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89話 黒斑

タルト達が七国会議へ出発して暫くたったある日の事。


タルトと領主のオスワルドが不在のため、多数の事務処理や問題解決をシトリーが仕切って捌いていた。

事務机に座り大量の書類に一気に目を通していく。

静かな部屋で集中をしていると台風のような頭痛の種が舞い込んできた。


「シトリー、いるかあー?」

「お邪魔するゼ!!」


桜華とリリスである。

ドアを勢いよく開け、ズカズカと事務所に踏み込んでくる。


「何なんデスノ?

今は見ての通り忙しいのデスワ」

「いやあー、暇だからさあ、討伐依頼とかきてないのか?」


イラッとするシトリー。

この前、村からの魔物討伐依頼をカルン含めた三人にお願いしたら村の建物が半壊した。

苦情は無かったが、何かと問題を起こす三人なのだ。


「貴女達に頼むと余計な問題が…」


ふと、さっき読んだ手紙を思い出した。


「暇ならお願いしたいことがありマスワ。

討伐ではありませんケド」

「この際ダ、何でもイイゼ」

「では、いくつかの村から奇病の報告が来てマスノ。

この病気について調べて報告してクダサイ」

「何だ、ただの調査かよ!」

「まあ、良いんじゃナイカ。

村を巡って酒でも飲もうゼ」

「…それもありだな。

良し、カルンも誘って行こうぜ!」


こうして嵐が去っていくのをみて、深いため息が出た。

流石に調査依頼なら被害は出ないだろうと踏んだのである。


「全く騒々しい奴らデスワネ…。

これで暫く静かになって良かったデスワ」


カルンも誘ってアルマールを出発する三人。

方向のあった村への道中、馬車の荷台で寛いでいる。


「何処に何しに行くンダ?」


急に呼ばれて付いてきただけのカルンは状況が飲み込めていなかった。


「暇だからシトリーのところ行ったら、討伐じゃなくてこれを調べてこいって言われてなあ」

「ああ、この前の討伐依頼の時、相当不機嫌だったカラナー」


カルンは討伐報告の時を思い出す。

部屋に入った瞬間、額に青筋を浮かべたシトリーを見たときは生きた心地がしなかった。


「いやあ、あの時はカルンが魔法で家を吹っ飛ばしたからなあ」

「アア!?

ちげえダロ、あの時はリリスが魔法で家を腐らせてダナー」

「待て待テ!

あれは桜華が刀を振り抜いたら風圧で家が壊れたんダロ!」


人のせいにしているが、全て事実でどんどん家が壊れていったのである。

ああじゃない、こうじゃないと揉めながら仲が良い三人であった。

そんな思い出話をしていたら最初の村に着いた。

三人の姿を見た村人が直ぐに集まってくる。

獣人は結構、増えたが悪魔と鬼はタルトのところだけであり、依頼を受けた調査隊であるのは明らかだった。


「これは桜華様、リリス様、カルン様。

わざわざお越しいただき有り難うございます」

「堅苦しい挨拶は抜きにして用件をいいなあ。

奇病が流行ってるって聞いたんだが?」

「そうでございます…まずはこちらへ」


如何にも村長らしき老人に付いて、村の奥にある教会へ案内をされた。

小さな村には病院などなく病人を一番大きい教会に集め隔離している。

小さな村で病気を蔓延させない為に出来ることは僅かなものである。


「この病気は三週間程前から発生しまして、少しずつ増えております…。

この病人を見てください」


村長の指差す先に一人の男性が横たわり、うなされていた。

皮膚のあちこちに黒い斑点がたくさん浮き出ており、斑模様(まだらもよう)となっている。

教会内には十人程度の病人がおり、この模様の多い少ないの差異はあるが同じ症状のようだ。


「この斑点が現れると高熱にうなされ、段々と斑点が増えていきます。

この症状が出てからおよそ二から三週間で死に至るようなのです…」

「おいおい、これは思ってた以上にひでえな…」

「感染は老若男女関係ないノカ?」

「特に関係ないと思われます」

「獣人はドウダ?」

「一家族おりますが感染していないようです」


リリスは質疑の内容と現状を脳内で整理する。


「何か分かるカ、リリス?」

「イヤ、毒なら分かるが病気は専門外ダ…。

だが、感染力が非常に強いし致死率が高いのが気にナル。

こんな病気は聞いた事がネエナ…」

「それで、うちらも感染する可能性は?」

「獣人が平気なら人間だけ感染するのかもしれネエ。

情報が少なすぎるから、他の村も確認してシトリーに相談シヨウゼ」


同行させた人間の医者にも診せたが過去に事例はないとの事であった。


教会を後にした三人は今後の方針を決めるべく、馬車が停めてある場所まで移動した。


「報告が上がっている村は全部で6つか…。

飛べないうちが一時報告でアルマールへ戻るから、二人は半分ずつ状況を見てきてくれ」

「そうダナ、思ったより深刻な状況だから時間が惜しいシナ」

「ジャア、アタシがこっち半分を受け持つから、リリスはこっちを頼むぜ」


役割を分担し散り散りに別れた三人は、急ぎ行動を開始する。


桜華はアルマールに着くなり、シトリーの部屋のドアを思いきり開け物凄い音が響く。


「騒々しいデスワネ!

少しは静かにして下さるカシラ?」

「そんな悠長な事を言ってる場合じゃねえ!

調査に行った病気はかなりやべえ。

感染率と致死率が高いとリリスがいってだぜ」


桜華のあまり見ない真剣な剣幕に事の重大さを感じたシトリー。

仕事を中断し桜華の方へ視線を移す。


「…それで、詳しく教えて下さりマス?」


村で目撃した事、リリスや同行させた医者の言った事を覚えてる限りで詳細に伝える。


「というわけだ、二人は移動が早いから残りの村の状況を見に行った。

うちは急ぎ伝令として戻ったわけだが」

「良い判断デシタワ、まずはタルト様へ伝令を飛ばしマショウ。

リリスとカルンが戻ってきたら情報整理するので緊急会議デスワネ」


シトリーは早速、文をしたため伝令役に渡す。

一つはタルト宛で、もう一つは経由する王都の伝令役への指示書だ。

二つの文を調教した飛行型の魔物に託す。

早馬より圧倒的に早く情報を届ける事が出来るのだ。

それが終わると会議に向けた準備を粛々と始めたのであった。


場所が変わりエグバートの店。

いつものように忙しく働くエグバートとモニカ。

タルト行きつけという触れ込みで、いつも混雑をしている。


「お父さん、料理まだー?」

「もうちょい待てぇ!!

ったく、嬢ちゃんのせいで忙しすぎだぜえ」

「繁盛して良いことじゃない。

タルトちゃんのおかげで感謝しないと」

「繁盛は良いが、このままじゃ過労死しちまうよ」


元々、そんなに店も広くなかったので二人で切り盛りしていた。

最近では忙しく回らないので、従業員を雇う事を真剣に検討していた。


「モニカちゃーん、これおかわり!」

「あ、はあーい!

今行きますねー」


モニカが注文を取りに行こうとした時、立ちくらみが起き足に力が入らず、そのまま倒れ込んでしまった。


「おい、エグバート!

モニカちゃんが倒れたぞ!!!」

「モニカ、大丈夫か?

やべえ、意識がねえ…。

こんな時に嬢ちゃんが不在なんて」


息はしてるが意識がないモニカの腕に小さな黒い斑点が浮き上がっていた。

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