12話 対ヨトゥン対策チーム5
† † †
入り口こそ狭かったものの、中の洞窟は天井も高く広かった。フェルナンドとオズワルドのパーティのシーフふたりが前を歩き、そのすぐ後ろにエルンスト・ブルクハルトとスケッギョルドが続く。
「これは、最悪かもしれないな」
「まったくだ」
ひとりのシーフの呟きに、エルンストは同意する。洞窟の奥へ進めば、どんどんと気温が下がっていったからだ。エルンストは集団の中で真ん中で前後を護られるようにしていたイザボーへ問いかけた。
「イザボーさん、このあたりの洞窟はここまで気温が下がるものなのか?」
「いいえ、むしろ地熱で温かいのですが……」
「なら決まりだな」
雪狼の群れは習性として、山岳部に住み着くことが多い。昼になれば森へ狩りにでかけるが夜間は一箇所に集まり外敵への襲撃に備えるのだが――。
「もしかして、洞窟を巣に?」
「それだけ増えてるんだろうな。地上部分だけ見てもわからない訳だ」
ヨトゥンが雪狼と共生しているかもしれない、その情報があるからこそここで警戒できるのだ。ヴィンセントたち“銀剣”のパーティがその情報を持っていなければ、確かに最悪な状況に踏み込んでしまったかもしれない。
「慎重に進みましょう、エルンストも加わって三人体勢の先頭になってくれる」
「了解」
ウェンディ・ウォーベックの指示に、ふたりのシーフの横へエルンストが加わった。専門ではないが、どちらかと言えばこの状況で求められているのは戦闘能力だ。
そのまま二〇名は、洞窟の奥へと進んでいった。
† † †
「――止まってくれ」
オズワルドパーティのシーフの声に、エルンストは足を止める。靴底から伝わる不思議な感触、それを完全に踏み切らずにすんだ。
「霜か」
「らしいな。霜が張るほど、寒くなっているらしい」
前方は丁字路だ、どちらへ向かうべきか――オズワルドパーティのシーフがオズワルドを振り返った。
「魔法の目を飛ばす。いいか?」
「ええ、お願い」
オズワルドの確認に、ウェンディが頷く。魔法発動の触媒である短杖を手にオズワルドが唱えた。
「――魔法の瞳よ、在れ」
右目を閉じたオズワルドの目の前に音もなく現れたのは、ひとつの眼球だ。それを見て、スケッギョルドが顔をしかめる。
「うわ、気持ち悪いッスね」
「悪いな、見た目はスルーしてくれ」
スケッギョルドのあけすけな感想に、オズワルドは苦笑い。オズワルドの思考通りに魔法で生み出し視界を共有する魔法の目が丁字路に向かっていくのを見て、エルンストは興味を示した。
「有効距離と効果時間は?」
「半径一〇メートル程度、効果時間は一〇分程度だ」
「いいな、使える」
「残念ながら魔法の巻物化はできないぞ」
そいつは残念だ、とエルンストは苦笑する。魔法の巻物にして使えない、ということは魔法の才能のないエルンストには使えない、という意味だ。使えれば、ダンジョン探索の幅が大きく広がると思ったんだが。
「後、よしんば使えてもソロではオススメしない。視界共有のせいで距離感がブレる。完全に偵察用だ」
オズワルドを守るように、シーフふたりとエルンストが丁字路へ向かう。五分ほど経ったぐらいか、オズワルドはげんなりした表情を見せた。
「いた、青い肌の巨人だ。雪狼も周囲にいるな」
「あー、それヨトゥンっスね。間違いないッス」
「そうか、“剣聖姫”。右側には左肩に銀剣が突き刺さったヨトゥンがいた。おそらく、ウィンセントにやられて負傷してる」
手負いのヨトゥン、それは朗報だ。少しは負担が減るだろう、そう皆が思ったその時だ。
「――最悪なことに、逆の方にもう一体無傷のヨトゥンがいる。離れてはいるが……戦いの音を聞かれると、挟撃されるかもしれん」
オズワルドはまさに上げて落とすの綺麗な流れを見せて、場を凍らせた。
† † †
「さて、悩ましい二択になったぞ?」
フェルナンドの言葉こそ、話し合う議題そのものだった。この場合、戦闘を選ぶなら選択肢はふたつとなる。
「一体を先に集中攻撃して倒して迎え撃つか、俺と“剣聖姫”のパーティがそれぞれ分かれて同時に別個で戦うか、だ」
「……後者はせっかくの利点を失うわね。私としては手負いの方を一斉に襲って手早く始末したいけど……」
フェルナンドの二択の内、前者を推してウェンディは仲間たちを見る。一部の人間は気づいているのだ。この二択、実はもう一段階選択肢がある。
「――俺とコレが片方を足止めしている間に、お前たちで一体を倒すってのはどうだ?」
誰よりも早く、そのもうひとつの選択肢を口にしたのは他でもないエルンストだ。倒すのではなく、時間を稼ぐ――そのつもりでやれば、相応の戦い方もある。
確かに足止めがあれば、合流するのはかなりの確率で防げるだろう。だが、ウェンディは一番の問題点を口にした。
「自分たちが一番危険だってわかっていってる?」
「これが一番確実だろう」
この選択肢を選ぶための一番の問題は、もっとも危険な立場に立たされるエルンストとスケッギョルドの了承を得ることだったのだが――。
「別に、こっちで倒しちゃってもいいんスよ?」
「ははっ、でかくでるね」
余裕綽々のスケッギョルドに、フェルナンドも笑うしかない。フェルナンドが、ウェンディを見下ろす――その視線が、もう意見を決めていたのを察して“剣聖姫”は頷いた。
「わかった、お願いするわ。ただし、無理はしないでね」
「そっちもな」
作戦は決まった。だからこそ、その場にいた者は全員手早く準備を整え始めた。
† † †
ヨトゥン一体と雪狼の群れ、それがふたつ。せめてもの、とエルンストとスケッギョルドに割り当てられたのは、銀剣を左肩に突き刺され左目を失ったヨトゥンだった。
「こっちを連中がやって急いで来てくれた方が気楽ではあったんだが……甘えさせてもらうか」
「そうッスねー」
エルンストが物陰で黒一色のロングソードを抜く。スケッギョルドも純白のバトルアックスを手に取った。
「向こうの戦闘が始まって、連中が反応したら光の斧でまず雪狼の群れを潰せ。俺がヨトゥンの足止めをやる」
「了解ッス」
エルンストは、ニコニコと笑顔のスケッギョルドを見下ろす。
「……この状況でその笑顔か、ヴァルキュリアってのはどうしようもないヤツだな」
「やだなぁ、なに言ってるんスか」
小声ではしゃぐ、という器用なことをしつつ、スケッギョルドはじっと上目遣いでエルンストを見上げて、心の底から嬉しそうに指摘した。
「――今、ご主人様も笑ってるッスよ」
まさか、とエルンストが否定しようとした時だ。洞窟内を揺るがすような衝撃――どうやら、向こうでヨトゥンとの戦闘が始まったらしい。
そこで即座にエルンストは意識を切り替える。余計なことは考えない。目の前の戦闘にだけ集中した。
手負いのヨトゥンと雪狼の群れが反応するのに、エルンストは短く告げる。
「行くぞ」
「はいッス!」
† † †
せめて、ただ目の前の戦いを――戦闘、開始です。
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