14話・種明かし
「で、ここからは僕がやったことの話なんだけど」
「あ、うん。レオさん、何をどうしたの?」
「実は、昨日一人であの賭場に行って、あの台でしばらく遊んでたんだよね」
「え、そうだったの?」
確かに、昨日どこかに遊びに行っていたようだったけど、とラウラは不思議に思う。
「ゲームの実際の流れを確認したかったのと、ディーラーさんから色々話を聞きたかったからね。それで、どうやらあのゲームって、一年くらい前から始まったものらしいんだけど、ジョンが遊びに来るようになったのも、ちょうどそのくらいからなんだってさ」
「ほう。つまり、あの男がそのゲームを始めさせたと?」
「たぶんね。そして、それと同時にあのイカサマカードを使い始めたんだと思う。実家が経営してる印刷所の一部をこっそりと使って印刷すれば、いくらでも作れるだろうから」
「でも、レオさん。あのカジノで使ってるトランプって確か、ワルイゾバンク伯爵様のところで作ってるんでしょ? それならあの男って…….」
「ワイルドダック伯爵、ね。そうだよ。ジョンはワイルドダック家の人間だよ。だからこんな風に、カードそのものにイカサマを仕込めたんだ。普通のカードに後から目印を付けるのとかはわりとみんな考えるんだけど、製造段階で一部の人間しか知らないイカサマが仕込まれているなんてことは、普通は考えない」
「確かに、そうだね」
「なぜなら、そんなことをしているのがバレれば、そこで作っている他の商品も怪しく見えて誰も買わなくなってしまうからだ。信用を失うようなことをするはずがないと、みんなが思うからこそこのイカサマは使えるんだ」
「それじゃあ、あの男のしてたことって!」
「実家に知られれば大問題になると思うよ? そして、それを利用されて負けたとなれば、向こうはお金を払うしかなくなる。そこで支払いを渋れば、僕がそのイカサマの秘密を世間に公表するかもしれないからね。そうなったら十億どころじゃすまない額の損害が出るだろう。そうならないためには、人知れず素早くあの賭場のイカサマカードを全て回収したうえで、口止め料として僕にお金を払うか、……僕の口を封じなくてはならないんだ」
「……身辺警護が必要か?」
スミが問うが、レオは笑って首を振る。
「いや、僕の命を狙うのは、向こうからすれば余計なリスクを負うことになる。もし失敗すればそもそも交渉の余地がなくなるし、僕が死んでも、契約書の効力は消えない。ワイルドダック伯爵が、自分の息子の命諸共僕を消そうと思えば話は別だけど、そうでないなら、必ずお金を払うよ」
「ふーん……、なるほど……? それで、結局レオさんはどんなイカサマをしたの?」
「このカード、普段はジョンが来ている時しか使わないんだけど、いつジョンが来ても良いように常にディーラーが取り出せるところに保管されているんだ。そして、実は僕が昨日あの店に着いた時、まだジョンが遊んでてね。それでしばらくは遠くから様子をうかがってたんだけど、ジョンがいたときとジョンが帰った後では、ディーラーさんが新しいカードを取り出すところが違っていた。それで僕は思ったんだ、そこに何か秘密があるんだろうってね」
そこまで言うとレオは、どこからともなく金貨を取り出して、机の上に置いた。
「だから、売ってもらった」
「ん? なにを?」
「特製のイカサマカードを、その時のディーラーさんを唆して、一箱金貨五枚で売ってもらった」
「……え?」
「そしてカードをじっくり確認したらイカサマのタネが分かったから、それを利用してジョンをハメることにし、買ったカードに細工をしたんだ。今回の最後の勝負で僕が使ったカードは、その細工したカードさ。ジョンが契約書に目を通しているときにすり替えたんだ」
「……ええー!?」
レオはさらに、別のカードの束を取り出して裏向きでテーブルの上に並べた。
「細工のタネも単純さ。このカードは、細工だけして使わなかったものなんだけど、ラウラちゃん、このカードの数字は何か分かる?」
並べたカードのうちの一枚を指差す。
ラウラが花びらを確認すると、時計の七時の位置の花びらが細くなっていた。
「7?」
「実はこれ、9なんだ。ほら」
「え、ウソ!?」
レオがカードをめくると、確かに9であった。
「こっちは?」
「……4?」
「残念、6なんだよ」
「それなら、そのカードがAか?」
スミが一枚のカードを指差して問う。
カードの花びらは、十二時の位置が細くなっているが、
「スミ君大正解。これがA」
「なるほど。数字二つ分ずらしているのか」
「そう。買ってきたイカサマカードを、こうして……」
レオが右手を開くと、レオの右手からパチパチと紫電がほとばしった。
驚くラウラを尻目に、置いてあるカード撫でるようにして右手を軽く振り払う。
すると。
「こう……。そうするとほら、一枚のカードが二枚になった」
「……ええ!?」
置いてあったカードは、表面と裏面できれいに分割されていた。
「で、裏面を入れ替えて、こう」
表面と裏面を別のカードにして角をきれいに合わせると、そのカードを右手に持って、またバチバチと放電する。
そのカードをラウラに渡して確認させた。
ラウラが色々と触ったり擦ったりしてみたが、きれいに一枚のカードとして張り付いて離れなくなっていた。
「紫電薄刃っていう薄いものをさらに薄く切れる魔術と、磁化電接っていう薄いもの同士を張り合わせる魔術で、カードの裏面と表面を二つずつズラしたカードを作った。こうすると、例えばジョンが2のカードをAにぶつけたつもりが、本当は3にぶつけていたわけだし、AのカードをKにぶつけたつもりが、実は2にぶつけていたということになる」
「……はぁー、なんか、もう、」
カードのすり替えも、ディーラーの買収も、魔術でのカードの細工も、実は全部やっていたわけだ。
なんだかもう、ラウラは言葉がでない。
「ジョンは、僕への怒りや、手前の勝負で大勝ちしていたことで、そのあたりのイカサマを全く考えずに勝負を受けた。自分が完全勝利するために、自分のカードより一つ弱い僕のカードを、裏面を見て決め続けた。そうして選んだ僕のカードは、実はジョンのカードより一つだけ強いカードだったわけだ」
だからジョンは負けた。とレオは笑う。
「ジョンは、負けるべくして負けた。そしてそのことに最後まで気付かなかった。その結果が、十億という大負けさ。……勝負の結果を知った時の彼の顔を見て、ラウラちゃんはどう思った?」
「え?」
「今回の勝負は、一応君の仇討ちでもあったんだけど。君を奴隷落ちさせた憎い男の、感情という感情が抜け落ちたあの顔を見て、少しはスッキリした?」
そういえばそうだった、とラウラは今さらながら思い出す。
なんだか勝負の展開が急激すぎて、すっかり忘れていた。
「うーん……。なんか、逆に可哀想になってきて、別にスッキリとかはそんなに……」
「ありゃ、そうなの?」
「うん。なんていうか、こう、憐れみすら覚える」
途端にレオが噴き出した。
「あはははは! そっか、ジョンもまさか、自分が奴隷落ちさせた女の子に憐れまれるとは思わなかっただろうさ! ははははは!」
愉快ゆかい、とレオは本当に楽しそうに笑う。
それを見てラウラとスミは、不思議そうに顔を見合わせたのだった。




