第二十六話 ひびき
あの方の二の腕くらいの長さで、薬指と小指を合わせたくらいの太さ。
地に近い箇所に均等に彫られている七つの穴は不揃い。
七つの穴から離れた天に近い箇所に彫られている穴が一つ。
天地に細い紐、蔓が巻かれている。
全体的に朱色。
飾り彫りはない。
恐らくは、横笛。
印象は無骨。
音。
どんな音を響かせるのだろうか。
やわらかい音。
硬い音。
枯れた音。
力強い音。
色気のある音。
無機質な音。
どれか、なんて選べない。
恐らく、あの方の気分で音が変わるのではないだろうか。
けれど、滑らかさは失われない。
すいっと人の心に入り込んでは通り過ぎて行く。
留めるか、離すかは、聞き手の自由。
ああ。
どんな風に作られたのか。
あの朱色は。自然のものか、塗料か。
どんな竹を使っているのか。
多く加工しているのか、少なく加工しているのか。
天地に巻いている蔓みたいな紐は、竹か、別の植物か。
どんな道具を使っているのか。何種類使っているのか。
竹葉は悔やんだ。
心底。
演奏を求めなかったことを。
聞きたかった。
今になって。
竹笛の調子が悪くとも。
(俺が、)
凪いだ心で、深く、広く、想う。
あの竹笛に携わりたい。
今この刻。
竹葉の全身全心から任務達成に必要な竹の刃の存在が完全に消え去っていたが、竹への想いは一番強く脈を打っていた。
(2022.10.10)




