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13.候補生たちのお茶会2

 

「さて、ではそろそろ本題に入りましょうか」


 先程までの和やかな空気から一転、三人は真剣な眼差しに変わった。

 もちろん議題は、候補生がもう一人増えたこと。それに伴って流されている『噂』についてだ。

 三人とも、噂についてはいろんな筋から情報を集めていることだろう。アイリス様が直接動くことはないだろうけれど、パトリシア様も釘を差しておいたおかげでとりあえずは静観しているようだ。


「件のレネ様と、直接お話した方はいらっしゃるかしら?」

 パトリシア様は口調も外向きに改めて、私たちに問いかける。

「先日、Fクラスに伺ったのですが、聖女の活動とやらでレネ様とは会えずじまいでしたわ」

 正確には入学式の日に見かけたんだけどね。あの時点ではレネ様とはわからなかったはずなのでノーカウントよ。

 アイリス様も、お会いしたことはないみたい。


 レネ様が候補生に選出されたことについては、未だ思うところがあるというのが正直な気持ちだ。他の二人も多かれ少なかれ、同じ思いを抱いているだろうことは想像がつく。だけどもう決定したことなので、そのことについて蒸し返して騒ぎ立てるような見苦しい振る舞いなど、することはない。そんな人がこの候補生の選考レースに残っているはずがないのだ。このお茶会でも別に呼び出して虐めようなんて考えは毛頭ない。同じ立場になった同士として、切磋琢磨していければという気持ちで、同じテーブルに座りたかっただけなんだ。


 だけどゲームでは、私たち三人が悪役令嬢としてヒロインの恋路に立ちふさがることになっている。

 きっかけは何? ゲームでの悪役令嬢の登場シーンをよく思い出すのよ。


 ――そう、確かゲームの序盤、今の私たちと同じように悪役令嬢の三人でお茶会をしていたシーンがあったわ。それで聖女がプリンセスロード候補生になったことにパトリシア様が激昂して、カップを叩き割ったのよ。


「ちょっと行き詰まってきましたわね。別のお茶を頂けるかしら」


 パトリシア様がそう言うと、控えていた侍女が早速ワゴンを運んできてお茶を入れ替える。そのワゴンには香炉も乗せられていて、ほのかに良い香りが漂っている。


「あら、気が利くわね。いい香り……」

「こちらのお茶もお香も、教会からのお詫びの品として頂いたものでございます」

「ああ、そういえばレネ様の不参加のお詫びをもらっていたけれど、これだったのね」


 三人分のお茶を入れ終えた侍女が後ろへ下がる。香炉を乗せたワゴンをそこに置いたまま。


 香炉の香りは、最近嗅いだものと同じだと思う。――レネ様のクラスで。


 お茶をひとくち、口に含む。


 同じ。


 同じだ。あの薬学クラブで飲んだお茶と。


 確信を得る前に、すでにお二人もカップに口をつけていた。


 ミエセス殿下はおっしゃっていた。何らかの要素を組み合わせることで効果を発揮する、と。

 それが、この香炉の香りだとすれば――。


「私、このお茶は好みではありませんわ」


 お二人が何かを言い出す前に、主導権を握るんだ。お二人はややぼんやりとした様子で、そう言われれば、となんとなく同調を示す。

「私も趣味ではありませんわね」

 アイリス様もパトリシア様も、飲むのをやめてカップを置いた。


 ――自覚のない酩酊に襲われ、自我が薄れて周囲の意見に同調しやすくなる。


 やはり、これはミエセス殿下から聞かされていた茶葉だ。


 これを何も知らずに飲み続け、もし、誰かが少しでも聖女レネ様に対する不満を漏らしていたら……それに同調しエスカレートして、やがてあのゲームのお茶会のシーンが再現されていたのだろうか。


 この茶葉は教会からお詫びとして届けられたものだ。これは偶然によるものか、それとも計画的に行われたのか……。

 お茶を入れた侍女は申し訳なさそうにワゴンを下げ、別のお茶を用意している。以前からいる、知っている人だし協力者の可能性は低いだろう。


 とりあえず、この状況を利用して――。


「私は、レネ・アーデン様を歓迎しますわ。善きライバルとして切磋琢磨していきたいと思います」

 堂々と宣言した。お二人もそれに続き。

「そうですわね。聖女という立場は強力だけれど相手にとって不足ありませんわ」

「お互い高め合いましょう」

 と、レネ様に対していい方向に結論を出せたようだ。なんとか私たちの破滅ルートを回避できたかしら。あとは……。


「少し席を外しますね。それと、この品々は私が引き取ってもよろしいかしら」

 尋ねると、お二人共同意してくれたので、茶葉とお香を持って王宮へと戻った。


 ミエセス殿下がいらっしゃるといいのだけれど、生憎の不在。アレクシス殿下と共に視察に出ているようだ。ということは、現在王宮に残っている殿下はオーンハウル殿下だけだ。少し気が重いな。面会できるかな。

 オーンハウル殿下の執務室の前までやってきて、侍従に取り次いでもらった。

 少し待たされたが許可が出て、どうにか面会して頂けることができた。



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