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92話 影

アルマールを飛び出したシトリー達は最初の村に降り立ち、治療を始めていた。

ただ一人、シトリーだけは村の中を歩き回り、何か感染源が掴めないか聞き取りを行っていた。

特に不審な魔物などを見かけた噂はなく、いつの間にか感染者が増えていったようだった。

既に手遅れで一家全員が死亡していた家も訪れたが、特に不審なものは見つけられない。

そこに治療を終えたリリスとカルンが合流する。


「何か見つかったカ、シトリー?」

「こっちは終わったゼ」

「お疲れ様デス。

特に普段と変わったモノは何も見つかりマセンワ。

不審な魔物などの目撃情報も無しデスワネ」


原因特定は空振りに終わったが、治療は終えてるので次の村へ移動する事にした。

まだまだ、苦しんでいる人々が待っているのだ。

次の村でも特に不審な点は見つけられなかった。

一点だけ気になったのはシトリーと合流した家で小動物の死骸を見つけたのだ。

小動物がエサを求めて民家に侵入するのはよくある事だが、その死因は例の病と思われた。


「これハ…動物にも感染するノカ?」

「毒性が強くなったのカシラ…。

このままだと獣人も安全とは言えまセンワ」

「チッ、早く終息させねえとヤベエナ」

「次に行きマスワヨ」


その死骸を処分すると次の村へ向かう。

次、その次と治療を続けていくが、原因となるようなモノは見つけられない。

だが、治療も時間との勝負なので立ち止まることが出来ない。


アルマールを出発してだいぶ南に下ってきた。

残りも後、二つというところまで来ている。

村に降り立つとシトリーがあることに気付く。


「あれハ…ネエ、リリスとカルンは今日、あの小動物を何回見まシタノ?」

「アッ?

あんなの村ではよく見るダロ」

「そうダゼ、アタシも今日だけで何回も見かけタゼ」

「そうかもしれマセンガ、いつもより明らかに多い気がシマスワ」

「確かに多いカ…」

「リリス、タルト様の手紙を貸してクダサル」


リリスから受け取った手紙を何回も読み直すシトリー。


「この手紙によれば病の原因は目に見えないほど小さな生物らしいデスワネ。

それをあの小動物が媒介してるのじゃないカシラ」


医学が発達していない世界では細菌やウィルスの存在は知られておらず、感染経路は不明であった。


「でも、アイツは食べないゼ。

近づくだけで移るノカ?」

「ソレハ…そういえば食糧庫でよく見かけマシタワ。

もしかして小動物がかじったり、死骸から汚染された食糧を食べた事デ…」

「ダカラ、家族で感染してたのが多かったノカ」

「ヨシ、見かけたら一掃してヤルゼ」

「急ぎアルマールへ伝令を飛ばして駆除させマショウ。

それと南にこれが増殖か感染した源があるかもしれまセンワネ」

「急いで治療して南に向かオウゼ」


残り二つの村についても急いで治療に当たった。

発生してから時間が経過したこともあり、感染者及び死亡者数がかなり多い。


「現在の伝達手段を構築してなければ、この村は全滅してたかもしれマセンワネ」

「一体、何が起きてるンダ…」


何とか治療を終えて、小動物の駆除も徹底的に行った。

だが、森の中から何処からともなく現れる。

移動の方向を見ると北に向かっているようだった。

逆に南から現れるという確信を得て、駆除も兼ねながらゆっくりと南へ向かっていく。

南に下るにつれ小動物の遭遇率が上がってきた。

以前に調査した遺跡の少し手前で木々が少し開けて、広場になったような空間に出た。

そこにはおびただしいほどの小動物が蠢いており、まるで生きた絨毯のように波打っている。


「汚らわしいデスワ、燃え尽きナサイ!!

炎獄の牢獄ダークフレームプリズン!!!」


広場一帯を灼熱の炎の壁が取り囲み、小動物の群れを一網打尽にする。

小さな動物など触れただけで骨まで焼き付くされ、五分も掛からず一掃された。


「終わったノカ…?」

「あとは村に残ったヤツを駆除するだけダナ」


あまりにもあっけなく終わったことに違和感を感じながら、この場を立ち去ろうとした時、何処からか声が聞こえる。


「やれやれ…折角、愛情を込めて育てたペットを殺すとは酷いですね」

「誰デスノ!?」


広場中央の影から人影が現れる。

黒いフードに仮面という出で立ちで性別も種族も全てが謎である。


「あれだけの数を育てるのは結構、時間を要するのですよ。

全く余計な事をしてくれましたね」

「言葉が理解出来ないのカシラ?

何処の誰かと病を広めた目的をさっさと話しナサイ。

断っても無理矢理にでも吐かせマスワヨ」


シトリーは怒りを抑えながら、語りかける。

謎の人物は仮面のせいで表情は見えないが、視線をこちらに向けた気がする。


「ワタシに名などありません。

只の影に過ぎません、沢山いる死の王の影の一人ですよ。

目的と仰いましたね?

教えられる事は世界の調和を保つ為ですよ」

「アアッ!?

調和ダト、あれだけ殺しておいて何が調和ダ!

調和を乱してるのは、テメエじゃネエカ!!」

「はぁ…これだから無知な者と話すのは疲れるのですよ。

小さな物差しでしか考えられない愚者には、死の王の偉大な考えを理解出来ませんよ」

「誰かは知りませんが、その挑発は高く付きマスワヨ。

ワタクシ達が知らない事を、その身体にゆっくり聞かせて貰おうカシラ」

「クックックックックッ。

悪魔ごときがワタシに勝つつもりとは片腹痛いですね。

良いでしょう、さっさと片付けて更に病を広めなくては。

死は皆に平等にやってくるのです」


シトリー達は一瞬で目配せし、意思疏通を行う。

謎の人物からは色々と聞き出したい事から、生きて捕らえる必要がある。

まあ、手足の一、二本は失くなっても良いのだが。

作戦会議を素早く終えて一気に畳み掛ける。

三方向からの同時攻撃だ。

魔法などでは殺しかねないので、相手の力量を計る意味も込めて接近戦を仕掛けたのだ。


「やれやれ…」


三方向から一気に間合いを詰め攻撃を仕掛けた瞬間、ひゅっと視界から消えた。


「上デスワネ!」


だが、動きは完全に捉えており、身動きが取れない空中に逃げたことで勝利を確信する。


「これで終わりデスワ!

喰らいナ…サ…イ…、ナン…デスノ…」


シトリーは身体が痺れて動けない事に驚く。

気付けばリリス、カルンも膝を付いていた。


「全く愚か者ですね、悪魔には病の類いは効かなくても、毒は効きますからね。

空気中にたっぷり撒いておきましたので堪能頂けたでしょうか?」

「キ…サマ…許しマ…センワ…」


シトリーは起き上がろうとするが腕に力が入らない。


「おやおや、普通の悪魔なら動けずに死んでしまうほどの毒性なのに。

思った以上にやりますね。

空気の媒介では弱まったようですから、直接、体内に注入してあげましょう。

邪魔をしてくれたのですから、せめて甘美な悲鳴をあげてくださいね」


動けない三人にゆっくりと近付いてくる。

死の足音は着実に、しかし、ゆっくりと。

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