15話・居場所の価値
祝勝会が終わってスミと別れ、レオとラウラは宿に戻った。
ラウラの部屋は、同じ宿のレオの部屋の隣だ。
ラウラがレオに買われたその日に、レオがもう一部屋借りてくれている。
ラウラは、レオに買われた初日に全裸を見られたが、それ以降は特にこれといったことはされていない。
日中、一緒に外に出てご飯を食べたり、レオに付き合って公園で遊ばされたり(キャッチボールとかフリスビーとか)、目についた服屋に連れて行かれて着せ替え人形みたいにされたり、夜にラウラの部屋で一緒にゲームをして遊んだり(カードやボードゲームだ)といったことはあったが、それだけだ。
まだまだラウラは、花も恥じらう乙女である。
今日、ちょっと肌の露出の多い服(ミニスカメイド服)を着せられたが、それもどうやらジョンの怒りを煽るために着せただけのようだったので、ラウラとしてはちょっと拍子抜けだった。
「そうだ、この後ちょっと僕の部屋に来てよ。服はそのままでいいから」
なので、夜も更けて自分の部屋に入ろうとした時にレオにそんなことを言われて、ラウラは「とうとう観念する時が来たかー」と本気で思った。
「えっと、それは、この後ナニをするという話……」
「お金の話だよ。そんなに心配、いや、期待しなくても大丈夫」
「あ、ハイ」
なんだそんな話か、と思いながら一旦部屋に入り、すぐに出てレオの部屋に入る。
「でも、お金の話と言われても、わたしに関係するお金って何があるの?」
「今日のゲームの取り分の話だよ。僕は、君のおかげで今回のゲームが楽しめたからね。だから君も、今回の勝ち分のうちの幾らかを受け取ってほしい」
ラウラは、えっ、と驚く。
「わたしにもお金を分けてくれるってこと? ほんとに? いいの?」
「もちろん。それじゃあはい、これがラウラちゃんの分」
レオが取り出した皮袋を、ラウラは素直に受け取る。
何千Gとかのお小遣いぐらいの額かと思いながら袋の中の硬貨を取り出して、ジャラジャラ金貨が出てきたのでオシッコちびりそうになった。
「は!? え! これ、何G入って」
「勝ち分の五パーセントだから、五千万G入ってるよ」
「ご……っ!? 馬鹿じゃないの!? レオさんホント馬鹿!!」
ラウラが叫ぶと、レオは首をひねる。
「やっぱり一割ぐらい欲しかった?」
「逆!! 多すぎるよ! わたし何もしてないのに、こんなにもらえないってば!」
ラウラが本気でお金を返そうとすると、レオは「命令ね。素直にお金を受け取ること」と言ってくる。
ラウラは返せない大金を手に、泣きそうな顔になっていた。
「というか、わたしこんなにお金もらっちゃったら、自分の身柄をレオさんから買えちゃうよ?」
ラウラは、三百万Gでレオに買われている。
だから、その分をレオに払うことができれば、ラウラはレオの奴隷ではなくなることができるのだ。
だというのに。
「良いよ。買いたいなら売ってあげる。そうすれば君は晴れて自由の身さ」
「へ? レオさん?」
レオは、優しく微笑みながらラウラを見つめる。
「最初に言ったように、僕が君を買ったのは、君と一緒にいれば退屈しなさそうだったからだ。そしてそれは、ここ数日だけでもそうだった。僕は、君と一緒に遊ぶのが楽しい。これかも君と仲良くしたい。けどそうなってくると、今の関係性はちょっと特殊だ。今の君は、常に僕に心臓を握られているような状態だ。君がそれを嫌だと思っているなら、その関係のままでいるのは、僕も嫌だ」
だから、とレオは続ける。
「君の気持ちが知りたい。これは、命令じゃない」
「…………」
「自分の身柄を買って自由になりたいなら、そうしてくれても構わない。そしてその時は、……それでもまた僕と遊んでくれると、嬉しい」
突然のことに、ラウラは戸惑う。
そしてレオの瞳を見つめ返して、ふと気付く。
「レオさんって、もしかして友達少ない?」
「え? うん。スミ君ぐらいだね、友達と言えるのって。けど、どうして?」
「だってレオさん、今のってアレでしょ。奴隷じゃなくて僕の友達になってよ、ってわたしに言ったんでしょ? けど、直接そう言うのは恥ずかしいから、わたしに選ばせてる形にして、奴隷じゃなくなったわたしが『これからも友達として仲良くしてほしい』って言うのを期待してるんでしょ?」
「…………そんなことは、」
「あるって。誘い方が、友達欲しいけど友達少ない人のやり方だもん。わたしの地元の漁村にもそういう人、何人かいたもん」
