1話 冒険者エルンスト・ブルクハルト1
※書き溜めがないため、不規則投稿になる可能性が高くなります。
※それでも楽しみたいという方は、ぜひ!
† † †
コン、コン、コン。
「……あ?」
エルンスト・ブルクハルトは、そのノックの音に目を覚ました。見慣れぬ宿屋の部屋、自然と窓の外を見るが薄暗い――エルンストは、そこで自分が本格的に寝ぼけていることを自覚する。
ここは迷宮都市タルソス『4th』、タルソス『4th』はタルソス大迷宮三六階にある街だ。外の景色で時間なんて、わかるはずもない。
コン、コン、ドン、ドン。
「く、そ……マジか……」
ノックの音が大きくなっていく。今日はダンジョン内で予想外に手こずったため、疲労困憊だったエルンストである。ノックの音は自分の部屋で間違いない……ずるずる起き上がろうとした。
ドドン、コン、ドンドン、コココッ、ドドン、ドン!
「止めろ! 急にリズムカルにノックすんな!」
ガバっと起き上がり、慌てて扉に向かう。ここは宿屋だ、他の宿泊客に迷惑になる――エルンストが扉を開けたその時だ。
「お?」
ノリノリで拳を振り上げて見知らぬ女がそこにいた。銀髪碧眼の小柄な少女だ。頭にはカチューシャタイプのヘッドドレス、黒のワンピースに白いエプロン……俗に言うメイド服姿の少女だ。
「……誰だ、お前」
「え?」
エルンストの当然の質問に、少女が目を見開く。驚きを隠せない、そんな驚愕と共にメイド少女が言った。
「そ、そんな……自分とあんなに激しくアイしあったじゃないッスか!」
「「「――ああ!?」」」
そのメイド少女の言葉に、周囲の部屋から宿泊客が飛び出してきた。
† † †
「どういうことですか、エルンストさん」
宿屋の一階、酒場兼食事処に呼び出されたエルンストは、宿屋の主人の一人娘であるミリーアに怒られていた。一六という若さながら、看板娘として精力的に働くミリーアだ。この宿屋を利用する冒険者も頭が上がらない者も多い。
「いや、俺が聞きたいんだが……まったく身に覚えがないんだ」
「本当ですかぁ?」
「……俺だぞ? よりにもよって俺だぞ?」
エルンストの言葉に、思わずミリーアは納得してしまいそうになる。ミリーアの知るエルンストという男は、確かに女性問題など起こすような人ではない。
(……でもなぁ)
ミリーアは、エグエグと泣いているメイド姿の少女を見る。まったく知らない顔だ、見知ったエルンストと見知らぬ怪しい少女なら、前者を信じたくなるのが人の情だ。
(ましてや、エルンストさんだからなぁ……)
エルンストは冒険者である。冒険者とはこの危険に満ちた世界で諸々の依頼をこなす何でも屋であり、危険地帯に言ってはモンスターを倒し貴重な資源を持ち帰っては金に変える山師のことである。
冒険者には、こんな格言がある――成功した者には栄誉を、失敗した者には破滅を。
そう考えてしまうと、何でも屋や山師よりも博打打ちと言った方がより正確か。とにかくエルンストはそんな冒険者の中でもソロ専門でありながら二〇歳という若さでBランクまで昇りつめた将来有望な冒険者として知られていた。
(ようは身元もはっきりしていて、加えて知らないなんて嘘をつく人ではないし……)
エルンストという男は、とにかく生真面目な冒険者だった。酒はやらない、女の影は見せない、賭け事などはもってのほか。金を手にすると宵越しの銭は持たないと「飲む、打つ、買う」の三拍子が当たり前という冒険者界隈で、珍しいぐらいその手の噂と無縁なのだ。
「本当なんスよぉ……ひどいッス……ぐす、あの時は、あんなに乱暴に……」
「止めろ、止めてくれ。本当に身に覚えがないんだよ、俺は」
ただ、メイド少女の言葉に嘘を感じないのも確かで――困ったところに、メイド少女の口から新しい情報がようやく出た。
「思い出してくださいよぉ、ほらぁ、ダンジョンでぇ」
「……ダンジョンの中で女の子に乱暴って、立派な犯罪ですよ!?」
「だから、身に覚えがないと言ってるだろう……」
そもそもダンジョンなんて魔物で溢れかえったデストラップの宝庫である。そんな場所で――。
「――あ?」
「あ、思い出してくれたっすか!?」
エルンストは濡れ衣だ、と思いながらも思い出すことがひとつだけあった。
† † †
石造りの通路がどこまでも続いていく――タルソス大迷宮三五階、エルンストが冒険者ギルドから受けた依頼は、こうだった。
――三五階に新しく発見された領域の調査。
ダンジョンはよく、生き物に例えられる。定期的に“拡大”を行なうのだ。そのため、隅々まで探索を行なった階でも、不意に未知の領域が出来上がることがある――冒険者ギルドでは、そのような新たな領域の調査を度々、高位の冒険者に依頼することがあった。
「――――」
