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「ねぇ、今度の日曜にさ。みんなで遊びに行こうよ」
アヤの透き通った声が、部室に響く。彼女は、反応を伺うように、サトルとケンイチに視線を送る。
「マジで!?行く行く。絶対行く!」
ケンイチが、けたたましい叫声を上げた。
「別に、僕は構わないけど……」
サトルはそう言いながらも、彼女の唐突な提案に困惑していた。アヤやミサキとは、同じ部でそれなりに仲は良く、学校帰りにハンバーガーショップや、ゲームセンターに行ったことはあった。
しかし、休日に遊びに行こう、というまでの間柄では無い。とても微妙な一線だが、サトルは気にしない事にしていた。あくまで『同じ部活の仲間』であり、喩えていうなら『友達以上恋人未満』と言った具合だろうか。いや——友達以上だったら、休日も遊びに行くかもしれないし違うか……も。
「どうしたの?山代くん。難しい顔して」
気づくと、アヤがサトルの顔を、まじまじと見つめていた。
「もしかして……。一緒に遊ぶの……嫌、かな?」
「そ、そんなこと無いよ」
慌てて、否定するとアヤは潤んだ瞳でじっと彼を見据えながら、満面の笑みを浮かべ「よかった……」と胸を撫で下ろした。
サトルは、急に身体が熱くなるのを感じた。何故なら、彼女の表情や仕草には、今まで彼が見たこともない色香が漂っていたからだ。
いや、きっと気のせいだ。サトルは、そう自分に言い聞かせた。
日曜日——。カップルの待ち合わせ場所として、有名な噴水の前でサトルは腕時計を見た。ちょっと来るのが早すぎたかもしれない、と思っていたところに、サトルの名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。
茶系のコートに白いスカートを履いた女性が、こちらに手を振っているのが見える。サトルは、女性がアヤであることに、間を置いてやっと気づいた。
「山代くん、おはよう。待たせちゃったかな」
おさげにした髪を揺らしながら、アヤがサトルに駆け寄ってきた。
「い、いや。僕もさっき着いたとこ」
サトルは、ドギマギしながらも、制服の時と印象がまるで違う彼女に、妙な新鮮さを覚えた。アヤは天使のような微笑を浮かべながら、やがて視線を、自分の足下に向ける。
サトルも釣られて、彼女の履いている黒いエナメルブーツに目をやった。顔を上げると、アヤが瞳を輝かせながら、彼を見つめている。
——なんだろう。すっごく何かを言って欲しそうな顔をしている、と彼は直感的に感じた。しばらく考えた末に、サトルは口を開いた。
「暖かそうな靴だね。僕もブーツ履いてくればよかった」
言った途端に、アヤの肩が崩れる。
「ど、どうしたの……。大丈夫?」
心配そうに声をかけるサトルに、アヤは笑顔で「ダ、ダイジョーブ」と答えた。
「そっか。なら良かった。にしてもケンイチとミサキの奴、遅いな」
「あ、それなんだけど……。二人から連絡があって急に来れなくなったってメールがきたんだ。伝えるの遅れてごめんね」
「え、そうなの?なんだよ。全く、あの二人は!」
ミサキはともかくとして、ケンイチが自分にではなく、アヤに連絡したのが、少し引っかかったが、来れないならば仕方ない。
アヤは「うんうん」と首を二、三度縦に振った。
「二人で楽しんできてって、その……メールに、ありまし……た」
辿々しい口調で、彼女が念を押すように付け加える。そして、なにやらボソボソと独り言を言いだした。
「海原さん。ど、どうしたの?」
さっきから、アヤの様子がかなり変だとサトルは思った。普段の彼女は、もっと物静かで非常に常識的な人間だ。ミサキことツンデレちゃんやケンイチとは、真逆のタイプ。だが、今日の彼女は明らかにおかしい。そう思った矢先——。
「お、女の子はね!褒められると……凄く、嬉しいん、だよっ!化粧変えたの、とか髪型、変えたんだね、とか洋服似合ってるね、とか履いてる靴可愛いねとか、とかっ!」
声を裏返しながら、彼女はおぼつかない口調で必死に語りだした。
その様子を唖然としながら、サトルは眺める。




