表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/16

02話・お買い物日和


「なんでこんなところに……って、聞くまでもないか」


 奴隷市場の商品として並んだラウラに、レオは優しい笑顔を向けた。


 ラウラの目の前まで行ってしゃがみ、目線を合わせる。


「誰に騙されたの?」


「……っ!」


 ラウラは、口を開いて何かを言いかけたが。


「…………」


 直前で口を閉じて、顔を伏せた。


「言えないの? それとも、言いたくないの?」


「……わたしが、……ダメな子だったの」


 俯いたまま、ラウラはそれだけ絞り出した。


「ふーん? ……ねぇ、ラウラちゃん。僕が買ってあげようか?」


 ラウラは、しばらく無言の後、静かに首を振った。


「どうして?」


「……わたしに、レオさんにお金を出してもらう価値はないから」


 どうやらだいぶ重症のようだ、とレオは思った。


「……悪いけど、僕が欲しいものの価値は、僕が決める」


 それだけ言うとレオは立ち上がり、奴隷市場の従業員に声をかけた。


「そこで売ってる明るい茶髪の女の子、いくらなの?」


「へぇ、旦那。あれはほんの十日ほど前に入荷したばかりで、処女ではありますが、ほとんど仕込みらしい仕込みも行ってません。乳はデカくても特別な技能は何もなく、それでもよければ金貨三枚でお売りしますぜ」


 金貨三枚とは、すなわち三百万(ゴルド)だ。

 この国の一般的な成人男性の年収に相当する。


 ひとりの人間の人生を買う値段として高いか安いかはさておき、そこらへんの一般人が気軽に買える値段ではない。


「分かった、買うよ」


 しかしレオは即決すると、金貨三枚と大銀貨三枚を懐から取り出し、従業員の手に握らせた。


 従業員は、ニヤリと下卑た笑みを浮かべる。


「ちなみに聞くけど、ラウラちゃんはどうしてここの商品になったの?」


「へへ、どうにもあの娘、賭場で身の丈に合わねぇ額の勝負をして大負けしたようですぜ。売値の大半は負け分の負債で、あの娘自体の価値は、いいとこ小金貨換算で……っ!?」


 従業員は、それ以上話す前に口をつぐんだ。


「君のおしゃべりは美徳でもあるけど、悪徳でもあるね」


 レオの視線の温度が下がったことを、敏感に感じ取ったのだ。


「僕が欲しいものの価値は僕が決める。君の口から聞く必要は、ない」


 ゾッとするほど冷たい、氷のような視線に、従業員の男はゴクリとツバを飲んだ。


「へ、へぇ。すんません。無駄口叩いてないですぐに売買手続きを進めます」


「そうしてくれ。それと、首輪はともかく服はもう少しまともな物を着せたい。お金は払うから、近くの店に遣いの者を走らせてくれないか」


「へい、直ちに」


「それと……、着替えさせる時に、水浴びをさせてやってくれ。石鹸や香油が必要と言うならそのお金も払う」


 そうしてあれよあれよという間に、契約魔術で作られた契約書にレオがフルネームをサインして、ラウラの所有者はレオになった。




 ◇




 買ってこさせた服一式(無地の白ワンピース、木綿の白下着、木と皮のサンダル)を着させて、首輪をはめたまま暗い顔をしているラウラを連れて歩く。


 途中にある食堂で、焼いた鶏肉とレタスとトマトの挟まったサンドイッチと、シロップ漬けの桃を挟んだサンドイッチ、瓶詰めの炭酸水をいくつか買ってさらに歩く。


 レオは、自分が借りている宿にラウラを連れてくると、ラウラを自室のベッドの上に座らせた。


 不安げな表情を浮かべるラウラ。


 買ってきた食料は、壁際のテーブルの上に置いた。


 天井から吊るされた魔導ランプの灯りは小さく、部屋の中は薄暗い状態だ。


 レオは、出入口のドアとベッド脇の窓を施錠すると、ラウラの向かいに椅子を置いて、そこに腰を下ろした。


「まず、これは命令。僕の言うことには従うこと。僕の質問には正直に答えること。返事は?」


「……はい」


「じゃあまずは、着ている服を全部脱いで」


「えっ……?」


 ラウラが思わず聞き返すと、レオは不思議そうに首を傾げた。


「聞き取れなかったんならもう一度言おうか? 僕の目の前で全裸になるんだ。ついでにそうだな、そのベッドの上で四つん這いになって、お尻をこっちに向けて。僕になにをされても全て受け入れて、僕が『もういいよ』と言うまでベッドから降りることを禁ずる」


