第2話 魔王討伐(後編)
後編です。
だが、魔王を倒すのはそう甘くはない。
「調子に・・・乗るなぁぁぁ!『グラビティ・コラプス』!」
「まずいわ!そこから離れて!」
フィルミルの声に、アルバとルフィリオンは、その場から離れる。
そして、次の瞬間、2人が立っていた位置に、真っ黒な巨大な球が現れたかと思うと、すぐに消える。
だが、その魔法の威力は絶大だった。
先程まで魔法があった場所には・・・文字通り、何もない。
ハイエルフであるルフィリオンには精霊が見える。
本来、精霊は殺すことなどできないはずだ。
だがしかし、アドラスの魔法によって、先程までいたはずの精霊すらも完全に消え失せていた。
余りに絶大な魔法の威力に、誰もが黙り、シンと静寂が響く。
「・・・驚くべきはそのハイエルフの実力か。貴様、聖剣を持った勇者と同等、いや、それ以上だな?しかも、その剣は聖剣の性質すら持っている。」
その静寂をアドラスが破った。
「・・・。」
その言葉に、ルフィリオンは返事をしない。
「他の者は、勇者のサポートはできても、我に傷つけれるかどうかも怪しい。なぜ、貴様だけ、それ程の実力を持っている。」
「御託はそれだけか!魔王!」
アルバはアドラスに向かって叫ぶ。
アドラスはアルバを睨んだ。
「黙れ、勇者。今はお前に話しかけていない。我はそこのハイエルフのみに聞いている。答えろ、ハイエルフ。なぜ、貴様はそこまで強い。単体で我と互角だろう。」
「・・・それは無理。魔法が厄介すぎて。」
黙っていたルフィリオンが口を開く。
警戒は怠ってはいないが、今は休憩すべき時だと、判断したようだ。
「くははは!確かにそれもそうだ。だが、貴様も精霊魔法があるだろう。それを使えばいいではないか。」
「精霊魔法を使えないこともない。でも、コントロールが下手。全部、吹き飛ばしてしまう。」
「なるほど・・・つまり、勇者どもが足枷となっているわけだ。」
「なっ・・・そうなんですか!?」
アルバが驚いた様子でルフィリオンに尋ねる。
ルフィリオンはゆっくり首を横に振った。
「違う。いくら精霊魔法を使えても、魔王相手は厳しい。少なくとも勇者は必須。」
「魔王め!僕達を惑わそうとしたな!」
アルバがルフィリオンの言葉を聞いて、アドラスをキッと睨みつける。
アドラスはアルバの馬鹿さ加減に呆れて、ため息をついた。
「馬鹿め・・・まぁいい。時間は稼げた。『クロノ・ロック』。」
アドラスの魔法が再び発動する。
その瞬間、ルフィリオンは一切動けなくなってしまった。
『クロノ・ロック』。
対象の時を止める魔法。
今回の場合は、魔法の発動のための時間が足りなかったため、ルフィリオンの動きに対してのみ時間を止めている。
魔法の発動は止めることができないが、それで十分だった。
「ルフィリオンさん!?」
「『我らが女神、フェルリース様。どうか、魔王の邪悪に蝕まれし彼女に救いを――』」
エルカーナの瞬時の判断。
攻撃手段を殆ど持たないエルカーナの役割は、味方の補助と回復、そして、相手の妨害。
仲間のおかげで、それのみに集中できるエルカーナの判断は早い。
エルカーナにより、ルフィリオンにかかっていた『クロノ・ロック』の効果が消える。
だが、アドラスは、ルフィリオンの妨害にのみ徹していた。
「『バインド・チェーン』」
「させるわけないでしょ!『リッパー』!」
まだ完全には動くこともままならないルフィリオンに、闇属性の拘束用魔法『バインド・チェーン』が放たれる。
フィルミルはそれを『リッパー』で切り裂いていくが、『リッパー』の数を上回る『バインド・チェーン』がルフィリオンを拘束した。
「『リッパー』『リッパー』『リッパー』!」
フィルミルは連続で『リッパー』を発動させ、まだまだあふれてくる『バインド・チェーン』を切り裂いていく。
アドラスはまだ時間を稼げると判断して、フィルミルとルフィリオンから意識をそらした。
「卑怯者め!」
ルフィリオンばかりを集中的に狙うことにキレたアルバは聖剣を煌めかせながら、アドラスへと斬りかかる。
が、先程、ルフィリオンと同時に斬りかかった時とは違い、アドラスはやすやすとアルバの攻撃を弾き飛ばした。
「弱い。」
「ぐあっ!」
「ぬぉぉぉっ!王女殿下ぁ!」
アドラスに突撃していくガランの声に、エルカーナは応える。
「『我らが女神、フェルリース様。どうか、魔王に立ち向かう彼に絶対なる盾を――』」
エルカーナの願いとともに、ガランの持つ盾がアルバの持つ聖剣のように光り輝く。
一時的な聖なる盾と化したガランの盾は、アルバを切り裂こうとしていた『ルドクルネス』の一撃を真正面から受け止める。
「ぬっ・・・ぐあっ!」
いつの間にか、『バインド・チェーン』から脱出したルフィリオンがアドラスの背後から剣を突き刺していた。
腹から突き出ている剣を必死に抜こうとアドラスは動くが、ルフィリオンはそれを許さない。
「今!」
「『我らが女神、フェルリース様。どうか、貫かれし魔王に聖なる拘束を――』」
「なぜだぁぁ!」
エルリーナの願いにより、光の鎖に囚われたアドラスは叫ぶ。
『バインド・チェーン』は未だに続いている。
にもかかわらず、ルフィリオンがここにいるのはおかしな話だ。
アドラスは『バインド・チェーン』の方を見ると、そこではルフィリオンの代わりにフィルミルが鎖に縛られていた。
「魔法使い!いったい何をした!」
「魔法の対象を変えたのよ!ばーか!今はあたしよりリオンが動ける方が重要だもの!」
フィルミルの自慢気な表情を見て、アドラスは顔をゆがめる。
だが、今はそれどころではない、とアドラスは判断した。
「『ルドクルネス』!鎖を断て!」
『ルドクルネス』はアドラスの声に応え、ひとりでに宙を浮かび、魔王を戒める鎖を斬り始める。
だが、もう遅い。
「『我らが女神、フェルリース様。勇者たるアルバ様に絶大なる神の寵愛を――』」
エルリーナの願いにより、今までを大きく超える光がアルバへと降り注ぐ。
「アルバ様!」
「アルバ!」
「アルバ殿!」
「アルバ。」
エルリーナ、ガラン、フィルミル、ルフィリオン。
全員が、アルバの名を呼ぶ。
勇者であるアルバはその期待に全力で応えた。
ガランの決死の防御、フィルミルの機転、ルフィリオンの一撃、エルリーナの援護。
全てが整ったからこその最後の一撃をたたき込む。
「聖剣ルミナスよ!応えてくれ!」
エルリーナによる女神フェルリースの絶大な加護を受け、魔王を前にした勇者だからこそ使える秘奥中の秘奥『神撃』。
七色に輝きだした聖剣を構え、アルバはアドラスに向かって振り下ろした。
「くらえ!魔王!これが勇者の!みんなの一撃だぁぁぁっ!」
「馬鹿な、バカな、ばかな・・・バカナァァァァァッ!!」
ルフィリオンはアドラスから聖剣を引き抜いて、その場から急いで離れる。
その後、アドラスは七色の光の奔流にのまれ・・・完全に消滅した。
いかがでしょうか。
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