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 部室に到着すると、ドア越しから女子達の笑い声が聞こえてきた。ドアを開けると、机を教室の端に寄せ、出来たスペースに、二人の女子が立っているのが見えた。

「喰らえ。カメカメ波ーッ!」

 ツンデレちゃんこと、ミサキが両手を突き出し、何かしらの技的なものを撃つ。

「うぅ……やられた」

 ミサキの正面にいた海原アヤが、オーバーリアクションに胸を押さえ、その場に倒れ込む。

「なにやってんの?」

 ケンイチの声に、ミサキが振り向いた。

「え!?な、なにって、こ、今度の文化祭の……れ、練習に決まってるじゃん」

 ミサキは頬を赤らめながら、まくし立てる。

「漫画、好きだもんな。ツンデレちゃんは……」

 サトルの言葉に、ミサキはさらに激昂(げっこう)した。

「うるさーいっ!それとツンデレって言うなあぁぁ!!」 

 茹でダコのように蒸気を放つミサキに、海原アヤが立ち上がり、肩に手をかけた。

「ウサみん、落ち着いて」

 アヤの穏やかな声が、ヒーリング効果をもたらしたかのように、ミサキの感情を鎮めていく。そもそも、ミサキが「ツンデレちゃん」というあだ名を拝命したのは、一年の時。

 演劇部に入部した初日の自己紹介で、アヤが「ウサみんとは、小学生からずっと一緒で仲良しです」という発言に端を発する。

「ウサみんだってー!可愛い名前じゃん。よろしくねー」

 そう言った先輩に、ウサみんこと、卯月(うづき)ミサキが叫んだ。

「ウサみんって呼ばないでくださいっ!ミサキでお願いします!!」

 先輩はもとより、サトルやケンイチも、彼女の反応に驚きを隠せなかった。だが、先輩は気を使い「ごめんね。じゃあミサキちゃんってことで〜」と軽く流したのだった。

 問題はここからだ。ケンイチが放った、何気ない一言。

「じゃあ、なんで海原さんは、ウサみんって呼んでいいの?」

 その瞬間、ミサキの華麗なミドルキックが、ケンイチの脇腹(わきばら)をとらえる。

「あっふおぅ!!」

 ケンイチが変な叫び声を上げて、倒れた。

「だから、ウサみんって言うなぁ!!」

 興奮するミサキの肩を、アヤが慌てて抑える。

「落ち着いて。ウサみん。——あれ?でも確かに、なんで私だけには、怒らないの」

 おっとりした口調で(さと)しながら、アヤが不思議そうに彼女を見つめた。

「そ、それは……。あんたは、特別っていうか……なんていうか」

 まごつきながら、ミサキは髪をくるくる指で(もてあそ)ぶ。その時、その場に居た者たちは、心から思った。〝こいつ。見た目、パリピ女子だけど、ベッタベタなツンデレちゃんだ〟と。

 ついでに、床に倒れていたケンイチが、(もだ)えながら問題発言する。

「ミサキ様、もっと!もっと強く蹴ってください!!」

 こいつはこいつで、そっち系かと、一同は別のショックを受けた。それからというもの、ミサキとケンイチは先輩達から、『ツンデレちゃん』と『S M君』というあだ名で可愛がられることとなった。だが、その先輩方も、今はもう居ない。

 サトルが二年に進級した時、新しく入部してきた一年に対して、三年の先輩が暴力事件を起こしたのだ。暴力を受けた一年にも非はあった。態度がデカいうえに敬語も使わない。おまけに部活をしょっちゅうサボった為、三年が素行を注意した際、喧嘩となってしまったのだ。

 お陰で部長を始め、三年の先輩達は停学および、演劇部を退部することとなった。険悪な空気に嫌気がさした一年生も次々(つぎつぎ)と辞めていき、残った部員は、サトル達だけになった。一時は廃部も危ぶまれる状況下において、部が存続できたのは、一重(ひとえ)に新部長となった海原アヤの功績だ。



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