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27.学園襲撃3

 

 パトリシア様の手足から幾つもの火の粉が飛び散り、爆ぜる。

 詠唱が周囲の魔力を自らに引き入れていく。


加焔(アクセル)――」


 纏った魔力が一気に膨張。


「……ファイアストーム」


 静かに発したその詠唱はグラウンド全体に火の粉を撒き散らし、詠唱の穏やかさとは対象的に、先ほどと比べ物にならないほど荒れ狂ったファイアストームがパトリシア様の右腕から放たれた。


 周囲のシルバーウルフを数体巻き込みつつ、少年に襲いかかったそれは――。


 少年のローブを激しく揺らすも、あっさり霧散した。


 パトリシア様はそれを予想していたのか、意外と冷静だ。

「いいローブですわね。そのダッサい紋章さえ無ければだけど」


 魔道具の類か。魔法耐性が著しく高い素材でできているようだ。

 なんて見てる場合じゃない。まだあちこちに狼の魔物がいる。私もファイアジャベリンをぶっ放す。


 しかしさっきのパトリシア様の魔法いいな――こうかな。加焔(アクセル)――お、なんかできそうだぞ……っと、パトリシア様がしきりにハンドサインを送ってくる。これも駄目なの? しかたなく普通のファイアジャベリンで我慢する。


 学園の先生方もようやく事態に気がついて駆けつけてきた。怪我人の救助をしてくださるようなのでお任せしよう。

 さすがにパトリシア様と少年に割り込むことには躊躇している。先生方は魔法理論や育成には詳しくても魔力そのものは一般的だから仕方ないわ。でも、救助要請は出してるだろうから、あとは時間の問題だ。


 再び二人の戦いの場へ目を向けると、ちょうどパトリシア様の切り札が発動したところだ。


「――豪炎の緋剣(フランベルジェ)


 炎の魔剣はさらに収縮し、凄まじい圧力を維持した細剣(レイピア)と化す。


「やあっ!」


 パトリシア様は暴れんばかりのそれを少年へ刺突。少年のローブをやすやすと弾き飛ばす!

 すごい。あのローブを物ともしないなんて!


 少年はとっさに障壁を張ったようだが、その障壁も粉微塵にし、剣先は胸元へ――。


 到達する寸前で、少年は引き裂くような仕草でそれを消却させた。


 今のは……、風魔法を逆流させて――真空状態にしたのか?


「ふう、まあまあ悪くないじゃん。それじゃ、次はこっちから行くよっ」


 まずい。パトリシア様は決まると思ってた魔法が防がれて、動揺から立ち直っていない。

 少年の詠唱……あれは!


「ウインドアロー」

 以前シエル様が使っていた風の矢、それも連射だ。だけど……。


「ぐううっ!」

 一体何連射だ!? パトリシア様がなんとか障壁を張るが、次から次へと飛んでくる風の矢に押されている。

 シエル様は三連射だったが、少年はすでに十連射以上放っている。いや、まだ尽きない!?


「さすがにこれくらいは防ぐか。だったらこっち――」

 少年は胸元で両手のひらを向かい合わせにして、黒く暴れる魔力の塊を膨張させている。究導会の魔法にしては詠唱が長い? あれは……ヤバッ!


宵闇の狂風(ダークネスサイクロン)


 黒い塊が渦を巻きながらパトリシア様を障壁ごと吹き飛ばした。


 なんとか体を丸め勢いに逆らわないように耐えるが、何度もバウンドし、地面に叩きつけられた。パトリシア様は立ち上がることができず、うずくまったままだ。

 これはさすがにまずいと駆け寄ろうとしたけど、シルバーウルフたちが回り込んできて邪魔をする。


「どきなさい!」

 魔法で蹴散らそうとするが、その間にもローブの少年がパトリシア様にとどめを刺そうと近寄っている。アイリス様は――向こうも手が回らないようだ。瘴気溜まりから、あの二足歩行のウェアウルフがまた出てきてる!


 私もアイリス様も間に合わないまま、少年はパトリシア様を見下ろし、振り上げた手を――。

 突如現れた赤髪の剣士が斬りかかった!


「誰だよ!? 他にも動けるやついたの?」


 少年は即座に障壁を張って防いだものの、数歩後退させられて悔しそうだ。少年とパトリシア様の間に割り込んだのは、ユージーン様だ。ずっと隙を窺っていたのだろう。ここしかない、というタイミングで登場した!


「今のを防ぐのか。少年、何者だ?」

「うるさい邪魔」


 予兆もなく瞬時に放たれたファイアバレットがユージーン様の左肩を貫く。

「ぐっ!」


 続けて撃ち込まれたが、二発目以降は肩をかばいながらも剣で弾く。なんと、もう弾筋を見切ったのか。

 だけど左肩の怪我も響いているのか反撃には出れない。


「ああもう、全部まとめてぐちゃぐちゃにしてやる!」

 面倒くさいとばかりに自棄になった少年は両手を高く掲げて魔力を込めていく。


 なんとかシルバーウルフを退けて、パトリシア様とユージーン様の前に出ていくことができた。

 全力で障壁を張るが、あの少年の魔力には……とても通用しそうにない。


「あ……あ……」

 ああ、これは駄目だ。全然魔力が足りない。


 アイリス様がウェアウルフに背を向け、こちらに走ってくる。

 パトリシア様も、うずくまったままなんとか障壁を張ろうと手を伸ばす。


 そんな私たちを嘲笑うかのような、悍ましく暴力的な魔力塊。あれを放たれたらこんな障壁なんて焼け石に水だろう……。


 誰か――誰か力を貸して、お願い――!


 そんな私の祈りなど気にも留めず、少年はとうとう全力の魔法を完成させた、その時。


 胸元のラピスラズリが急に熱を帯びた。


「――ようやく繋がった」


 私の隣に魔法陣が浮かび上がり、そこに立っていたのは。


 優しい微笑みをたたえた柔らかい金髪。その眼差しが少年を鋭く見据え――。


 胸元に光るロードナイトのペンダントを握りしめた、アレクシス殿下だった。



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