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29.嵐の後で

 

 ローブの男たちが去っていった後、レネ様は精力的に働いた。

 パトリシア様を回復してからも、負傷しているユージーン様とアイリス様、他の生徒たちにも回復魔法をかけていく。それに、瘴気溜まりの対処もある。事後処理で大変だが、そのおかげで聖女としてのレネ様の評判はかなり上昇しているようだ。候補生の件でまだ良くない印象を持っていた人たちも、これで変わっていくだろう。


 ぽーっとレネ様を眺めてたら、アレクシス殿下がやって来た。

「リズリー嬢は怪我はない?」

 私がレネ様を見ていたから治療待ちだと思ったのかな?


「ええ。アレクシス殿下が来てくださったので私は無傷ですわ。そういえば、あの魔法陣は一体……?」

 まさかアレクシス殿下は転移魔法を使えるのだろうか?

「あれは実はミエセスの魔法なんだ」


 アレクシス殿下によると、王宮で知らせを受け取った時、すぐにオーンハウル殿下が騎士たちを連れて学園に向かったらしい。ちょうどミエセス殿下も王宮にいたので事情を説明すると、すぐに聖女レネを連れて行ったほうがいいということになった。最も早く学園に着く手段が転移魔法だったんだけど、そう簡単にはいかない。目的地に転移するには、学園側から座標指定を送って、連結(パス)を繋げなければならないそうだ。誰かが先行して学園に行くことを検討していたら、学園から、なんとなく繋がるような魔力の気配が漂ってきた。それをなんとか手繰り寄せて連結(パス)を繋いだということらしい。


「それで、私の隣に魔法陣が出現したということは……」

「ああ、君の呼ぶ声が聞こえた気がしたんだ」

 アレクシス殿下が私を見つめてそう囁いた。

 私の祈りは、無意識にアレクシス殿下へと届けていたのだろうか。やはり私は、アレクシス殿下のことを……。


「すまない、君を送っていきたいんだけどすることが山積みなんだ。気を付けて帰ってほしい」

 騎士の人がやってきてアレクシス殿下に指示を仰いでいる。魔物の処理や事情聴取など、多くの騎士たちが忙しく走り回っている。私はアレクシス殿下にお礼を言ってその場を離れた。


 ふと、パトリシア様が目の端に映ったので駆け寄って声をかけた。

 パトリシア様は目に見えて衰弱している。体は回復しているようだが、あのローブの少年との対決による悔しさは解消されていないのだろう。


「手も足も出なかったわ」

 らしくない。だけど、私には何も言えない。結局私は、この戦いでほとんど何もしていないのだ。

 あのパトリシア様が唇を噛み締めている。相当な無念さが伝わってきた。


「あいつらの魔法の、片鱗さえ、わからなかった……。何か掴んでやろうって挑んだけど、そんな余裕すら……」

 涙声でそう話すパトリシア様。


「大丈夫。きっと、――彼女がどこかで見てたはずだから」


 あなたはいくつも敵の魔法を引き出した。断じて無駄じゃない。そんな思いを込めて、パトリシア様の背中に手を添えた。


 気付いたら、あたりはすっかり夜に包まれていた。


 ***


「ふー。怖かったあ」


 周囲の宵闇に紛れ、私は頃合いかと思って覚えたばかりの不可視(インビジブル)の魔法を解いた。

 この魔法はトゥーリ様に究導会の魔法を覚えることを止められた時、代わりに役立つ魔法はないかと思って習得したものだ。使うと自身と手を繋いだ人を、他者から目に見えなくすることができる。魔力探知にも捉えられない優れものだ。だけど使い所は限られている。その場から動くことはできないし、声を出したり大きな動作をしても魔法が解けてしまうのだ。


「マッキー様が覚えた魔法は、思った以上に便利ですねえ」

 手を繋いだトゥーリ様にも満足してもらえたようだ。


 私たち二人は、戦いの場からそこそこ近い位置で様子を見ていた。

 関わっていっても私たち程度では何もできないし、かえって足手まといになるだけだ。自分たちでできることをやろうとトゥーリ様と話し合って、できるだけ近くで情報収集することにしたんだ。


「おかげで究導会の魔法の詠唱をごっそり頂きましたよ」

 トゥーリ様が悪い顔でほくそ笑む。見なかったことにして、リズリー様と合流しましょうと歩き出すが、がっと腕を掴まれる。


「何を言ってるですか。次にいつまた究導会が襲ってくるかわからないのですよ。すぐに分析に取り掛からないと。手伝ってくださいまし」

 トゥーリ様に引きずられて、学園を後にする私たち。ああ、徹夜の日々が始まる……。


 ***


 後日、シエル様とアリー様が生徒会に呼び出され、査問を受けた。

 あの戦いの場で、彼女たちと究導会との間に関わりがあることが露見したためだ。二人は何も隠し立てすることなく、知りうるすべてを話したらしい。


 学園のサロンで、パトリシア様から詳細を聞いた。

 ちなみに、この場にはレネ様と、アイリス様の代理のナターシャ様もいる。トゥーリ様とマッキー様は色々忙しくしているようでこの場にはいない。


 わかったことは、まずあの瘴気溜まりだが、究導会の少年が魔法で発生させたもので間違いないようだ。究導会には学園の卒業生も多く所属しているので、警備体制や学園内の構造なども知られていて不思議はない。だが、少年はオーンハウル殿下やミエセス殿下が不在であることを知っている様子だった。


 内通者として疑われたのが、あの二人だということだ。


「彼女たちと知り合ってまだ日が浅いですが、私はシエル様とアリー様を信じたいと思います」

 レネ様は随分二人に気を許しているみたい。あの時、彼女たちはレネ様を守ろうと究導会たちに立ち塞がっていたものね。あいつらの仲間だとは私も思っていないわ。あいつらはシエル様とアリー様のことを失敗作(ジャンク)なんて呼んでいたけれど。……そうだ、以前パトリシア様がおっしゃっていたわ。究導会は魔法研究のために、非人道的な実験をしていた、と。


「奴ら、孤児などを集めて、実験台として強制的に魔法の訓練をさせていたみたい。だけどその中に、貴族令嬢であるシエル様とアリー様もいたなんて……!」

 パトリシア様が調べようとして教会に邪魔をされた、という話だったが。

 レネ様はシエル様、アリー様とは教会から紹介を受けて知り合ったそうだ。どのような経緯で、二人は究導会から教会へ移ったのだろう。


 あの事件で、様々な問題も浮かび上がったそうだ。

 学園の警備体制の見直し、傷ついた学生のケア。

 それに、帝国大使の御子息であるユージーン様に怪我を負わせてしまったことも大きな問題になりそうだという話だ。

 アイリス様もあのレオ少年の魔法を受けたんだ。回復はしたものの、今のところはまだ安静にしていなければならないそうだ。ミエセス殿下がそれを聞いて怒り狂っているらしい。


 結局奴らの目的は何だったのか。


 それは、その後の学園の変化によって徐々に明らかになってゆく。


 学生たちは各々、事件を通して二通りの考えの間で揺れることになる。


 学園をめちゃくちゃにした究導会が許せない、という思いと。


 究導会の魔法を習得すれば、あのパトリシア・メセニを超えられるかもしれない、という誘惑の間で。



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