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17.魔物討伐

 

 候補生同士のお茶会を終えて、例の茶葉についてミエセス殿下にも報告するために、薬学クラブへと足を運んだ。

 アイリス様とパトリシア様は中和剤を飲んで無事だったので安心だ。事の顛末についてしっかり説明し、用心するように言い含めておいた。


 薬学クラブに行くと、ミエセス殿下はちょうどポーションの調合中だった。

「やあ。ちょっと今忙しいんだ。もうすぐ出掛けないといけなくてねえ」

「それは失礼しました。昨日の件で報告に来たのですが、また後日にしますね」


 うーん、間が悪かったな。ミエセス殿下はにこやかに対応してくれたが、本当に忙しいのか慌ただしく作業している。出来上がったポーションを瓶に移し替える作業をされているが、それを見ていたトゥーリ様が割り込んできた。

「見たこと無い色のポーション。何それ」

 あっ、お忙しいのに邪魔したらだめですよ! と注意しようとしたら、逆にミエセス殿下が食いついてきた。


「さすがトゥーリ姉、慧眼だね。これは魔力回復ポーションだけど特別製なんだ」


 瓶詰めし終わったポーションを専用ケースに入れながら、外出準備を整えるミエセス殿下。いつもの研究用の白衣ではなく、戦闘用ローブだ。


「これは聖女用のポーション。聖女の魔力は特殊で通常のポーションでは効き目がほとんど無いんだ。調合も特殊だからこっちに依頼が来てね。……実は聖女が公務の遠征先で、魔力枯渇で倒れたらしいんだ」

「えっ!」


 それは大変……なんだけど、それだけじゃない。これ、ミエセスルートの出会いイベントだ!

 ヒロインは瘴気溜まりの浄化に赴いて、頑張りすぎて倒れてしまう。瘴気溜まりからは魔物が溢れてくるし、友達のシエルちゃんとアリーちゃんがなんとか持ちこたえるんだけど、二人も魔力が尽きて怪我をしてしまって大ピンチ! ってときに、ミエセス殿下が颯爽と登場! 魔物をやっつけて、特殊ポーションで回復してくれるんだ。ヒロインはミエセス殿下に感謝して、ミエセス殿下も危なっかしいヒロインを妹っぽく感じて気にかけるようになるんだ。いつもは周囲から子供扱いされているからね。


「私たちもついて行っていいですか?」


 つい、そう叫んでしまった。ゲームでは助かるってわかってるんだけど、これはゲームではなく私たちが生きている現実世界だ。急がないと手遅れになるかもしれないし、間に合ってもシエルちゃんやアリーちゃんが怪我をしてしまう。少しでも早いほうがいい。


「うーん、魔物がいる森だから危険なんだけど、三人なら大丈夫かな、強いし。今から護衛を呼び寄せるよりいいかも。じゃあついてきて。さっき言ってた報告は馬車の中で聞くよ」


 そうして、私たち三人はミエセス殿下に同行することになった。


 ***


 目的地は馬車で二時間ほどのところにある森だ。

 聖女レネ様は数日前から国内で瘴気溜まりが出来ている箇所をいくつも周っていた。遠征の終わりに王都近くの森で、最後に残った瘴気溜まりの浄化をする手筈だったのだが、長旅の披露と魔力の酷使が響いて倒れてしまったのだ。


「ふうん。Fクラスでも同じ香りがねえ。何だかきな臭いね」


 馬車に揺られながら、私は王宮のお茶会の出来事や気付いたことをミエセス殿下に報告していた。


「お香の方は分析してすぐ判ったよ。コパイバっていう樹木から採取される樹液で作られたものだ。コパイバは薬や治癒ポーションの素材にもなる白っぽい樹で、御神木として信仰の対象にもなってるんだ。たしかハイサンド大聖堂でも植樹されているはずだよ」


 なんだか知れば知るほど、教会の人たちが怪しく感じるなあ。


「だけど、帝国製の茶葉もコパイバも単体では何の問題もない普通のお茶とお香なんだ。これまで規制するには決め手がなかったところでねえ。今回教会が送ってきたことで、逆に厳しく追求することが出来そうだよ」


