03話・にぎやかな食事
「それで、本題なんだけど」
「はむっ、はむっ、モグモグモグ……! はむっ、モグモグ……! ゴクン! グビッグビッグビッ、ッはー! はむっはむっ、モグモグモグ……。ふぁい? ふぁんか言っふぁ?」
「……いいや、なんでもない。まずはご飯をちゃんと食べよう」
「モグモグモグ、ゴクン! はい!」
服を着直したラウラは、八つ当たりのように大量のサンドイッチを食べていた。
そして途中から奴隷市場に売られて以来のまともなご飯であることを思い出し、こうして一心不乱に食べて飲んで食べて食べて飲んでいる。
それほどお腹の空いていなかったレオは桃を挟んだサンドイッチを軽く摘みながら、お腹がぽっこりするまでドカ食いするラウラを眺めていた。
まるで面白い生き物を見つけたみたいな目でラウラを見ている。
ついでに買い置きのビスケットや干し肉、リンゴ等を出してやると、それらも全て平らげて、最後に残っていた炭酸水をラウラは一気飲みした。
「っはー! ごちそうさま! うぷっ、」
さすがにはしたないと思ったのか、ゲップが出そうなのはなんとか飲み込んだ。
レオは、ニコニコしながらその様子を見ていた。
「美味しかった?」
「はい!」
「なんだか、吹っ切れた感じがするね?」
「だって、もうレオさんには恥ずかしいところ全部見られちゃったし! それにわたし、なんかもう今が人生の一番下なのかなって思えてだいぶ落ち込んでたけど、それはレオさんがわたしを買ってくれたことでなんとかなるかもって思えてきたから、なんか元気出てきた!」
「単純でよろしい。僕としては、こうなる前にもう少し気を付けてほしかったけどね」
「うっ、それは、はい……」
「どうせこうなるんだろうな、ってのが顔見ただけで分かるぐらい君は悪い人から見たらカモにされやすそうな雰囲気を出してたから、わざわざイカサマゲームで負かしてあげて、都会は怖いところだって教えてあげたのに」
「わたし、そんなにカモられそうだった?」
「うん。今時こんなに純朴で、馬鹿だけど真面目そうで、でも馬鹿っぽい感じの子がいるんだなって思った」
「馬鹿って二回言う必要はなくない?」
大事なことだからね、とレオは笑う。
「案の定、借金まみれにされて奴隷落ちしてたし。ここ数日ちょっと気にして奴隷市場の前を通ってたんだけど、想定より一月ぐらい早かったよ」
「え……、じゃあレオさん、わざわざわたしのことを探してくれてたの?」
「いないと良いんだけどな、って思いながらね。それに、タイミングが悪くて別の人に先に買われてたらさすがに諦めてたけど、まぁその辺りも含めて、君は何かモッてる人間のようだ」
ラウラは、ふいにレオの足元を見た。
レオの履いているブーツ。以前はピカピカに磨かれていたのに、今は泥土で酷く汚れていた。
綺麗に折り目の付いていたスラックスの裾も、同じように砂埃でかなり汚れている。
それが、自分のことを気にして毎日歩き回って探してくれていたからなのかと思うと、嬉しいような情けないような、そんな気持ちにさせられて、ラウラは涙が込み上げてきた。
「レ、レオさ〜ん……! ごめ、ごめんなさい〜! わたし、せっかくレオさんが忠告してくれてたのに、ひぐっ、言うこと聞かなくて……! レオさんにたくさん、迷惑かけちゃった〜! うわ〜ん……!」
ボロボロと涙があふれ泣きじゃくるラウラに、レオは困り顔を浮かべる。
「そんなに泣く必要はないし、過去の自分を省みることができるのなら、それは成長していけるということで良いんじゃない? 僕も、全くの善意だけで君を助けたわけじゃあないし」
「うえ〜ん! じゃあレオさんはなんで、わたしを助けてくれたのさ〜!」
「さっきも言ったように、君みたいに純朴な人間は珍しいというのと、馬鹿は馬鹿でも君は質の良い馬鹿に見えたから、だね」
「質の良いバカって、なんだよぉ……」
「人を疑うことを知らない、底抜けに善良な人間ってことさ。僕にしてみれば、色んな事ができる優れた人間よりも、ラウラちゃんのほうが好きだよ。見ていて面白いし。なにより君といれば、しばらくは退屈しなさそうだ」
レオがニコリと笑う。
ラウラは涙を拭いながら、レオを見る。
「退屈しなさそうって……、それは、褒めてるの?」
「単に僕の気持ちの話であって、褒めても貶してもないよ。それより、そろそろ本題に入ってもいい?」
本題。
そうだ、先ほどのレオは何か話をしようとしていた。
ラウラはずびびっと鼻をすすり、居住まいを正した。
「ラウラちゃんが大負けしたっていう賭場と、その時の相手を教えてほしい」
レオは、涼やかな瞳でラウラを見つめながら、本題を口にした。




