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04話・カジノへGO


 フラメル魔術王国の王都は、いくつかの地区に分かれている。


 王城とその周辺の中央地区。地方貴族たちの別宅が立ち並ぶ北地区。金持ちたちの建てた豪邸が並ぶ北東地区。商業施設の並ぶ東地区、行政庁舎等が並ぶ北西地区などだ。


 南東地区や南地区は、王都内の一般市民向けの住宅が所狭しと立ち並ぶ地区で、王都内でもかなり雑然としているが、まだ治安は悪くない。


 そして、南西地区にはスラムがある。


 ここにはまともな人間は立ち入らない。

 王都内の危険な人間たちが数多く潜んでいるらしいが、その全容は誰も知らない。


 以前、ラウラとレオが出会った酒場は南地区内にあり、次に出会った奴隷市場は、国営事業所であることから、商業区域の東地区にある。


 そして、ラウラが大負けした賭場も、東地区にある。


 国営カジノの「ベラドンナ」という名前の店だ。


 ラウラを買った数日後の今日。

 レオとラウラはベラドンナに来ていた。


 名目は、一応はラウラの仇討ちと、主には単純にレオが遊びたいからである。


 この店は一般的な種目であればたいていのギャンブルができる。


 ルーレットもあればビンゴもある。


 魔導機械式のスロット台も多く並んでいるし、バカラやクラップス等も遊べる。


 マージャン台も、使おうと思えば使うことができる。


 そして人気があるのは、各種ポーカーだ。


 このカジノで使われている大量のトランプ(イカサマ防止のため、数ゲームごとにカードを入れ替えている)は、王都の東方にある、とある伯爵家の領内で大量生産されている。


 その他のギャンブル用品も合わせて製造し国内各地の賭場に販売しており、伯爵家領内の一大事業となっている。


 また、賭場で使われたトランプは使用後に回収、裁断され、原材料として再利用される他、使用済み格安トランプとして庶民の間にも出回っている。


 娯楽とは、生きる活力。


 フラメル魔術王国は、ギャンブル産業を推進しているようだった。


 少し前にこの国に来たばかりのレオは、ベラドンナの店内を見回して「お金がかかってるね」と呟く。


 国営カジノの内装は豪華だった。


 建物の天井は高く、大量の照明が明るく店内を照らしている。


 天井を支える大きな柱には細やかな装飾がなされていて、壁には彩り鮮やかな絵画が何枚も飾られている。


 床には柔らかい絨毯が敷かれ、休憩するためのソファは革張りで、吸い付くような肌触りをしている。


 頼めば冷たい飲み物や軽食、温かいおしぼりなどもすぐに出てくる。


 まさしく至れり尽くせりというやつだ。


「煌びやかなところだから、皆つい忘れちゃうんだろうね」



 ギャンブルは怖いものだ、ということを。



「君もどうせそうだったんでしょ、ラウラちゃん」


 レオは自分の後ろをついて歩くラウラに振り返り、尋ねた。


 ちなみに、であるが。


 レオの宿からこの賭場まで来るまでの間に、ラウラはまた着替えさせられている。


 ラウラが今着ているのは、たっぷりフリルの付いたミニスカメイド服(フルオーダーメイド品)だ。


 ここに来るまでの間に高級服店に立ち寄って、そこで着替えさせられた。


 メイド服は、白と黒のモノトーンをベースに、所々に金と青でアクセントが入っている。


 胸元は大きく開いていて谷間が見えるようになっているし、少し跳ねるとすぐに下着が見えそうなくらいスカートは短い。


 下着は赤のレース生地。

 白と黒の縞々ソックスは太ももの半ばまでの長い物。


 ラウラの体型にピッタリあつらえられたこの服を見せられたときは、さしものラウラもちょっと引いた。


 着てみると胸元と股下がすごくスースーする気がしたが、レオが「よく似合ってるね」と手放しで褒めてくれたのと、服の生地自体はすごく良いものらしく、着心地がとても良かったので、ラウラは文句も言わずに着てきている。


 さて、そんなラウラであるが。

 再び訪れた賭場の中をキョロキョロと見回していて、レオの言葉をよく聞いていなかったようだ。


「え、なにが?」


 慌てて聞き返す。

 レオは再度言葉を変えて問う。


「負けた時のことなんて考えずにギャンブルしてたでしょ、ってこと」


 そう言われて、ラウラは大きく頷いた。


「そりゃそうだよ。だって、負けること考えてたらギャンブルなんて怖くて出来ないもん!」


 それもそうだ。


「それにわたし、ここ来て最初のうちは勝ってたんだよ? 手持ちも数千(ゴルド)から、一時は百万G近くまで増えてたんだから」


「へぇ、それはすごいね」


「ルーレットがよく当たったんだー。まぁ、結局最後は有り金全部むしられて借金まみれにされちゃったんだけどね。まさかそこまで落ちるとは思ってなかったなぁ……」


 まぁ、普通の人間は自分の人生や命まで賭け台に乗せることを想定してギャンブルなんてしない。


 そこまでするのはよっぽど追い詰められた人間か、馬鹿か、道理の通じぬ異常者くらいのものだ。


「それで、もう一度確認なんだけど、ラウラちゃんは誰に負けたの? 種目は?」


「種目は、ポーカーだった。けど、普通のとはちょっと違ってて、たぶんこのカジノ独自のものなんだと思う。相手は……、あ、今日もいた」


 ラウラが指差した先には、ポーカー用のテーブルが並んでいた。


 その中のひとつ、他のポーカー台とは少し趣きの違う台に、顔の上半分を隠す仮面を付けた若い男が座っている。


 男の背後には、護衛らしき筋骨隆々としたスキンヘッドの男と、丸いメガネをかけた美人のメイドが立っている。


「あの仮面の男。この間も話したように、わたしはあの男に負けたの」


「彼か。けど、なんであんな仮面を着けているんだろうね?」


 レオは、ラウラを奴隷落ちさせた男を少し離れたところから眺める。


 着ている服は華美なものではないが、質の良い生地を使っている。

 身に付けている小物も少しばかり、いや、かなり値の張りそうなものばかりだ。


 後ろに控えた護衛の男も、いかにも荒事には自信がありますという風情。

 その横に立つメイドも、理知的な雰囲気を醸し出していた。


「さぁ、なんでかな? でも、なんとなく聞こえてきてた話だと、どこかのお貴族様の息子らしいよ」


「そうか。いかにも暇とお金を持て余してそうだね」


 仮面の男は、どうやら今も賭博に興じているようだ。


 仮面の男の対面には別の男が座っており、お互いが自分の目の前に並べたカードを順番に選び、それをディーラーの男がめくっていく。


 テーブルの上に置かれたプレートに、このゲームの名前が書かれていた。



 サーティーン・ポーカー。



 深い海のような青い眼を細めて、レオはゲームの様子をじっと見つめた。


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