第3話 魔王討伐、その後
魔王城の玉座の間に静寂が訪れる。
誰もが口を閉ざしていたが、しばらくして、誰かが口を開いた。
「・・・やった。」
「やったのよ!あたしたち!」
アドラスを倒したことにより、フィルミルを捕らえていた『バインド・チェーン』は消え去っている。
バンザーイと大はしゃぎで喜ぶフィルミルを見て、他の者も魔王討伐をしたのだと、徐々に自覚した。
「やった・・・やったんだ!」
「そうよ!やったのよ!アルバ!」
「ありがとう!フィル!」
フィルミルは喜び始めたアルバに飛びつく。
アルバは笑顔でフィルミルを受け止めた。
「やりましたね!アルバ様!」
「ありがとう!エル!」
すすすとアルバに近寄ってきたエルカーナは、恥ずかしそうにアルバの腕にだきつく。
アルバもエルカーナに向かって、笑顔を向けてお礼を言う。
「やったな、アルバ殿。」
「ありがとうございます!ガランさん!」
近くに寄ってきてガランはアルバに笑いかける。
アルバはガランにも丁寧にお礼を言った。
「お疲れ。」
「リオンもお疲れ!大金星ね!」
アルバに抱き着いていたフィルミルは、今度はルフィリオンの傍に近寄って、にこにこと笑う。
勇者パーティーでフィルミルはリオンに一番なついていた。
「ありがとうございました!リオンさん!」
「ううん・・・魔王を倒せて、本当に良かった。」
ルフィリオンも、ある目的があったからこそ、勇者パーティーに入って、勇者の仲間となったのだ。
魔王討伐が果たされた今、その目的も同時に果たされたこととなる。
ルフィリオンは晴れ晴れとした気持ちでいた。
「さぁ、凱旋しますぞ!王都へ戻りましょう!」
「えぇ!そうですね!お父様にた~くさん、報告しましょう!」
「そうね!オルトレア叔父様からいっぱいご褒美をもらいましょう!」
魔王を倒してアドレナリンが出まくっているのであろう。
未だ元気いっぱいの様子のガランとエルカーナとフィルミルの様子を見て、ルフィリオンは微笑む。
だが、少しだけアルバが落ち込んでいるように見えた。
「どうしたの?アルバ。」
「いや・・・魔王を討伐できたからみんなとお別れなんだなぁって、なんだかさみしくなっちゃいまして。」
ルフィリオンの質問にアルバは少しだけ微笑みながらそう答える。
その答えを耳ざとく聞いていたエルカーナとフィルミルはアルバの元へと戻ってきていた。
「アルバ様。大丈夫ですよ。今や魔王を討伐した勇者であるアルバ様は、私の婚約者としての最有力候補です♪」
「えぇぇぇぇっ!?僕がエル・・・王女様と!?」
「エルで構いませんよ。アルバ様。」
驚いているアルバに向かって、エルカーナは微笑む。
魔王を倒した勇者と聖女が結ばれるのは当たり前の話。
それこそ、勇者が貴族でない場合もあったのだから、男爵家とはいえ、貴族の子息であるアルバが歓迎されないはずがない。
「そうよ!多分、あたしもアルバの婚約者になるんじゃない?」
「えぇ、フィルも多分、アルバ様の婚約者に。」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
先程よりも大きな声をあげて驚くアルバ。
ただでさえ、王女であるエルカーナと婚約するのに、公爵の娘、実質的に王家の娘であるフィルミルとも婚約するというのは、下級貴族であったアルバにとって、目眩のするような出来事だ。
「あ、リオンもアルバの婚約者に?」
「リオンさんも・・・そうでしょう。ただ、リオンさんの場合は、我が国の国民ではありませんから、本人の意思次第となりますけど・・・」
「リオン!一緒にアルバの婚約者になりましょう!」
フィルミルはド直球にルフィリオンをアルバのハーレムに誘う。
だが、ルフィリオンは首を横に振った。
「ううん。私は自分より強い人と結婚したい。守ってほしいから。」
ルフィリオンは意外と乙女であった。
とある事情から、ずっと戦いに没頭してきたルフィリオンは、おとぎ話のような姫の扱いに対する憧れが強い。
剣馬鹿だったせいで、恋愛関連の知識や感情だけは、子どものまま育っていた。
「う~ん、リオンより強い人?勇者であるアルバならもってこいじゃない!」
「私、アルバより強い。」
「あー・・・確かに?」
「ひどいよぉ・・・フィル。事実だけどさ。」
「あ、アルバのこと弱いって言ってるわけじゃないのよ!で、でもリオンと比べたら・・・うん。」
がっくりと肩を落としたアルバ。
フィルミルはフォローをしようとしているのだろうが、より追い打ちをかけている。
それを見て、ガランとエルカーナが笑い出す。
フィルミルとアルバも顔を見合わせた後、なんだか面白くなって笑い出す。
ルフィリオンもその楽しそうな光景を見て、微笑んでいた。
暗い雰囲気であった魔王城に、明るい笑い声が響き渡る。
それを祝福するかのように曇っていた魔王城上空の空が晴れ、魔王城に太陽光が降り注ぐ。
魔王討伐を成し遂げた彼らに、明るい未来が訪れることを示しているかのようだった。
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「・・・■■■■■■■未来を回避できた。よかった。」
王都に帰還途中、みんなが疲れて眠ってしまっている中。
唯一起きていたルフィリオンはそう呟いた。
安心した様子のルフィリオン。
おそらくルフィリオンに言う未来は、悪いものだったのだろう。
「これで安心できる・・・」
ルフィリオンもみんなに続いて眠りにつく。
だが、ルフィリオンは知らない。
悪い未来を変えることが、必ずしもいい未来にたどり着くことにつながるわけではないということを。
いかがでしょうか。
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明日は2話分投稿します。
お楽しみに。