「あ、あの、レオさん……?」


「ラウラちゃん、早くしないと強制力が働くよ? あれの苦痛は、なかなかに強力だ。生爪を剥がれるほうがまだマシなくらいで、君がその痛みと苦しみに耐えられるとは、とうてい思えないけど」


 ラウラの顔がさぁっと青くなる。

 その痛みなら、ラウラも知っている。


 奴隷市場に売られた初日に、奴隷契約がきちんと締結されたかを確かめるという名目で、強制力を使われたからだ。


 ほんの十秒ほどの出来事だったが、あまりの痛みと苦しみで声を出すこともできず、ラウラは地べたでのたうち回ったことを覚えている。


 そして市場の支配人に、「もし逃げ出せばこの苦痛がずっと続くからな」と脅されれば、奴隷市場から逃げ出す気力も失せたのだ。


「うっ、ああ……」


 ラウラは、泣きそうになりながら、震える手でワンピースの裾を掴んだ。


 そしてゆっくりと、レオの目の前で裾をまくり上げていく。


 異性に裸を見られることの恥ずかしさと、苦痛に対する恐怖で頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。


 ワンピースを脱ぎ去り、下着とサンダルを脱ぐと、ラウラは恐る恐るといった様子で、ベッドの上で四つん這いになった。


 お尻をレオに向け、顔は壁に向ける形だ。


「こ、これでいい……?」


 背中越しに振り返って問うと、レオが自分のお尻をじっと見つめているのが分かった。


 一気に恥ずかしさが増してくる。

 ラウラの顔が、一気に赤くなる。


「もっとお尻を突き出して。あと、こちらを振り向くのも禁止」


「は、はい」


 ぐっとお尻を突き出すと、レオの顔がお尻のすぐ近くに寄ってきたような気配がある。


 女の子としての大事なところを、全てレオに向けてさらけ出している。

 何もかもを見られている。


 その事実は、ラウラの胸中に判別不能な昂揚感を与えた。


「はぁっ、はぁっ、」


 あまりの恥ずかしさに心臓がドキドキしている。

 体温が上がってきたのか、額からは汗が流れた。


 やがて、自分の背後でカチャカチャという音と、衣擦れのような音が聞こえてきた。


 ラウラの心臓が、よりいっそうドクンと跳ねた。


 このシチュエーションで、この後の展開など、ラウラの脳内に思い浮かぶものは一つしかない。


「レオさん、わたしその、こういうことをするのは初めてで、……だからあの、や、優しくしてほし、ひゃあんっ!?」


 突然、ラウラの丸いお尻に冷たい物が触れ、ラウラは悲鳴を上げた。


「ラウラちゃん、『もういいよ』。脅かして悪かったね」


「え、」


 ラウラが振り返ると、悪戯っ子のような笑みを浮かべたレオが、炭酸水の入ったビンを手に持っていた。


 先ほどの冷たい感触は、あのビンをお尻に当てられたからのようだ。


「期待していたようなら悪いけど、僕はそういうことをするつもりで君を買ったんじゃあないんだ。けど、今の君がどれほど危ない立場にいるのか分かってもらうには、こうするのが一番早いと思ってね」


「き、期待なんかしてないけど!? うっ……!?」


 軽く強制力が働いて、胸が詰まる。


「正直に答えないとダメだよ?」


 レオは、意地の悪い笑みを浮かべている。

 ラウラは、仕方なく正直に答えた。


「うー……、ちょ、ちょっとだけ、……物語の一幕みたいで、こういう初めても悪くないかもって思ってた。レオさん、顔はカッコ良いし……」


「ははは。そういうの、言ってて恥ずかしくない?」


「レオさんが言わせたんじゃん!! 恥ずかしいに決まってるでしょ!?」


 あまりの物言いに、思わずベッドから飛び降りてレオに詰め寄る。


 するとレオが。


「ラウラちゃん。怒るよりも先に、前を隠したほうが良いんじゃない?」


 言われて、ラウラは自分が全裸であることを思い出した。

 同年代の平均より遥かに豊かな双丘や、逆に同年代と比べれば遥かに薄い茂みが、丸出しのままだ。


「〜〜〜〜〜っっ!!? レオさんの、馬鹿ぁ!!」


 ラウラは、もうどういう感情でいればいいか分からないまま、先ほど脱ぎ散らかした服を着直し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