「…………そっか」
レオは苦笑いを浮かべて、観念したように両手を挙げた。
「まぁ、そうだね。その通りだと思う。僕は、君と友達になりたい。本当は最初に酒場で会った時もそう思ってたんだと思う。だけど仲良くなるためにと思って始めたゲームで君が想像以上によく騙されてくれたから、騙した手前言い出しにくくて、また会った時に言おうと思って別れたんだ。そしたら君が奴隷として売られてるのを買っちゃったものだから……」
「ははぁー。それで、一旦関係を清算する機会を待ってたと。で、それがわたしの仇討ちが終わった今日だったと」
なるほどなるほど、とラウラは頷く。
そして、
「レオさんって、わたしがレオさんに言われて何かしてるの、嫌々やってるって思ってたの? 奴隷だから、しぶしぶ従って一緒に遊んでると思ってた?」
そんなことないよ、とラウラは言う。
「わたし、レオさんに買われてからのたったの数日だったけど、毎日楽しかったよ? 地元にいたままだったら、なんとなく生きてなんとなく働いてなんとなく結婚して、色んなことをよく知らないまま一生をあの寂れた村で過ごしてたと思う。それが嫌だったから王都に出てきたし、ちょっと失敗して奴隷になっちゃったけど、レオさんが買ってくれたからそれもチャラかなって思うし」
「…………」
「わたし、自分でも自分が単純な人間だとは思ってるんだけど、レオさんと遊んでる時のわたしって、つまらなそうにしてた?」
「……いや、楽しそうだったよ」
「でしょ? だから、今の関係がどうとかって、そんなに関係ないよ。わたしはレオさんの奴隷でも全然いい。けど、」
ラウラは、手の中の皮袋を掲げる。
「このお金って、スミさんには渡したの?」
「スミ君に? いや、渡してない」
「それはどうして? スミさんとわたしだったら、スミさんのほうが活躍してたじゃん。なのにどうして、わたしのほうにだけお金を……、いや、逆だ。どうしてスミさんにはお金を渡さないの?」
「スミ君は、……そういうの、受け取らないから」
「それって、スミさんがレオさんのこと、友達だと思ってるからなんじゃない?」
「……!」
そこでラウラは、良いことを思いついた。
「でも、このお金はわたしがもらっちゃってもう返せないなら、使っちゃっていい?」
「うん。それは、もちろん」
「じゃあ、これ全額レオさんにあげる」
「え?」
「これは、アレ。友達料ってやつ? いや違うか、えっと、……そうだ」
ラウラは、ニンマリ笑って言った。
「これで、レオさんの隣に居る権利を買う。こうだ、これが一番しっくりくる」
「隣に居る権利……?」
「そ。奴隷だとか友達だとか、関係に色んな名前がついたとしても、変わらず。わたしがレオさんの隣に一緒に居続ける権利を、五千万Gで買う。これでどう?」
「それに、五千万を使いたいと?」
「うん。レオさんも言ってたでしょ? 自分が欲しいものの価値は自分が決めるって。わたしにとっては、ここは、五千万払ってもいいぐらいの価値があるの」
ダメじゃないなら、受け取ってくれる?
と、ラウラは言う。
レオは、
「……うん、分かった。売った」
「やった! いやぁ、良い買い物したなー」
へへへ、と笑うラウラを見て、レオもつられて笑う。
「それじゃあ、これからもよろしくね」
「はい、こちらこそ」
「また何かしたいことがあったら言うし、ラウラちゃんも言ってね」
「わたしも、本当に嫌だったら言うし、それでもしたいことなら命令して。そうしたらわたし、逆らえないから」
「ははは。なるべくなら、そうしたくはないけどね」
さて、話も一区切りついた。
あとはもう寝るだけなのだが。
「ねぇ、レオさん」
ラウラは自分の部屋に帰らずに、なぜかレオの部屋のベッドに腰掛けた。
フリフリミニスカートから伸びる脚をぷらぷらさせて、レオを見つめる。
「わたし、今日は朝まで一緒にいたいな。……ダメ?」
「……それは、どういう意味?」
問いながら、レオはラウラの隣に腰を下ろした。
「言わせないで、恥ずかしいから」
「ちゃんと言ってみて。これは命令」
「えー……、もう、レオさんの馬鹿」
ラウラは頬を赤らめると、レオの耳に唇を寄せて、こっそりと言う。
それを聞いたレオは、ラウラに。
「んっ……、はぁ、レオさん……」
「ラウラちゃん、甘い味がするね」
「ケーキ食べたから、あ、んっ……、レオさん……!」
この後、夜が明けるまで二人の声と息遣いが、狭い部屋の中に響き続けた。




