76話 王都出発
王都へ到着し、馬車に乗ったまま王城へ向かう。
王城の門をくぐると大臣のゼノンが迎えてくれた。
既に広場には沢山の豪華な馬車が並び、兵士達が遠征の準備を整えている。
「これは聖女様、お待ちしておりました。
明日には出発しますので、今日はゆっくりとお休みください」
「いつも有難うございます、ゼノンさん!
ちょっと人数が多いですが、宜しくお願いします」
「いえ此方が無理に同行をお願いしておりますので。
おや、エルフの女性は初めましてですね。
私はこの国の大臣を拝命しておりますゼノンと申します」
「これは丁寧なご挨拶痛み入る。
ワタシはティアナといい、各地の遺跡を調査し世界の理を解き明かす事を目指している。
タルトとは縁あって行動を共にすることになったのだ。
以後、宜しく頼む」
「エルフとは初めてお会いしましたので、至らない点があれば、いつでもご用命ください」
「基本的には人間と変わらないと考えてくれ。
それに旅慣れはしているので、不便な生活は苦ではないしな」
「それでは、メイドにお部屋までご案内させます。
尚、聖女様は子供達と同じ部屋でベッドも大きなサイズを一つ用意しております」
「さすがゼノンさん、よく分かってますねー!!」
「恐縮です、では参りましょう」
メイドに案内されて各々の部屋で、少し休んだ後、ささやかな夕食会が催された。
その日は早く休み、翌日の出発に備えたのである。
久々のベッドでの睡眠だったので、ぐっすり眠ることができた。
馬車での移動では夜営することもあり、快適な生活からは程遠く移動だけでも結構、疲れるのである。
翌朝は朝食をガッツリ食べて、すっかり元気を取り戻せた。
出発時刻になり表に出ると馬車がずらーっと並んでいる。
「わあー、すごい!
馬車がいっぱいだし、護衛の人も多いねー」
「それは当然だろう、一国の王が出国するのだ。
護衛も多くなるし、他国へ権威を見せるため豪華にするものだ」
「ティアナ殿は物知りだな」
「色々な国を旅して色々、見聞きしたからな。
ノルンは人間について詳しくないんだな」
「天使はそういうことには疎いな。
最近は毎日が勉強になっているよ」
タルト達は出発の準備が整うまで立ち話で時間を潰していた。
リーシャ等、子供達は馬車を一個ずつ覗き込んだりしている。
内装も綺麗で快適そうな造りとなっており、王都以外では見ることもないので物珍しいのだろう。
そんな子供達に横に、強面で長身、無駄のない引き締まっている身体の男性がいつの間にか立っていた。
鎧を着ており兵士なのは分かる。
白髪も混じっており初老くらいだと思うが、鎧も立派なことから位は高いのであろう。
そんな人物にじっと見られたら子供には恐怖であったろう。
「ふわわわわわあぁ…り、リーシャはすこしのぞきたかっただけで…。
かってにみて、ごめんなさいです」
「ミミがみようっていったのです。
リーシャはわ、わるくないのです」
ビックリしてリリーの後ろに隠れるリーシャとミミ。
リリーは無表情のまま、じっと男性を見ている。
男性はしゃがんで子供と同じ高さの目線に合わせた。
「これは可愛いお客さんだな。
怖がらせて申し訳ない、よく顔が怖いと言われてしまっているんだ」
騒ぎを聞きつけてタルトも駆けつけた。
「どうしたの、リーシャちゃん?
えっとー、どちら様でしたっけ?」
男性はタルトに気付き、目の前まで行き深々とお辞儀する。
「お初にお目に掛かります聖女様。
私は今回の護衛を任されたハーディと申します。
この子達を怖がらせてしまったみたいでして」
「初めましてタルトです!
ちょっとの間ですがよろしくお願いしますね。
それにしても、確かにちょっと顔が怖いかもです…」
そこにゼノンが声をかける。
「此処にいましたか、ハーディ将軍。
おや、聖女様には既にご挨拶されたみたいですね」
「将軍?ハーディさんて将軍何ですか?」
「ハーディ将軍は我が国、最強の戦士であり軍部を統括する任に就いております。
戦場では先頭に立つこともあり、兵からの信頼も厚いのです。
この方がいなければ、国が滅んでいたかもしれません」
「ゼノン様、これは過分な評価で恐縮です。
いつもは前線で防衛をしているのですが、先日の聖女様の防衛戦があってからは魔物が大人しくなったようです。
お陰で王の護衛に参じる事ができ、聖女様にお目通りも叶いました」
「そ、そんな、私なんて普通の女の子ですからっ!
日々、国を守っているハーディさんの方がとっても凄いと思います!」
「ご謙遜されなくても分かっております。
今回の旅は私が護衛しますの安心して馬車でおくつろぎください」
「そういえば何処に向かうか聞いてなかったですね」
「今回の開催場所は立案した隣国のディアラになります。
目的の王都までは約二週間の旅路になると思われます」
「二週間ですかー、結構遠いんですね。
国境を越えると風景も変わるんですか?」
「バーニシアは森林が多い地域になりますが、ディアラは湖や草原が多い場所になります。
風光明媚な場所もありますので、お楽しみにしててください」
警戒が解けたリーシャとミミが話に飽きたのか、馬車を覗こうと背伸びをしている。
ハーディは無言で二人を持ち上げて馬車に乗せてあげる。
リリーもおねだりをして持ち上げて貰った。
「あっ、すいません、ハーディさん。
子供好きなんですねー」
「ははは、子供は好きなのですが怖がれていつも逃げられてしまうんです」
「リーシャちゃん達は良い子だし、もう優しいって分かったから大丈夫だと思いますよ。
もうちょっと眉間にシワを寄せずに、笑顔だと良いと思うんですが…」
「こうですかな?」
必死に笑顔を作るハーディだが、ひきつっており余計に怖い。
タルトとゼノンはこれは無理だな、と心で思った。
そこに荷物を乗せ終えたオスワルドが合流する。
「おお、これはハーディ将軍!
お久しぶりでございます!」
「ん…?お前は?」
「私です、オスワルドです!」
「オスワルドだと…まさか、あのひょろひょろだった少年か!?」
「そうです、そのオスワルドです」
「一体何があったのだ?
鍛えられた良い筋肉をしているぞ」
「それは聖女様に導いて頂いたのです。
そして、真実の愛に目覚めたのです」
「そ、そうか…それはなによりだ。
これからも励むように」
そんな時、出発準備が整った知らせが届き、王が城から出てきた。
タルト達も用意して貰った馬車に荷物を移し、乗り換えた。
こうしてディアラに向けて馬車15台、騎兵5名、歩兵30名の一団は出発したのであった。