とはいえ、エルンストのようにソロの冒険者に依頼されることは稀である。本来であれば、パーティ単位の冒険者たちに頼むのが普通だ。なにせ、なにが起きるかまったくわからない場所の調査だ、生存率や確実性を考えればひとりよりパーティの方が好ましいに決まっている。
だが、エルンストに関しては“例外”の一例だ。ひとりで高い戦闘能力を誇り、探索能力も一流。それに加えて仕事には決して手を抜かない真面目さ。依頼達成率の高さやその後のフォローやアフターサービスを考えれば、パーティ単位に依頼するより安くすむエルンストは重宝する存在だった。
「っと」
ガチン、と門の鍵を開けるとエルンストは行き止まりの大広間へと踏み入った。そこは広い祭壇のある部屋だった。
(なんだ? 見たことのない様式の祭壇だな……タルソス大迷宮は基本的に古代タウロスの山岳文明の様式なはずだが――)
罠の有無を確認しながら、エルンストは慎重し部屋の中を調べていく。壁に描かれた紋様や祭壇の様式は、このタルソス大迷宮でよく見られる形式のものではない。だからこそ、どこかのものか頭の中から記憶を引きずり出そうとした、その時だ。
「――ッ!」
咄嗟に、エルンストは横へ跳んだ。すると、半瞬遅れてエルンストが立っていた部分の石板が砕け散った。
なにかがいる――着地よりも早くエルンストは腰の鞘から引き抜いた二本のダガーを投擲した。だが、そのダガーが“なにか”を透過、カカッ! と壁に弾かれ床に転がった。
「……あ?」
そこにいたのは、光だ。人の形に似た光が、床に光の斧を叩きつけていたのだ。
(ゴースト? 妖精……いや、精霊の類か)
エルンストは即座に判断、黒一色のロングソードを逆手で引き抜き、順手に持ち替えた。右手に剣、左手に小型盾、冒険者としてオーソドックスすぎる装備だった。
『XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX――!!』
光がなにかを叫び、更に襲いかかってきた。エルンストは後退する、振り回される大上段の斧の威力は凄まじい。ガッガッガン! と次々に石板を砕いていく――だが、エルンストはその大振りを残らずかわした。
(ダガーがすり抜けた、物理攻撃は効かない、か。そうなると――)
エルンストは光が斧を振り下ろした瞬間を狙って、懐へ潜り込む。ザン! と振り払われる剣、その刃が浅くだが光の腰を捉えた。
(――精霊でも、魔力を帯びた武器の攻撃は効くな)
ならば対処できる、そうエルンストが間合いを開けようとしたその時だ。
『XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX!!』
「……ありか、それ」
光の周囲にヒュガガガガガガガガガガガガガ! と一〇を超える数の光の斧が展開されたのだ。思わず愚痴ったエルンストへ向かって、光の斧が群れとなって襲いかかった。
ひとつ目、横へ跳んでやりすごす。ふたつ目、剣で弾く。その間に小型盾へ符を貼って魔力を付与、魔力を帯びさせる。三つ目、左に身体をずらしながら魔力を帯びた小型盾で外れた光の斧を弾く――弾けた。
(よし)
魔力を付与すれば小型盾でも弾けることを確認。四つ目、五つ目、小型盾で受け流し。六つ目、前に踏み出し身を沈めて回避。上から迫る七つ目をサイドステップで躱し。横から薙ぎは割れる八つ目を剣で受け止めた。
残りふたつの斧が足を低く狙って迫る。それを下に剣を突き立て、エルンストはガードに成功――直後、光が動いた。
『XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX!!!』
「ふ、ざけ――ッ!」
弾かれた一〇本の光の斧が、一斉にエルンストめがけて飛んできたのだ。エルンストは邪魔な斧だけ弾き、そのまま疾走。なんとか切り抜けた。
「……面倒なヤツだな」
『XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX――XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX――!』
再び一〇本の光の斧を周囲に展開して、光が身構える。なぜだろう、なにか光がはしゃいでる気がしてエルンストは腹がたった。
(馬鹿らしい、逃げるか?)
どう考えても、報酬と釣り合わない敵だ。素直に妙な精霊が住み着いた部屋があるから近寄らないほうがいい、と冒険者ギルドに報告して終わりな気がしてきた。
『XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX!!』
「チッ!」
舌打ちし、エルンストは再び襲ってくる一〇本の光の斧を迎撃した。
† † †
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