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11話 冒険者ギルドタルソス『4th』支部

   †  †  †


 冒険者ギルドというのは、平たく言えば冒険者を管理する仲介組織である。冒険者へ依頼を頼みたい依頼者を募り、その依頼に適した冒険者を割り当てて仲介料を得ることで成り立っているのが冒険者ギルドの()()である。

 もちろん、例外もあるのだが――そこは割愛しよう、語るのにふさわしい時が来ないことを願って……。


   †  †  †


 タルソス大迷宮地下三六階にある迷宮都市タルソス『4th(フォース)』、そこに冒険者ギルドタルソス『4th』支部がある。

 珍しく支部長室にいるエルドガルドは、不意に来訪者にあからさまな愛想笑いを浮かべた。


「まさかあなたが直接来るとはね、ヘイスベルト卿」

「ふん、うちのオズワルドのパーティを持ってかれたからの。相応の挨拶はいるじゃろうよ」


 愛想笑いのエルデガルドに、小柄だがガッシリとした体躯の老人であるヘイスベルトが苦々しい表情で言った。白い髪に白い髭、褐色の肌。酒樽のような体型――ヘイスベルトは絵に描いたような典型的なドワーフであった。

 そして、本来なら地下二四階にある迷宮都市タルソス『3rd(サード)』の冒険者ギルド、その支部長その人でありウォーベック辺境伯付きの男爵位を授かった正真正銘の王国の貴族である。


「“銀剣(ぎんけん)”がやられた、と聞いたが……ヨトゥンとはのぅ。連中、群れで動かんのじゃろ? “銀剣”がやられるとは信じられん」

「ああ、そういえばヴィンセントの銀剣を打ったのは――」

「ワシじゃ。じゃからこそ、ヤツめの腕前はワシもよく知っておる」


 元はエルデガルドもヘイスベルトも冒険者であった頃がある間柄だ。エルデガルドは迷宮を調べたいという知的探求心から、ヘイスベルトは迷宮から取れる素材で良い武器を作りたいという職業的欲求から。方向性は違えど、迷宮という同じ舞台で同時期に駆け抜け生き延びた冒険者同士という間柄だった。

 ――ただ、考え方が反りが合わない。典型的なエルフとドワーフの間柄でもあったのだが。


「で? エルンストの坊やも一緒に送ったらしいの」

「……なにが言いたいのかな? ヘイスバルト卿」

「ふん、気の長いのんびり屋にしては良い判断だ、と褒めてやろうと思ったまでよ」


 髭の下で口角を上げるヘイスバルト――明確な嫌味と挑発だった。それを無視し、エルデガルドは言う。


「あなたも知っているはずだ。彼はもうヴァルキュリアと単独で戦って倒し、従えるほどの腕前だよ」

「おう、それよ」


 パン、と膝を打ったヘイスバルトにエデルガルドは半眼。マナーが悪い、という言外に咎めるエルフの視線を無視して、ヘイスバルトは顎髭を撫でながら言った。


「良い良い。あれで己の本当の性質をエルンストの坊やも気づけば、もう一皮向けるじゃろうて」

「……本当の性質?」

「ふん、エルンストの坊やを子供扱いしておるお前さんにはわからんじゃろうよ」


 あなただって坊やって言ってるでしょう!? と素が出て怒鳴ってしまいそうだが、エデルガルドは飲み込む。どうせ真面目に口論しても噛み合わない相手だ……ただ、聞き捨てならない部分があった。


「エルンスト君はもう立派な冒険者だよ。真面目で、誠実で、依頼に真摯に向き合って解決しようと努力する。それのなにが悪いのかな?」

「悪くはない、悪くはないが()()()()()()、そう言っておるのじゃよ」


 鍛冶屋としてのヘイスバルトは、誰か特定の相手のために武器を打つ時、必ず相手を見て決める。エルンストの持つ魔剣もまた、ヘイスバルトが打ったものだった。


「エルンストの坊や、なんて注文したと思う? とにかくなんでも斬れて手入れが必要ないぐらい頑丈だったらなんでもいい、とのたまいおった」

「……それがなにか?」


 冒険者は、時に過酷な状況に身を置くことがある。望む望まざる関係なく、だ。その時、実態のない相手でも斬れることと長時間行動を強いられた時に手入れが必要なく頑丈であるというのは、それだけで有用に働く。

 エルンストの要望は、冒険者であればあまりにもまっとうすぎるものだった。


「この要望が、ただの冒険者であったならばな。そもそも、エルンストの坊やは慎重に手足が生えたようなヤツじゃぞ? もう、そんな状況に身を置くことを想定しておる時点で負けと考えておって当たり前じゃろう」

「……それでも、最悪を考えるのが彼だろう?」

「そうかの、ワシはそうは思わんかった。だから、ヤツにあの魔剣を打ったのよ」


 来客用の紅茶をすすって喉を潤し、ヘイスバルトは眉根を寄せる。


「なんじゃ、ブランデーぐらい入っておらんのか?」

「職務中なものでね」

「これじゃあ、ただの色水じゃろうに」


 そう文句を言いながら飲みきって、勝手に紅茶のお代わりを注ぎながらヘイスバルトは言った。


「ワシはの、その時最悪な状況にこそ身を置くことをこいつは望んでおる……そう思ったのじゃよ」

「エルンスト君が? まさか」


 それこそ、ヘイスバルトが言ったとおりだ。彼は慎重に手足が生えたような男だ、と。そんな彼が最悪な状況を好んで飛び込む、というのはあまりにも矛盾した意見だった。


「じゃから、本質じゃよ。エルンストの坊やは理性と常識、真面目さの奥にそういう衝動を持っておる。ヴァルキュリアが試練を課したのなら、ほぼ間違いないじゃろう」


『冗談キツいッスよぉ。自分のヴァルキュリアセンサーがビンビンにバトル大好きって反応してるんスから』


 スケッギョルドがエルンストに言ったこの言葉を聞いていれば、エルデガルドもまた引っかかるものがあったかもしれない――だが、エルデガルドには到底信じられない内容だった。


「……そうかな? 彼はそんな野蛮人じゃないと思うが」

「野蛮かどうかは関係ないのじゃがなぁ」


 口で説明しても伝わらんじゃろう、とヘイスバルトがわかった顔をするのが気に入らない。エデルガルドの不満げな顔に、楽しくて仕方がないという顔で老ドワーフは笑った。


「なに、うちのオズワルドが生きて帰ってくるかどうかは“剣聖姫”やフェルナンドたちAランクではなく、エルンストの坊やにかかっている――そう思っておるだけじゃよ」


   †  †  †

ここから先、エルンスト君の人生がローリングストーンするか否かの瀬戸際です。


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