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26.学園襲撃2

 

 毒々しい瘴気の波が押し寄せ、障壁を軋ませる。


「ぐぅっ……!」


 パトリシア様がうめき声を漏らすほどのプレッシャーだ。

 延々と続くかと思われた圧力を耐え、なんとか防ぎきったものの、障壁は朽ち果てて崩れ落ちた。

 その向こうから、ロープの人物が苛ついた様子でやってくる。


「あーあーもう、こっちの作戦台無しにしちゃってさあ! 何だよ、学園に残ってるのは雑魚だけだって言ってたじゃん。今の耐えきれるヤツがいるなら言っといてよ。面倒くさいなあ!」


 想像していたより高い声。身長も男性にしては小柄なその男は、恨み言を言いつつローブのフードを跳ね上げた。

 現れたのはギラついた金髪のマッシュヘア。むくれて頬を膨らませ、ジト目でこちらを睨みつけるその顔は、どう見ても少年だ。やや幼さを残しつつも整った容姿だが、『プリ乙』に出てきたという記憶はない。


 子供に見えるけど全く油断はできない。先程から全身に鳥肌が立つくらい、危機感が突き上げてくる。


 ローブの少年はポケットから飴を取り出して口に放り込み、まるで散歩でもしているみたいに呑気に歩いてくる。ふと、私たちのうちの一人に目を留めて表情を変えた。


「あ? あんたもしかして、パトリシア・メセニか?」

 パトリシア様の方を見て、面白い玩具を見つけたように興味を示した。


「そうだけど……、あんたは一体、何?」


 ローブの少年はパトリシア様の問いには一切応えず、ジロジロと彼女を睨め回す。


「赤い髪の女、要注意リストには載ってたけどさあ。ああ? 何だ思ったより大したこと無さそうじゃん――っと!」


 炎の弾丸が少年を襲うが、予想していたように体を捻って交わす。弾丸は少年のローブを掠めて後方へ飛んでいった。

 パトリシア様が少年の隙をついて放った魔法だが、見たこと無いものだ。


「そのローブに描かれている紋章、あなた『究導会(シーカー)』ね?」


 先ほどローブを掠めた部分に、蛇と林檎をあしらったマークが描かれていた。あれが究導会の紋章か。

 近年世間を騒がせているという究導会という組織。魔法研究の分野で数十年先を行っていると評する専門家もいるらしい。あの少年が、究導会の一員?


「あのっさあ、今のファイアバレット、ウチの魔法だよね? こっちの素性知ってんなら通用するわけないって分かるでしょ」


 そう言いながら少年は左手を真横に振り、小型の障壁を複数発動させる。自身の左目、右肩、左脇腹、右太ももの位置だ。続けてパトリシア様を見据えてニタリと笑う。

「四つも詠唱待機させるなんてまあまあ使いこなせてるじゃん。射線バレバレだけどさ」


「くっ!」

 パトリシア様は左手を振り下ろし、待機させておいた詠唱を破棄する。


 今の、究導会の魔法なのか。でも通用してないようだけど……。


「それはさあ、こうやるんだよっ!」

 少年が勢いよく右手を振り上げると同時に、七発の弾丸が私たちを襲う!


 三人ともなんとか障壁を張り弾丸を反らすが。

「あーあ、そんな全力で障壁張っちゃってさあ。魔力持たないよ?」

 少年は余裕そうに左手を構えている。多分、詠唱待機が七つ……。同じ魔法がもう一度来る!


「パトリシア・メセニ。あんたの得意な魔法で来なよ。付け焼き刃の真似事なんて無駄だぜ」

 そう言いつつ、少年は惜しげもなく七つの詠唱待機を破棄した。


 それを見たパトリシア様は、怯むことなく凛とした立ち姿で一歩前へ出た。

「アイリス様、リズリー様。お下がり願えますか。彼の相手は私がします」


 無茶だ、と反論しようとしてアイリス様に止められる。冷静に、と一言だけ忠告される。

 心を落ち着けて、周囲を見る。


 先程の瘴気の影響か、瘴気溜まりが再び活性化し、シルバーウルフが増えてきている。

 そして、先輩方やナターシャ様は圧力に耐えきれず吹き飛ばされていた。重症者はいないようだが、すでに戦うどころか立ち上がることさえ困難な様子だった。彼らをシルバーウルフから守らなければならない。


「任せて。あいつは私が必ず倒す」

 そう言ってパトリシア様は背中に手をやり、私たち候補生だけに通じるハンドサインを出した。


 ――手札は伏せろ。


 全力を出すな、ということ? 了解のサインは返したけど、パトリシア様はすでにローブの少年に向き合って問いかけていた。

「ひとつだけ、お聞かせ願えるかしら?」

 少年からのいらえは無かったが、パトリシア様は気にせず続ける。

「先ほど、学園の要注意リスト、とおっしゃっておりましたが、どなたがそのリストに載っておりますの?」


 少年はそれを聞いてにやりと嘲笑を浮かべる。

「ああん? いいぜ、教えてやる。その代わりあんたの全力を見せろよな。――オーンハウル、ミエセス、レネ・アーデン、それとあんたパトリシア・メセニの四人だ」


 パトリシア様は顔を伏せ、フッと笑った。口元が、たいしたことないのね、と動いたように見えたが。


「自分がリストに載ってて嬉しかったか? さっさとおっぱじめようぜ!」

 それと同時に少年の魔力がぐんと上がる。


「ええ。このパトリシア・メセニ。全力を持ってお相手して差し上げるわ」



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