71話 合成獣
ティアナを加えた一行は遺跡の方向へ向かって歩いていく。
「魔法少女キィーーーーーーーーック!!!」
「…リリーキーーック」
ズゥゥーーン、ズズゥゥーーーン
遺跡に近づくにつれてゴーレムとの遭遇率が高くなってきた。
その度にタルトとリリーが粉砕していく。
数が多いときはカルンが足止めをする。
「全く君達といると常識が壊れていきそうだよ」
「あのリリーは例外として聖女様だけが特別なんです」
「オスワルドだったかな?
君も身体強化を覚えているようだし、中々、人間にしてはレアだと思うぞ」
「いえ、私などまだまだでございます。
先の戦でもお役に立てませんでした…」
「ふむ…君は指揮官をしていたのだろう?
それは誰にでも出来ることはではない。
戦場を冷静に分析して適切な判断を下す必要がある。
味方の士気を上げ、時には非常な決断をする。
これから兵法を学ぶと良いだろう。
皆が強さを求める必要はないのだ。
各々が出来ることをすれば良い」
「そう…なのかもしれません。
私の得意分野を伸ばすように頑張っていきます」
「何の話をしてるんですか~?
そこに大きな洞窟の入り口を見つけたんです!
遺跡ってこの中じゃないですか?」
「ティアナ殿にご教授頂いていたのです。
確かに地図でもこの辺にあることになってますね…」
「どれ…確かに場所は合っているようだ…。
おや…あの入り口にあるレリーフは古代のものだな…。
ここで間違いなさそうだ」
「やっぱり!
じゃあ、入る前にお茶休憩でもしてから行きましょうか!」
馬から茶道具を下ろす。
落ちている木を集めてタルトが火をつけ、お湯を沸かす。
10分もしないうちにお茶の良い香りが充満した。
「ティアナさんは何のために歴史を調べているんですか?」
「ただの探求心だよ。
エルフの寿命は長いからね、生き甲斐が欲しいもんなんだ。
一族の共通の目的として世界の理を解明するという夢物語があるのさ」
「世界の理ですか…。
世界は無限に広がってるのかもしれないですね。
夜空の星の数ほどあったら、何万年掛かることやら」
「世界の数…そうだな…ここにある以外にも沢山あるのかもしれないな。
タルトは面白い考え方を持っている」
「そうでしょうか…」
現代人なら地球が丸く、太陽の周りを回っているのは誰でも知っている。
中世では海には果てがあり、太陽と月が大地の周りを回っていると考えられていたのだ。
宇宙があることも、異世界なんて考えは誰も思い付かないだろう。
「それでタルト達の目的は何なのだ?
こんな忘れられた遺跡に来るのだから、それなりの用件があるのだろう?」
「それがー…古い文献に精霊がいると書いてあって…」
「精霊?精霊に会ってどうするのだ?」
「それがですねぇ…私は何の属性も持っていなくて…だから、力を貸して貰えるかなぁ…なんて」
「属性を持っていない?
生まれつき備わるものだぞ!
君は本当に面白いな、この遺跡探索の結果が非常に楽しみだ。
ぜひワタシも精霊に会って話を聞いてみたいものだしな」
「あははは…そろそろ行きましょうか」
あまり話しているとボロが出そうだったので切り上げる事にした。
茶器を片付けて馬を近くの木に紐を結わいてきた。
全員揃って洞窟の入り口に立つ。
タルトが魔法で火の玉をいくつか出して辺りを照らす。
「これは明らかに人工の洞窟だな…」
「壁の表面がツルツルになってるナア。
スゲエ、労力が掛かってるゾ」
「あっ、これ、壁に何か書いてある。
絵…かな?文字っぽい模様もあるけど…」
「ふむ…これは古代の文字だな。
意味は不明だが、いくつかの遺跡で見掛けた」
真っ直ぐな通路を歩いていくと、下に向かう階段が現れた。
螺旋上の構造となっており、何処まで続いているか分からない。
どれくらい降ったか分からないが、階段の終わりが見えてきた。
その先には大きな空間があり、ドーム上になっている。
「奥に何かイルゾ!!」
カルンの掛け声を共に全員の注意が部屋の奥に集中する。
そこには暗闇の中に大きな何かがいる。
荒い息づかい、禍々しい殺気、爪を研ぐような音、全てが敵性の存在を示している。
タルト達は臨戦態勢に入り、リーシャとミミを守る陣形を取った。
「炎よ、部屋を照らして正体を暴いて!」
タルトのステッキから火の玉が飛び出て、円を描くように並ぶ。
あっという間に部屋に明かりが灯り、暗がりから不気味な正体を照らし出した。
大きさは20メートルを超え、頭部はワニ、胴が狼、背には翼、尻尾はサソリという異様な姿をしている。
その肉体は強靭な体躯が見てとれ、ワニのような口には鋭く巨大な歯が並んでおり、噛まれたらひとたまりもないだろう。
「何だあれは!?
長年生きてきたが、あんなものは話も聞いたことがないぞっ!」
「アノ尻尾…前に戦ったロックスコーピオンに似てるナ」
「そう言われれば胴体はフォレストウルフに似ています。
私も領地に出たものを討伐しましたが、あんな大きさは見たことがありません!」
「合成獣…」
「タルト、そのキメラとは何なのだ?」
「えっ?あ、あのー、色んな魔物を混ぜ合わせて…特徴となる要素をいっぱい持っている怪物みたいなものといえばいいでしょうか」
「どうやったら、そんなものが産まれるのだ?
どうみても誰かが故意に造ったようではないか!」
「それは私にも分かりませんが…美味しい昼食がノコノコやって来たぞ、みたいな目で見られてます…」
「取り敢えず闘うしかネエみたいダゼ」
「オスワルドさん、リリーちゃん、皆を守ってて!
カルンちゃんと私で相手をするね!」
「ワタシも協力しよう、洞窟内で強力な魔法は気を付けてくれよ。
崩れて生き埋めはごめんだからな」
「ティアナさん、未知の魔物ですから気を付けてください!
じゃあ、行くよ!」
三人は別々の方向へ走り出し、注意を一人に向かないようにする。
「マジックバレット!」
「不可視の刃!」
「疾風の矢!」
三方向からの同時攻撃。
完全に捉えたと思った瞬間、その巨体からは想像も出来ないほどの素早さで回避した。
「はやーーい!あんなに大きいのにー」
「チッ、簡単には倒せネエカ」
「あの大きさで俊敏な動き…これは強敵だな」
キメラは威嚇するようにこちらを見つめている。
「ゴアアアアアァァアアアアア!!!!」
巨大な咆哮が洞窟内に響き渡る。
「なんか怒らしちゃったみたい…」
「元から怒ってたんじゃネエカ?」
「攻撃方法も未知だからな、二人とも油断は厳禁だぞ」
キメラから突き刺さるような殺気が放たれる。
身体中に気が駆け巡り、筋肉が膨張するように見える。
強靭な足と鋭い爪は硬い地面を簡単に切り裂いており、一撃でも喰らえば致命傷になるのは明らかだ。
「来るよ!!」
その巨体が低い体勢になったと思ったら、次の瞬間、飛び掛かって来る。
未知の魔物との闘いの幕が切って落とされたのだった。




