金魚
気がついたらここに居た。隣には猫がいる。白い猫だ。
猫は言う。
「あなたは駄目な人間だ」と。
私は思う。この世の中には駄目な人間しかいないと。
私は歩く。猫が付いてくる。
私の周りで金魚が泳ぐ「こっちへおいで」と。
猫は気にしない。だから私も気にしない。でも、気付かぬうちに道を逸れていく。猫も気付かない。
道の端にぐったりと金魚が倒れていた。土に塗れ、不細工だ。
私は少し躊躇った後、手を伸ばした。猫は何も言わない。
金魚を両手で掬う。金魚は弱々しく身じろぎした。だらんと尾びれが垂れ下がる。
じっと見つめる。突然、金魚がぶくぶくと肥大する。一瞬で私の何倍もの大きさになった。
私は驚いて尻もちをつく。目の前で怪魚がゆっくり口を開く。肉塊を無理矢理ひっつけたようなぶよぶよとした皮膚の切れ目から、ピラニアのような歯がぞろりと現れる。
怖い。気持ち悪い。
怪魚が私に噛み付いた。慌てて体を捻る。怪魚の歯があたり、肩が削れる。
逃げなきゃ。
私は地面を蹴った。でも、2歩目は無かった。
上体が倒れて、穴に落ちる。深い、穴だ。
慌てて穴の淵を掴む。いたずらに指を傷つけるだけだった。ごつごつした穴の側面に足をかけようと試みる。弾き飛ばされて側面で肘や膝に傷をつけられるだけに終わった。
全身が痛む。穴の底で上を見上げる。猫が怪魚に立ち向かっていた。
私はナイフを拾う。いつの間にか周りには金魚たちが浮いている。
私は穴の側面にナイフを突き刺し、登っていく。血が垂れる。
穴から這い出ると怪魚は私に興味を無くしたようにゆっくりと去ろうとする。徐々にその姿が金魚に変わっていく。
私は怪魚にむけてナイフを投げる。ナイフは怪魚の肌に突き刺さった。
金魚になった怪魚はいつも通り他の金魚に近づく。金魚たちは逃げていく。
私は、ざまあみろと思った。
猫は言う。
「あなたは駄目な人間だ」