第三十七話 楠の妖精
「わからん」
「えー。意地悪言わないで教えてよー」
「わからんと言ってんだろうが」
「えー」
原符は口を尖らせて、楠の妖精を見上げた。
秘密の竹林に行く条件も満たせず、また、感覚もなくなったので、竹と同類の植物の妖精たちに聞き回っていたのだが。
「はー、まただめか。どーしたもんかのー」
「竹職人は欲が深すぎるな」
咎める楠の妖精に、けれど原符は気に病むことなく深く頷いたのち、後頭部で両の手を組んだ。
「本当にねー」
「そのような身体になっても、反省の色も見せんとは。今まで守ってくれた己の身体に申し訳が立たぬと思わぬのか?」
「いやいや、ちょー感謝してますよー。そもそも感謝しかありませーん。無事に若返りもできましたしー」
「ふん。何が無事なものか」
「無事だよーん」
「竹職人に戻れぬ身体でもか?」
「ちっちっちっ」
原符は指を左右に素早く動かし、楠の妖精に背を向けて歩き出した。
ありがとねーと言って。
「それは今までの方法では、か」
楠の妖精は原符が去り際に見せた鋭利な眼差しを思い出し、口をへの字にさせた。
「まったく。厄介な人間だよ」
(2022.10.16)




