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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不死と定命

作者: belgdol

「──」

「愛しています、か。聞き飽きた言葉だ。一万と二千の定命の者が私にそう囁き、命を輝かせ通り過ぎて行ってから先はもう数えていない。無意味だと悟ったからだ」

「──」

「何故?なぜなら私の記憶は悠久ではあるが完全無欠ではないからだ。輝かしかった日の事も、泥にまみれた日の事も、寒風吹きすさぶ中愛する人と暖炉の前で温まった事も、全て過ぎゆき色を無くす」

「──」

「記憶が悠久ならば色がなくなってもそれは永遠ではないのか、だと?巫山戯るなよ定命の者。そうであった記憶は確かに残る。だが何故?という理由の記憶は薄れ欠けていくのだ。貴様に想像できるか。身を焦がすほどの喜びの理由を、ある日ふと気づいた時に思い出せなくなっている恐怖が。いや、正確ではないな、何故の何故が解らなくなるといった方が正確か。小説を読むようにそこに至る感情の経路は解る。だが何故その道筋をたどり喜びにたどり着くのかの実感がまるでなくなる。これはな、お前が想像している以上に恐ろしいものなのだ」

「──」

「そうだ。私は恐ろしい。情が、愛が、それを生み出す輝かしい定命すべてが恐ろしい。それは何度も私の柔らかい精神の臓腑を刃物で抉り、傷つける。私はいつしかその傷も、痛みも忘れてしまうがその瞬間は確かに痛いのだ。不老不死などといってお前ら定命はありがたがるが、生まれた瞬間から永劫の苦悶を与えられているようなものだ。私はそれが厭わしい」

「──」

「随分と定命臭い不老不死ですね、だと?私とて元はこうではなかった。だが、お前が、お前達定命が私を変える!広大無辺の、海のように変わらぬ精神性であろうとそこに何万もの定命が注ぐ雫を受け入れれば色が変わりもするのだ!永遠不朽はあるかもしれん、だが永遠不変はありえない。だから私はお前たちを恐れるのだ。定命の者よ」

「──」

「それでもお前の思いを受け入れろと?恐れる者から差し出された毒杯を煽れというのか?悪趣味な奴め」

「──」

「相手がどう思おうと想いを押し付けてしまう。それが定命の悪いところだ。そこに目をつぶれというのであれば私も目をつぶる条件を出そう」

「──」

「私を『殺す』手段を持ってこい、定命。その方法を持ってお前が私の元を去る前に、お前が私を殺すのだ」

「──」

「そんなことはできない?ならこの話はここまでだ。それに悪い事ばかりではないぞ?もし私の条件を成し遂げればお前は私の最後の定命になれるのだ。いつもいつもいつもいつも私を置いていったいっていた定命どもの、唯一私を看取れる存在になる権利。魅力的であろう?」

「──」

「ふふ、解ったら行け。私を『殺す』手段を見つけるまでここに立ち寄ることは許さん」

「──」

「ふん。ではな」


──


「行ったか」


「定命よ。私は今震えている」


「もしお前が本当に私を『殺す』手段を見つけたらと思うと今から震えが止まらない。死が恐ろしい」


「仮定とはいえそれが濃厚に立ち上がるだけでこんなに恐ろしいとは。私は私自身でも私が死ぬ方法にたどり着けない」


「ああ、“分からない”!分からないことは、恐ろしい!」


「誇れ人間。私はお前に、こんなにも見っともなく怯え、竦むほどの恐怖を与えることを許したぞ」


──


「存外に早かったな、定命の者よ」

「──」

「いや、存外とはいったがまさか命あるうちにまたここを訪れる資格を手にするとは思わなかった」

「──」

「よしよし。頑張ったな。だがお前の外見からすると今まで見送ってきた定命の、旅立つ寸前の姿かたちに近いではないか。お前本当に私を『殺す』ことができるのか?」

「──」

「……そうか。時はなし、か。良かろう。出来る者なら私を殺すがよい」

「──」

「ああ、その前に」

「──」

「褒美のくちづけをくれてやらねばな」

「──」

「さぁ、さぱっとやれい」

「──」


 斬られた。

常ならば即座に修復され傷痕が出来たとも認識できない、剣が身体をすり抜けたと言わんばかりの見目になるのに。

今私の首は堕ちた。

僅かに頭部に残る魔力が意識を繋ぐ。

視界の端に改めて私の頭部に剣を向ける定命の姿。

ああ、確信した。

これで──




年老いた身体になんとか覚えこませた不死者殺しの剣技を振るって、僕は最愛の人を殺す。

首を落としてもまだその人の命を感じたので、存在中核が感じられた頭部を破壊した。

齢二十三の時、世界の狭間でこの人と出会った。

一目で魅かれた、焦がれた。

衝動のままに思いを告げた。

そして拒絶され、条件を出された。

あの人を殺せという残酷な条件を。

だが、酷いと思う一方で私の心は猛ってもいた。

他の事ならなんということもないが、あの人に終わりをもたらすその役目だけは誰にも譲れない。

黒く熱い、地獄の溶岩のような感情だった。

あの人を自分以外に殺させない。

その一念だけで世界を渡り歩き世界の則を定める神にま見えるほどの冒険をこなし。

ついにあの人を殺すに至った。

満足。

満足だ。

人生の中、あの人と触れ合った時間は一時なれど。

那由多の時を生きたあの人の、最後の瞬間は僕の掌に。

ああ、僕もすぐに逝きます。

あなたと、あの世で、あえるといいなあ。


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