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第十九話 じいちゃん




 竹職人になっちゃいけねえ。


 涙ぐむ俺にこれは夢だと言いながら、じいちゃんは言葉を紡いだ。


「おりゃあ、おりゃあな。竹葉。おめえにあんな。とても口に出して言えない恐ろしい世界におめえを行かせるわけにはいかねえんだ」

「でも、じいちゃん。俺、決めたんだ。剣士と竹職人の二足の草鞋を履くって。どれだけ恐ろしくても、俺はやり遂げるよ」

「ろーらー牛に乗るよりも恐ろしいんだぞ。それでもか」

「うん。それでも。決めた」

「竹葉」


 じいちゃんは手に持っていた酒をかっ喰らった。


「じいちゃん。お酒を一気に飲んじゃだめだろ」

「飲まねえでやってられっか。竹葉が。竹葉がこんなに立派になっちまって」

「いや全然立派じゃないよ。まだ言っているだけだし。叫んでばっかだし。実現させないといけないよ」 

「竹葉。そんなに。そんなに決意が固いのか?」

「うん。じいちゃん」

「そうか」


 じいちゃんはまた酒をかっ喰らった。


「じいちゃん。だめだって」

「ああ。これでしめえだ。ばあちゃんがこっちに来たら叱られちまうな」

「うん」

「竹葉」

「うん」

「すんげえきついけど。おめえならできるさ。じいちゃん。あっちこっちから見守ってるからよ。もうだめだって思ったら、すぐ休め。じいちゃんが夢の中に出て来てやっからな」

「俺の夢ばっかりに来てもらったら、ばあちゃんに申し訳ないよ」

「ばあちゃんは独身生活を楽しんでんだろ。現に今、一人で全国を旅してるしよ」

「うん。時々、葉書が届くよ。元気で、すごく元気で、すごいね」

「ああ。すんげえんだ。だからいいんだ。ばあちゃんの夢に出たら、私んとこに来るくらいなら、子どもや孫のところに行って来いって尻を蹴られちまうよ」

「そうかな。喜ぶよ、きっと。ばあちゃん」

「喜ばねえよ」

「喜ぶよ」

「喜ばねえって」

「喜ぶって」

「………喜ぶ、かあ?」

「うん」

「そう、かあ。竹葉がそこまで言うなら、行ってやろう、かな」

「うん」

「うん。なら。うん。竹葉。じゃあ」


 またな。

 じいちゃんはそう言って、姿を消して。

 俺は目を覚まして。

 そっと目を閉じた。











(2022.10.6)



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