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第二十一話 パンダ




 飛び跳ねた竹葉の背中はびっしょり濡れていたが、気持ち悪いと思いながらも着替えよりも確認が先だと、素早く立ち上がった竹葉は明かり苔と飛び提灯で照らされている高速で周囲を見渡した。

 が。祖父の姿はなかった。


「そっか。全部、夢、か」


 正直落胆の気持ちが大きかった竹葉は少しの間だけ地面を見つめていたがおもむろに夜空を見上げると、一番輝いている星に向かって呟き、さささっと着替えて歩き出した。

 祖父の力だろうか。

 身体が軽かった。

 踏み込む力が強かった。

 秘密の竹林を見つけるまでへこたれないと思った。


「へっこたれない~へっこたれない~おっれはへっこたれな~い」


 数時間後。

 刻一刻と闇が深まっていき、正真正銘明かり苔と飛び提灯だけが命の灯火になる中。

 竹葉はわざと音を外して小声で歌いながら歩き続けていると、ふと、細い幹に幾重もの枝だけがわちゃわちゃと入り乱れながら下に向かう木のような形をして、赤々と光る茸を発見した。

 赤光茸せきこうだけだ。

 普段は人間の赤ん坊くらいの大きさで、耳と目の周りと手足の先だけが黒く、他は白いそれはそれは愛らしい草食動物のパンダの主食である。

 パンダが見られるかもしれないと思うと胸が弾んだ竹葉はしかし、誘惑に負けないとずんずん赤光茸を通り過ぎて。

 唐突に思い出した。

 祖父が読んでくれた絵本の中にパンダが出て来たことを。


(パンダと秘密の竹林って何か関係があるのかな?)


 疑問に思いながらも歩き続けていると、風もないのに枝葉が大きく動く音がしたかと思えば、とさっと軽い何かが竹葉の前に降りて来た。

 パンダだった。

 瞬間、竹葉は口元を緩ませ目尻を下げ、そろそろとパンダに近づこうとすれば。

 甲高い声で頼まれたのだ。

 おいらも一緒に連れてってくれ、と。











(2022.10.7)



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