08話・感情の乱高下
加点計算が行われる。
77ポイントに七勝ボーナス80ポイントプラスで157ポイント。
そこに三連勝ボーナスで二倍になって、314ポイントとなり、このゲームのレオの負け額は、三十一万四千Gとなった。
「おう。次のゲームも場代を十倍にするか?」
ジョンが、そんなことを言ってくる。
ラウラは、絶対にダメだと思った。
なにせ、次は十倍すれば、場代が十万G。
一ポイントが一万Gになる計算だ。
下手をすれば、何百万Gが一発で飛んでいくことになる。
だというのに。
「いいね、そうしよう。ただし、カードは新しい物に変えてもらいたいな。ディーラーさん、新しい箱を出してよ」
レオは二つ返事で了承し、小金貨をディーラーに投げた。
ディーラーは、未開封の箱を五つ出してテーブルに並べると、好きな箱を選ぶようにレオに言ってくる。
その様子を見て、ジョンは内心で笑う。
(無駄な努力、ご苦労なこった)
そんなことをしても、意味がないというのに。と。
レオが新しい箱を選び、新しい束を選び、三度目のゲームをスタートしたが、おそるべき結果となった。
なんとレオの負け額は、三千四百九万G。
一勝一敗からの十一連敗という、ありえない負け方をしたのだ。
それによりジョンのポイントは、107ポイント+380ポイントの七倍で、3409ポイントとなった。
あまりにも大きすぎる数字。
そして、ラウラを十一人買ってもまだ余るほどの大金。
「あ、あわわわわ…….!?」
ラウラはあまりの大負けに、腰を抜かしてオシッコを漏らしそうになった。
幸い、なんとか腰が抜けてへたり込んだところで留まり、オシッコは漏らさなかったが。
代わりに涙と鼻水とヨダレが出て、顔中がびしょびしょになった。
「レ、レオさん……」
こんな大負けをして、この後どうなるのだろうか。
レオさんは、わたしは、いったいどんな目に遭うのだろうか。
もうそんなことを考える気力も、頭の思考容量もなく、ラウラはただ呆然とレオの背中を見つめる。
「勝負あったな。お前、この負けはどうやって支払う?」
「どうやってとは?」
「おいおい、負けすぎて絶望するあまり、俺様の言葉の意味も理解できなくなったのか? 三千万を超える大金だぞ、テメェを奴隷落ちさせたところで、とうてい賄えるものじゃ無ぇ」
ジョンは勝ち誇ったようにレオに告げる。
「ま、とりあえずはその女か。今日のところは手付け金代わりにその女をいただいていくぜ。残念だったな。今日その女をベッドで泣かすのは、お前じゃなくて俺様の、」
「……何を勘違いしているのかは知らないけど」
レオは、懐に手を入れると小さな布袋を取り出してジョンの前に放った。
「たかだか三千万でしょ? 払うよそれぐらい。現金一括で」
「…………なんだって?」
「その袋の中から、今のゲームの勝ち分を取りなよ。足りるはずだからさ」
「……テメェ、そんな見え透いた嘘でこの場が収まると思ったら大間違い……っ!?」
ジョンが布袋をひっくり返すと、なんと金貨がジャラジャラと出てきた。
ジョンも、護衛の男も、丸メガネのメイドも、そしてディーラーさえも、驚きで目を見開く。
「五十枚ぐらいは入ってるでしょ? ほら、必要な分を取りなよ。別に、その袋ごとでもいいけどね?」
あまりのことに言葉を失うジョンに見向きもせず、レオは席を立つと懐からハンカチを取り出した。
「ラウラちゃん、顔がすごいことになってるよ?」
汁まみれのラウラの顔を、レオはハンカチで優しく拭いてあげる。
ラウラは、されるがままになりながら、レオに問う。
「レオさん、あの、そ、そのお金って……?」
「ん? 僕のポケットマネーだけど?」
「ポケっ……!?」
どんなポケットだ、とラウラは思う。
五千万といえば、あれだ。
銀貨で五万枚の計算になる。
そんな量の銀貨が入るポケットなど、ポケットと人間のどちらが本体か分かりゃしない。
「というかラウラちゃん。あれっぽっちの金額を見たぐらいで、パンツを濡らしちゃあダメじゃないか」
「もももも、漏らしてないし!? ちゃんと我慢したから!!? ……うっ!?」
嘘だ。実はちょっとだけ漏れている。
しかし、今この場で言わないでほしい。
ラウラは恥ずかしさのあまり、小さくなって消えてしまいたかった。
そんなラウラを、レオは手を取って上に引っ張る。
「ほら、もう少しだけ頑張って。しっかり自分の足で立って」
「で、でも、レオさん。これ以上は、」
立ち上がったラウラに、レオはそっと耳打ちする。
「…………え?」
「そういうことだから。最後までちゃんと見てて」
それだけ言うと、レオは席に戻ってこう言った。
「お金は取った? それなら次のゲームの場代はまたさっきの十倍でいいね? ディーラーさん、新しいカードを出して」
布袋の中の金貨が本物かどうか確かめていたジョンは、呆けたように聞き返した。
「……なんだと?」
「次の場代は百万G。一ポイントが十万Gか。……うん、これでやっと楽しく遊べる金額になったね」
ニッコリ笑うレオに、この日初めてジョンは、このレオという男の底知れなさを感じた。
そして思う。なぜこの男は、ここまで大負けしてもさらに大金を賭けることができるのか。
まさか、いや、ひょっとして。
疑念は脳内で渦を巻き、目の前にかすみがかかったように、視界がぼやけてくる。
そんなジョンの葛藤とは別に、ラウラも思考が追い付かなくなっていた。
先ほどレオから耳打ちで、こう言われたのだ。
「これは、二枚のコインなんだよ」
二枚のコイン、と言われて思い出すのは、初めてレオと会った日のことだ。
何度やっても当てることができないコイントス。
その理由は、レオのイカサマによるものだった。
つまり、それは。
仮面の男ジョンの強さも、イカサマによるものだということに、他ならなかった。




