第十六話 鍛錬塔
鍛錬塔。
空まで伸びる円筒の塔は剣士専用の鍛錬場である。
塔に入る為の扉とは別に鍛錬場へと続く扉が出現するのだが、即座に出現するか、はたまた塔を彷徨ったあとに出現するかは、剣士の実力次第だとも塔の気紛れだとも言われている。
剣士がその鍛錬場に続く扉を開けると、その剣士の実力に応じて対戦する相手が出現。相手の剣を弾き飛ばすまでそこから出られない魔の塔とも言われているが、国最強と謳われる天勝はあろうことか鍛錬場の一室を確保し、自分の部屋を作ってしまったのだ。
剣士からしたらたまったものではない。
もしかしたら、鍛錬場で待ち構えているのは天勝かもしれないのだ。
そうであったならば、一生塔から出られないのは必須。
剣士は天勝をあれこれと説得したが、失敗。
天勝が頭が上がらない人物は誰だと、血眼に探してようやく見つけ出したのは、この国で三番目に強いと謳われる剣士だった。
しかしその剣士がいくら説得しても天勝は首を縦に振らなかった。
もうだめだ。
誰もが絶望したが。
三番目に強いと謳われる剣士が魔女に相談して、塔の仕組みを変えてもらった。
万が一鍛錬場で天勝に出くわしたとしても、一切相手にせずにその部屋からは出られるようにしてくれたのだ。
剣士は三番目に強いと謳われる剣士を、そして魔女を生涯を懸けて崇め奉ろうと心に決めたのであった。
「あやつは騒々しいな」
鍛錬塔のどこかに存在する天勝の自室にて。
客をもてなす畳の椅子に座り、その前にある丸い木の机に置かれた桜茶を飲んでいるらしい魔女を見た天勝は、桜茶が減ってはいるので飲んではいるらしいが毎度毎度どうやって飲んでいるのか疑問をぶつけるも、どうでもいいであろうと言われてしまった。
魔女の対面の畳椅子に座っていた天勝は今回も解明できずにいたが気にすることなく、先程の竹葉の真っ直ぐな眼差しを思い出しながら少しだけ口の端を上げた。
「元気があっていい」
「元気だけでは困るのだが」
「無論だ。俺から早く竹笛を奪いに来てもらわないとな」
「どの世界も後継者不足には頭を悩まされるの」
「竹職人ほどではない」
「………その通りだ」
「魔女。本当に竹職人は原符一人だけなのか?」
「ああ。竹職人は原符一人のみ」
「そうか。一度でいいから、竹の刃に触れてみたかったが。竹葉にはそこまで求めてはいないのだろう?」
「………さて。国王次第だ」
(2022.10.5)