21.お出かけ1
「何の変哲もない、ごく普通の令嬢でしたわ。聖女の力を当てにして周囲が持ち上げているだけに過ぎません」
学園内にある、生徒会長専用の執務室。本日は、生徒会長のオーンハウル殿下に指示されていた聖女の調査について、報告に来たのだ。
「聖女としての活動も、教会の方から指示が出て、その通りに動いているだけのようですわね。やや自主性に欠けますが、努力家で精力的に動いているようです」
「こちらの印象と大差ないな。益にも害にもならんか」
オーンハウル殿下はさして興味も無さそうに、ぞんざいに受け答えた。よっし。おもしれー女認定なんてさせないからね。レネ様はジーマルートに行くんだから。
「そなたは候補生として、どう感じている。横入りされて、さぞ立腹してるだろう?」
あ? 挑発するつもり? そんなことで動じませんわ。
「ふふ。負けるつもりは毛頭ございませんわ。どうぞ何人でも追加していただいて結構ですわよ?」
「ほう。随分と強気だな、面白い」
げっ、わたしがおもしれー女扱いされてどうするのよ!
オーンハウル殿下は話は終わりだとばかりに、執務椅子の背もたれに背を預けた。
「引き続き聖女に関して分かったことがあれば報告しろ。以上だ」
私は大仰なカーテシーで応じた。
「もちろんにございます」
知ったことではないわよ。もう義理は果たしたわ。
胡散臭そうなものを見る目を向けられたが、オーンハウル殿下は、まあいい、とばかりに書類業務に戻ったので、楚々としたムーブで生徒会長室を辞した。はー、あの殿下の相手はものすごく疲れるわ。
もちろん個室だから二人きりにならないよう部屋の扉は開け放たれていて、部屋の外ではトゥーリ様とマッキー様が心配そうに、扉から見守ってくださっていた。安心させるよう微笑みかけると、他にも待っていた人がいることに気付いた。
「やあ、リズリー嬢。兄上との会談は終わったかい」
その声に不意を突かれて少し肩を竦めてしまった。ちらっと見ると、アレクシス殿下がそこにいた。
「……っ、アレクシス殿下。お待たせしてしまいましたか?」
あれっ? オーンハウル殿下と向き合うより緊張するぞ? おかしいな。
「顔を上げて。リズリー嬢。突然ごめんね。このあと時間あるかな? ジーマと東地区の市場に調査に出かけるんだけど、良かったら……一緒に行ってくれないか?」
ひえっ、突然のお誘い! ん? ジーマ……あっ、後ろにジーマもいる。相変わらず豊かな腹囲していらっしゃる。パンチ入れたい。
「おいおい、今気づいた~みたいな反応だなあ、俺もいるよ」
従兄弟のジーマ・リッチヒルは子どもの頃からずっと王子の護衛騎士を目指していて、入学と同時に見事アレクシス殿下の護衛に選ばれた。見習いだけどね。おっきなお腹してるけど、結構強いらしいよ。
っと、アレクシス殿下が返事を待ってる……。
この後の予定は特にない、けど。
「あのう、それでどうして私をお誘いに?」
おう……と、ジーマが顔に手を当てて天を仰いだ。トゥーリ様とマッキー様も何だか呆れたような視線を向けてくるのだけど、何かおかしいこと言ったかな。
「東地区の市場で、色々な商品の流通を調べたくてね。女性の視点もあるとありがたいんだ」
なるほど……。あっ、だったら私ではなくレネ様に同行していただいたらどうかしら。私より市井に詳しいはずだし、ちょうどジーマもいることだしね。なんて考えてたら、マッキー様がしゅたっ、と挙手をした。
「はいっ! リズリー様。私、東地区の市場、行ってみたいです!」
「まあ。……そうね、でしたら参りましょうか。アレクシス殿下。私たちも同行させていただきますわ」
ということで、アレクシス殿下と東地区に行くことになった。トゥーリ様とマッキー様、ハイタッチしてるけど、そんなに東地区に行きたかったのかしら。
***
馬車は王家のものではなく、学園が貸し出しているものを利用することにした。街中に王家の馬車で行くと目立つからね。乗り心地はいまいちだけど、広さはあるので私たち五人が乗っても窮屈ではない。
制服を着てるので貴族だと気付かれるか心配だったけど、男爵家や子爵家の学生たちはそれなりに街にも立ち寄るそうで、制服姿でも問題はないそうだ。
「市場ではどういったことをお調べになりますの?」
目的をしっかり聞いておいてアレクシス殿下のお役に立たなきゃ。頑張ろう。
「一番の目的は例の茶葉関連だね。教会が先走ってくれたおかげで、ようやく禁止令を出させることができたんだ。すでに流通を差し止めているはずだから、その確認のため、帝国に近い東地区を見回るんだ」
なるほど。私も茶葉自体は確認しているからお役に立つことができるわ。それにしても、あの茶葉を禁止することができたのね。教会が先走った、ってあのお茶会のことよね。王宮から教会に抗議を出したってことかしら。
「教会はあくまで偶然だ、という姿勢を崩さなかったんだ。今回は被害が出なかったことで逆に教会を問い詰める要素が不十分だったんだけど、落とし所として禁止令を出させることには成功したんだ」
お茶を入れた侍女も教会とのつながりは無かったそうだし、これ以上教会を追求することはできないらしい。あの茶葉が出回らなくなっただけでも良しとしよう。
「それにしても、リズリー嬢の機転で事なきを得たんだ。ありがとう。他の二人に影響がなかったのもリズリー嬢のおかげだよ」
そう言ってアレクシス殿下は私の手をそっと握った。突然のことにびっくりしたけれど、胸が熱くなってきて、心が弾んだ。アレクシス殿下のお役に立てて嬉しいんだな。うん。――あれ? まだ、殿下は手を離してくれないぞ? じっと私ことを見ている。私も、殿下から目が離せなくて――。
市場に到着して、馬車が止まった。




