第四十三話 百二十年
絵本だ。
どうすればいいか沈潜した結果、閃いた。
絵本を思い出すんだ。
じいちゃんに読んでもらった竹の絵本の内容を。
地上には存在しなくなった竹。
どうして。
竹職人になるなと訴えたじいちゃんの言葉。
とても口に出して言えない恐ろしい世界におめえを行かせるわけにはいかねえんだ。
そう言った。
恐ろしい世界。
確かにまっくらくらで落下し続けるしかない世界は恐ろしい。
けれど。
恐ろしい世界、だけではない、はず。
色彩豊かな絵本のように平和な世界でも、ある、はず。
うんそうだよそうだよねそうであってちょうだいな。
えー。と。えと。
絵本の内容。は。
黄緑と深緑の色がいっぱい使われていた。
と、しか、覚えていない。
十分じゃん。
ここはまっくらくらじゃないのよ黄緑と深緑の色が溢れている世界なのよそうなのよまっくらくらなのは俺の不安と恐怖が反映されているのよそうなのよ未知の世界って恐怖の塊じゃないだけどそれだけじゃないでしょ希望の塊でもあるでしょそうでしょ誰か同意して自分同意して。
よし。
希望希望希望希望希望希望希望。
う。漢字ばっかり思い浮かべたらぐるぐる渦巻きに吸い込まれて吐き出されて吸い込まれて吐き出されて吸い込まれて吐き出されて。
『百二十年に一度、世界中で一斉に稲穂のような花を咲かせる竹の花が隕石を受け止めて、この世界に迎え入れて、みんなで楽しく暮らしました。っけ。あんな凶暴な生物の竹がんな事すっかよってんだ。あー。ちげえよちげえちげえ。竹葉は凶暴なんかじゃねえ。んーと優しい子だ』
隕石も迎え入れてくれるなら、俺も迎え入れてほしいな。
(2023.3.23)




