第九話 生まれ変わり
俺が川で華麗に泳いでいる間に話がついたんだろう。
陸に戻って、まるで生まれ変わったように清々しい気持ちを迎える中、魔女に言われた。
鳴かない蛙になるか、竹職人になるか。
二者択一だ、と。
原符と魔女がどんな話をしたのかはさっぱりわからない俺は、けれど疑問を投げかけることなく考え込んだ。
一瞬だけ躊躇したのだ。
蛙も案外悪くないな、と思ってしまったから。
だが。
「竹の刃を持って帰るという任務を遂行できず申し訳ありませんでした。本来なら蛙に変えられるはずでしたのに、魔女の寛大なるお心により人間を続けられる道を残した下さったこと、感謝してもしきれません。俺は竹職人になります。ですが。俺は剣士を辞めるつもりもありません。よろしいでしょうか?」
長いとも短いとも言える無言の間ののち。
魔女は長い尻尾で一度地面を軽く打ってから、よかろうと言った。
「そなたの上司にはわれが事情を話しておこう。あとはそこの莫迦に一任する。竹職人になり、竹の刃を創生して城に帰ってまいれ」
「はい!」
薄雲が流れる空へと飛び上がった魔女の姿が見えなくなるまで見送ってのち、俺はこれからの師と仰がなければならない原符を見下ろした。
鳴かない蛙のままだった。
「魔女カムバーック!!!!!!」
(2022.9.30)