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重ねて這って、噛み砕く

作者: 芹川紅菜

思い返せば告白は言葉を重ね過ぎた。


「これは妄想のお話だけどさ、つまらない想像なんだけどさ」


気遣い過ぎなほど、過剰に恐れる様に息を重ねていく。

嫌われないように、真意が伝わるように、伝わらないように。


「もしさ、目が見えなくなっちゃっても、僕が分かるように、この手を重ねたら真っ暗でも安心できるように、大切に大切にしていくから。足音も息遣いも、衣摺れも瞬目も、持ってる全部を伝えていくから。愛してるよって、言葉にしてもしなくても、大好きが伝わるようにするから」


愛を吐いてるようで、その実懇願でしかなく。

独りよがりの願望を叩きつけたのが悪かったのだろうか。悪いに決まってるが、そんなに非道いことだったろうか?


「これからも、そばにいてくれないかな」


君はなんと言っていただろうか。

大切な情景ほど、感情の靄が視界を侵して時につれて霞んでいる。

裸眼の視力検査みたいだ。1番大きいCが一体誰を見つめていたのか、それさえも罪深い僕は思い出せない。


「うん、うん…」


彼女も目に見えて感動していた。

今に思えば、正直何を言っても彼女は震えていただろう、きっとお互いに脳内麻薬に浸っていたし、快楽に溺れていた。彼らの熱は、そういった性質を帯びていた。


僕はまるで意を決したかのように、生唾を飲み込む素振りをポージングする。

確かに浮かされた演技だが、どこか本質的な部分の開示だと信じて止まなかった。

それさえも、今では欺瞞に感じる。


「大好きだよ」


感極まったかのように口に出せば、心臓が遅れて鳴り出す。都合の良い偽薬は、自己暗示を伝播させて、相手に感染した。

共用のプラシーボは、用意された椅子にふんぞり返っては自己肯定に満ちている。


「……うん、私も。好き」


その後はなんだったか、感情のままにキスでもしたのだったか。もう覚えていないが、共に溺れていたのは脳裏にまだある滑稽に踊る背後の2人が証明している。


時間が経った。

別れた今だからこそ思う、今思っていても、疾うにその意味は消失している。


愛を語るなら、自分の目で例えるべきだった。

目が見えなくなっても、生きる希望を失って何もかもを諦めそうになっても、生きる理由は君だけで満足だと。

彼女の生きる理由を傲慢にも自分に置き換えて、自分に何の意味も無くなったとしても、貴女が死なない為に生きると。

そう、舌の上でだけでも転がしていれば、そういうスタンスであったならば、結果は違ったのではなかろうか。


「ははっ、きもちわりぃ」


未練がましく無意味な感傷は、大人になった僕の肺を汚す煙と共に空に舞い、きっと明日には忘れてる。






閲覧ありがとうございます。

執筆活動から縁遠くなっておりましたが、また文章に向かえる精神になりましたので書きました。


一年前の今頃執筆しました「輪郭、情に馳せる」の後日談です。

愛とは何か少し考えが改まりましたので、物語もまた進みました。

読んでくださいました皆様のご多幸があらんことを。

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