 おお、これで例の茶葉の件は解決に向かうのかな。でも、普通のお茶やお香でも組み合わせ次第で危険性を持ってしまうのは、何だか怖いな。他にもそんな組み合わせが無ければいいんだけど。


「さあ、ここからは馬車で行けないから歩きになるよ。魔物も出てくるから気をつけて」


 おっと、もう魔物の領域だ。別のことを考えず気を入れないと。

 私たちは馬車を降りて薄暗い森に入っていく。そろそろ日が暮れる時刻だ。早くレネ様たちと合流しないと真夜中になってしまう。でもこれでようやくヒロインとご対面だ。ちょっと緊張するわね。


「ではトゥーリ様、お願いしますわ」

 魔物退治はもう何度もトゥーリ様、マッキー様と経験済みだ。いつも三人で行ってるので連携もバッチリ。役割はまず、攻撃役が私。これでも世代トップレベルの魔力があるからね。さらに王宮でも厳しい訓練を課せられたから、大抵の魔物は一撃で倒せる自信があるよ。そしてトゥーリ様も血筋から大きな魔力を持っているけど、その魔力を全部、探知、索敵系に特化している。お陰で広範囲の探知が可能で、私たちの司令塔の役割を担っているわ。マッキー様は魔力量は通常クラスだけれど、私たちの役に立ちたいと、こちらも防御、妨害系に限定して特訓してくれた。これが私たちの連携にピタリとハマったんだ。トゥーリ様が短時間で魔物を発見し、マッキー様が魔物の足止め。防御も兼ねてるから、トゥーリ様も安全に戦場を観察して指示を出す。私は何も考えずに魔法をぶっ放すだけでいいのだ。


 それに今回は宮廷魔法使いのミエセス殿下もいらっしゃるから、苦も無くレネ様のところまでたどり着けるはずだわ。


「索敵だけはトゥーリ姉に敵わないからなー」


 あのミエセス殿下が悔しそうにしてるのはちょっと誇らしい。


「瘴気溜まりを発見。ここから東北に2kmくらいの距離。おそらくそこ」

「うん。そこに聖女がいるはずだね、急ごう」


 瘴気溜まりとは、生物の死骸や植物の毒素などから発生する穢れた空気の集まりだ。深い森や山奥など人が立ち寄らないところなどによく発生し、魔物を呼び寄せて活性化したり、また魔物そのものを発生させたりする危険なものなので、放って置いたら大変なことになる。通常は風魔法などで拡散させることで一時的に沈静化させるのだが、それは一時的な対処でしかなく、時が経つとまた徐々に再生してしまうのだ。完全に除去するとなると、聖女など高位の聖職者のみが使える浄化魔法があるのだが、使える人が限られている。だから聖女であるレネ様に大きな負担がかかってしまったんだ。


「フォレストウルフ二体、あと150メートル」

 小走りで突き進む中、トゥーリ様が警告を発した。それに応えてマッキー様が詠唱を始める。フォレストウルフが目視できたと同時に魔法を発動する。

 フォレストウルフは狼型の魔物で、動きが素早くて魔法使いにはやっかいな相手だ。フォレストウルフもこちらに気付いていて向かってきたが――。


転倒(スリップ)っ!」


 マッキー様の魔法で、フォレストウルフは見えない何かに足払いされたように二体ともすてんと転んだ。そこへ私がとどめを刺す。


「アイスジャベリン!」


 氷でできた槍が二本、転んだフォレストウルフに飛んでいき、地面に串刺しにした。それで二体のフォレストウルフはピクリとも動かなくなった。


 一連の戦いを見ていたミエセス殿下が口笛を吹く。

「やるね。転倒(スリップ)の魔法は有用だけど、詠唱が長いから使い所が難しいんだ。トゥーリ姉の索敵能力に合わせて、あらかじめ詠唱を始めておく戦法か。いいコンビネーションだね」

 ミエセス殿下に褒められて、マッキー様は少し嬉しそうにはにかんだ。どう? 私の仲間はすごいでしょ。


「何があるかわからないから、念のためミエセス殿下は魔力を温存しておいてください。道中は私たちで対処します」


 それから何度かフォレストウルフやゴブリンと遭遇したが、難なく蹴散らしながら目的地まで急いだ。



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