思い出した夢
歳をとったら夢を目指していけないと誰が決めた?
「少なくともオレは、決めてない!」
オレは子供の頃、本を読むのが好きだった。
本の中には、素晴らしい物語があった。
やがて自分でも、そんな物語を書きたい衝動に駆られ筆をとった。
毎日毎日書いた!
いつか自分の書いた物語を世界中の人々に読まれたいという「夢」を見て。
みんなに夢を見てもらいたくて一生懸命に書いた!
でもそんな夢は、長続きしなかった。
いや、長続きさせることができなかった。
当たり前だ。
夢は、人が歳をとれば遠ざかり最後に消えていくものだ。
オレの夢だって例外でなかった。
進学、就職、仕事、結婚、子育て……
夢から遠ざかる理由なんて、いくらでもある。
それ自体が悲しいとか辛いなんて思ったこともなかった。
なぜなら遠ざかる度に夢を見なくて済むから。
夢という「呪縛」から解放されていくからだ!
実際オレは、十代半ばくらいまで純粋に夢を見て物語を書いていた。
だけど進学という「現実」が目の前に迫ってくると夢なんて「邪魔」でしかなかった。
さらに就職、仕事と大人になると夢なんて考える余裕もない!
結婚の時に至っては、もう夢の影も形もなくなっていた。
そう! 夢は、オレの中から完全に消えたのだ!
いや、消えたことにさえ気づいてなかった。
そして、月日が経ち「子育て」が訪れる……
いつものようにオレは、4歳の娘に絵本を読んでいた。
タイトルは、あまり聞かないがこの本は、娘の大のお気に入り。
そのおかげで何回も読まされることになった。
だがそんなことは、苦痛に感じなかった。
なぜなら、この本を読んでやっている時の娘がオレの大好きな顔をしてくれるからだ。
笑ったり、怒ったり時には悲しんだり。
絵本の中の物語に合わせて色々な顔を見せてくれる。
ああ、本って、物語ってすごいなぁ!
人をこんなにも楽しませるなんて……
不意に昔の自分を思い出す。
あの頃、夢中になって物語を読んでいた自分を!
一心不乱になって物語を書いていた自分を!
「夢」を目指していた自分を!!
「いつか世界中の人に自分が書いた物語を読んでもらいたい」という夢を!
懐かしいな…… でもオレは、なぜ夢を目指していたんだ?
「パパ、どうちたの?」
「あ、ごめんごめん。 パパちょっと考え事をしてた」
「もー! 早くつずゅきを読んで!」
「わかった、わかった」
再び絵本を読んでやると娘は、百面相のように表情を変えながら物語に集中する。
もはや頭の中では、自分が主人公になったつもりでいるなかな?
目を輝かせて本当に楽しそうにしている。
思いだした!
オレが物語を書いていた理由!
夢を目指していた理由!
「自分の書いた物語を世界中の人々に読まれたい」
それが夢だと思った。
でも本当は、違っていたんだ。
オレの本当の夢は! 本当の夢は!!
「自分の書いた物語を世界中の人々に楽しんでもらいたい」
それが夢だったんだ! いや!「夢」だ!!
娘が教えてくれたこと。
本は……物語は、読む物じゃない!
物語は、楽しむ物だってことを!!
その日、娘が眠りについた夜。
オレは、二十年振りくらいに原稿用紙を机に出した。
目的は、物語を書くため……いや、違うな。
あえて言うなら「夢」のためだ!!
オレは、心の中で自問自答する……
歳をとったら夢を目指していけないと誰が決めた?
「少なくともオレは、決めてない!!」