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81話 奴隷商人

奴隷について事実を聞かされたタルト。

リーシャとミミの手を握ったまま、考え込み沈黙が辺りを包む。

だが、その静寂を破るように口を開いた。


「私は…行きたぃ…そう、見たいです!

この世界でどんな事が起きているのか、ちゃんと知りたいんです!

それで何が出来るか分からないんですけど…。

でも…知らないより良いと思うんです…。

知った上で皆と相談してより良い方向へ向かっていきたいです」

「そうか…なら、これ以上、言う事はないな。

リーシャ達はどうする?

待っても良いのだぞ」


リーシャとミミはお互いの顔を見ながら、黙りこむ。

だが、その目は二人の想いを伝えあっているようだ。


「いきます!リーシャもちゃんとしりたいです!」

「ミミもおなじなのです!」

「小さいのに強いのだな…。

よし、では全員で行くとしよう。

何を見ても怒りで暴力はいかんぞ。

ここではそれが常識なのだから」


5人は決心を決めて奴隷商人の入り口を入っていく。

店内は薄暗く、どこか異臭がする気がした。


「いらっしゃいませ。

おや…これは変わったお客様ですね」


奥から現れた男は下卑た顔をしている商人である。

ノルンは一歩前に出て、毅然とした態度で答える。


「ここは奴隷商だろう?

来た目的は決まっている。

それとも、女、子供には売れないとでも?」


少し不思議そうな表情をしていた奴隷商は、急に卑しい笑みに変わった。


「そんなことはございません!

料金は払っていただけるのであれば、どんな方でも大切なお客様ですよ!」

「では、早速見せて貰おうか」


奴隷商に店の奥へ案内をされる。

そこにはいくつかの檻が置かれており、中には様々な獣人とのハーフと思われる子供達がうずくまっていた。

タルト達を生気の抜けた目でじっと見つめている。


「こんなにたくさん…」


タルトは今にも目をそらして逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、ぐっと堪えて毅然とした態度を示そうと頑張っていた。

リーシャとミミはタルトの後ろに隠れて、恐る恐る周りを見ている。


「どんな奴隷をお探しですか?

ここには扱いやすい子供の奴隷が沢山おります。

ご希望を仰って頂ければ、すぐに連れてきます」


奴隷商人は卑しい笑みのまま語りかけてくる。

ノルンはこっそりタルトに耳打ちする。


「これからどうするつもりだ?

思った以上に沢山いそうだな」

「奴隷っていくらくらいするんでしょぅ…?」

「ふむ…聞いてみようか」


ノルンは商人の方へ向き直り、質問をする。


「一人いくらくらいするんだ?」

「一匹ですよ」

「何の話だ?」

「こいつらの数えかたですよ。

人ではなく獣ですから一匹、二匹と言うんです」


この瞬間、タルトの魔力が著しく上昇したのを感じたノルン。

近くにいたリーシャとミミもビクッと反応する。


(おいおい、ここで暴れないでくれよ…)


ノルンは冷静を装いながら、内心はタルトが爆発しないか焦っていた。


「そ、そうか、では一匹いくら位なのだ?」

「そうですね、種族にもよりますが…安いので金貨五枚からでしょうか。

高いモノは金貨三十枚もおりますよ」


タルトは自分の所持金を確認するが、金貨一枚と数枚の銀貨だけであった。

そもそも、時々、シトリーからお小遣いを貰うがアルマールでは店の人が奢ってくれるので、お金を使うことがほとんど無いのだ。

タルトはノルンに耳打ちをする。


「ノルンさんはいくら持ってます?

私、全然持ってないんです…」

「お金の事か?

何を言っている、タルト殿はかなりの金持ちだぞ」

「えっ!?何を言って…。

今だって金貨一枚くらいしか…」

「なんだシトリーから何も聞かされてないのか?

本当に無欲というか、お金に執着がないというか…。

良いか、タルト殿の収入は大きく二つある。

一つは寄付だ。

街の人や商人、貴族や国からも寄付があり、これをシトリーが管理している。

もう一つはタルトが考案した肥料や治水技術、様々な道具の利益だ。

これについては商人のマイルズが管理している」

「でも、それって町や他の村の発展費用に割り当ててるんじゃ?」

「発展して、またそこからも収入が発生する良いサイクルになっている。

それをシトリーが貯めていて、下手したら国の財源と大差ないかもしれないぞ」

「そんなに金持ちだったんですかっ!?

確かにお願いしたらいくらでもくれたので不思議だったんですが…」

「だから、お金の事は気にしなくても良い。

シトリーから長期な遠征の為、いっぱい預かっている」


タルトは怒りも消え去り、商人へ笑顔を見せる。

この店に入って初めての笑顔であった。


「ここにいる奴隷を全部売ってください!!」


これには流石の奴隷商人も耳を疑った。


「今…何と仰いました?

全部と聞こえましたが…」

「はい、全部と言いました。

お金はちゃんと払います、何か不満でも?」

「いえいえいえいえ!

お代さえ頂ければ不満など。

ただ、そこまでお金をお持ちとは…。

長年、商売をしておりますが見抜けませんでした」

「では、いくらになるかを…」


タルトが会計をしようとした所で、ミミが袖を引っ張った。

ミミの耳はピクピクと動いており、タルトには聞こえない何かに気付いたようだった。


「タルトさま、あのとびらのおくからこえがきこえるのです…」

「扉って、あの奥に見える扉?」

「そうなのです…、なにかかなしそうなこえなのです…」


タルトは少し考えてから、奴隷商人へ質問した。


「あの扉の奥には何があるんですか?」

「あの奥はとてもお客様に見せられるモノはございません」

「まだ、奴隷がいますよね…?」

「良くお分かりになりましたね。

奥にはお売りできるような商品ではない奴隷がおります」

「では、奥に連れていってください」

「小さいお子さんには刺激が強いかも知れませんが?」

「構いません、お願いします!」


奴隷商人は諦めたように肩をすくめ、奥に向かって歩き出す。


「では、こちらへ。

大量に購入頂いたので特別にご案内します」


奥の扉を開けて、薄暗い通路へ誘う。

通路を少し進むと地下への石階段が現れる。

カツン、カツンと音を響かせながら、一段ずつ降りていくと気温が少しずつ下がったように感じる。

階段を降りた地下には真っ直ぐの通路があり、脇に牢屋が並んでいるのが分かる。

日の光は届かず、通路の蝋燭の火だけなので陰湿な雰囲気を漂わせている。


「タルトさま…においがきついです…」

「ミミもはながまがりそうなのです…」


ハーフの二人は嗅覚が鋭いので、階段の地点で苦しそうであったのだ。

その原因はすぐに分かった。


「二人とも見ちゃダメ!!」


タルトは二人の視界を塞ぐ。

その先には牢屋の中に横たわる人型のナニかであった。

腐敗が進み原型を何とか分かるが、リーシャより少し小さく、おそらく獣人のハーフだったのだろう。

タルトでも気持ち悪さを必死に堪えているのだから、リーシャとミミにはとても見せられない光景だ。

奥に進むと白骨化した遺体も見つけた。

一番、奥の牢屋まで来て暗闇で動く気配を感じる。


「誰かいるの…?」


タルトが小さい火の玉を出して、牢内を明るく照らす。

そこには横たわる少女と傍で看病する男の子がいた。

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