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「アヤ、それ、本気なの?」

 授業が終わり、閑散(かんさん)とした放課後の教室に、親友のミサキの声が響きわたる。

「うん、今年のバレンタインは、絶対にチョコ渡そうと思ってる」

 アヤは、親友の瞳を見つめながら、即答した。

「でもさ……。去年は、用意してたチョコレート。結局、渡せずじまいだったじゃん?」

「そーだね」

 アヤは、バツが悪そうに苦笑した。しかも去年のチョコ作りは、母ではなく、ミサキに手伝ってもらっていた手前、余計に申し訳なく思ったものだ。

「でも、今年は絶対に渡すって決めたんだ」

 アヤは真剣な眼差しで、ミサキを見つめながら言った。ミサキは戸惑う。一体、彼女に何があったのだろうか。女子がバレンタインチョコを当日、男子に渡すという行為は、すでに恋人の関係にないと、非常に至難(しなん)の技となる。

 実際に、多くの女子達が、気になる男子にチョコレートを渡すべく、Xデーまでに苦労して、チョコの準備をしていたりする。が、いざ渡すとなると、足がすくんでしまう。

 恥ずかしいという羞恥心(しゅうちしん)の方が、勝ってしまうのだから、しょうがない。

「ねぇ、ミサキさ。打ち明けたいことがあるんだけど……」

 教室の窓から差し込む夕日を、ぼんやりと見つめていたアヤが、ミサキに語りかけた。

「うん?どうしたの」

 ミサキが返事をすると、アヤはゆっくり視線を合わせてきた。窓の外からは、真冬の寒さにも関わらず、グラウンドを駆け回る、サッカー部員やら陸上部員たちの掛け声が届いてくる。

「あのね。私、実は——」

 アヤは、(はかな)くも透き通った声でミサキの耳元に、『なにか』を(ささや)いた。ミサキの表情が、みるみる変わっていくのが分かる。

「……アヤ。あんた」

 ミサキがうわずった声を上げる。同時に、アヤが唇に人差し指をのせた。

「ミサキだから話したんだ。このことは、二人だけの〝秘密〟だよ?」

 微笑みを浮かべながら、アヤは再び視線を窓に移した。

 さあ、今年は私にとって、一世一代の見せ所だ。吉と出るか凶と出るか。どっちに転んでも悔いはない。呆然(ぼうぜん)とする親友を尻目に、アヤは席から立ち上がる。

「さぁ、ミサキ。部活始まっちゃうよ。行こう——」


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