが聞こえ、慌ててお祈りのポーズに戻った。


祈りが終わると、すぐ大聖堂から退出を促されてしまった。最後にちらっと女神像を見たが特に変わりもなく、気になりながらも大聖堂を後にした。


 大聖堂内でも王宮へ戻る馬車の中でも、私達三人は一言も言葉を交わさなかったわ。といっても、バチバチにライバル意識を燃やしているわけじゃない。彼女たちとはもう半年も一緒に過ごしたんだもの。語るべきことはだいたい語り合った。もちろんライバルでもあるけれど、同じ試練をくぐり抜けた仲間意識の方が強かったんだ。そんな三人を乗せた馬車は、ゆっくりと王宮の敷地へと入っていった。


 王宮に戻ってきて、今後の説明を受けた。儀式を終え正式にプリンセスロード候補生となった私達は、その後のスケジュールもぎっしり詰まっている。


 まず、孤児院の視察やボランティアなどの公務をこなさなければならなくなった。その上、引き続き王宮の教育も行われる。15歳になって学園に通うまでの間にするべきことは山積みだ。そして学園に入学してからも、生徒たちの代表としての振る舞いを求められるし、貴族の義務の一環として魔法を学び、魔物退治へも率先して赴かなければならない。それにデビュタントが終われば外交での来賓対応なども入ってくる。そんな日々を過ごしながら評価を積み上げ、プリンセスロードへの道を進んでゆくことになるのだ。


 過酷だ。だけど、厳しい教育を乗り越えてきた自信と自負もある。三人はだれもうつむかなかった。


 そしてそんな私達をサポートするために、それぞれに二名ずつ側仕えが付くことになった。


 この側仕えの座を巡っても、私達の教育に負けないくらい厳しい争いがあったらしい。二次選考の日々と並行して、側仕えの教育も行われ、選抜されてきた精鋭六名の令嬢が入室し、私たちに紹介された。


 そのうちの二人。見覚えがある……!


 ほっそりとした気が強そうな黒髪の令嬢。

 印象的な瞳が愛らしいオレンジの髪の令嬢。

 なんと、そこにあの一次選考の日、同じテーブルに座っていた二人がいたのだ。


 誰の側仕えになるかは六名で希望を話し合い、すでに決定しているようで、私の前に懐かしい二人の令嬢が並んだ。


 夜空のような青みがかった黒髪に、アイオライトの瞳。

 あの人付き合いの苦手そうな本好きの令嬢は、見事なカーテシーを披露した。

「コール伯爵家長女、トゥーリ・ザ・コールです。よろしくお願いします」


 明るいオレンジの髪に、ベリルの瞳。

 マナーに不安があったあの愛らしい少女。こちらもきれいな姿勢のカーテシーだ。

「モブレット伯爵家長女、マッキー・モブレットにございます。精一杯務めさせていただきます」


 二人とも、厳しい教育を乗り越えた成長を感じさせる、堂々とした立ち姿だ。

 あの時のお二人が私を選んでくれたんだ。ずっと仲良くできればいいな。

「アマンダルム公爵家長女、リズリー・アマンダルムです。よろしくお願いしますね。トゥーリ様、マッキー様」


 それから学園入学まで、公務を通して私達は絆を深めていった。

 そして数年後、プリンセスロード選考に大きな影響を与えることになる、学園の入学の日がやってきた。



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