月が綺麗ですね
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
花火大会に気になる職場の同僚を誘った。
待ち合わせ場所に居た彼女は浴衣を着ていて大変綺麗で、ドキリとする。
夜店でリンゴ飴を買って、河の土手に上がる。
夜空には満月が上がっていて、思わず言ってしまった。
「月が綺麗ですね」
あ、この意味は夏目漱石が「I LOVE YOU」を訳したときの言葉だと気付いた。
同時に最初の花火が上がった。そして次々に大玉が上がり出す。
「花火綺麗……」
彼女は僕の呟きが聞こえなかったように花火を見ている。
花火大会が終了するころには僕らはすっかり打ち解けていた。彼女を誘った甲斐があったというものだ。
僕は言葉を換えて彼女に直接言った。
「好きです。付き合ってください」
彼女は恥じらいをみせ答えようとした瞬間。
僕の足下に魔方陣が浮かんで、人間界へ召喚されてしまった。
――なんで、このタイミングなんだ!
彼女の答えを得られないまま、悪魔である僕は、術者に召喚された。
少々不機嫌になりながら、仕事を始める。
「人間よ、願いを言え、代わりに魂を貰う契約を結ぼう」
「好きな娘を振り向かせたい」
あのな、今それで俺も悩んでるところなんだが、まあ、協力してやろう。だから早く魔界に帰って告白の返事を貰えるようにしてくれ。
これはお互い恋愛に不器用な主従が願いを叶えようとする話である。