56話 老兵
町は防衛に向け、忙しく準備が進んでいた。
子供達は学校に集められ、老人達が面倒を見ている。
普段も学校で勉強を教えたり、農工や武術も教えている老人達だ。
元は兵士や学者、ハンターなど様々な職業であった。
歳を取り引退した者を、学校で再雇用しているのだ。
老人達も孫のような子供達の世話をすることが、とても楽しいようだった。
「ほれ、出来たぞ。
これを引っ張って放すと弾が飛んでいくぞ」
「おお、格好良い…」
老人の一人がゴムで弾を飛ばすパチンコを作って、子供達に渡している。
リリーはそれを受け取り、大満足のようだ。
「むむむ、なかなかあたらない…」
「これはみためより、むずかしいのです」
リーシャとミミも練習用の的を狙っているが、全然当たらない。
飛ばすのは簡単だが、見た目以上に狙いをつけるのは難しいのだった。
「ほっほっ、焦らずにゆっくりと狙うことじゃ。
ほれ、お嬢ちゃんも打ってみなさい」
「ん…」
リリーはゴムが切れそうになるくらい、引っ張って弾を放つ。
的の中心に当たり、木製の的は粉々に粉砕された。
「よし…」
「これは驚いたわい。
お嬢ちゃんは凄い腕を持ってるようじゃの。
魔物が攻めてきたら守って貰おうかのう」
「ん…皆、守る…」
「頼もしい返事じゃ、この町も安泰じゃな」
老人はそう言いながらリリーの頭を撫でた。
リリーも少し嬉しそうにしている。
「おお、そろそろお昼御飯の時間みたいじゃ。
手を洗って食堂に行きなさい」
子供達は嬉しそうに食堂に向かった。
残された老人達は優しく、その様子を見守っている。
「このような遣り甲斐のある仕事を与えて頂いた聖女様には感謝しても足りないくらいじゃ」
「全くだ、孫のような子供達に囲まれて余生をおくれるとはな」
「聖女様は、いつも忙しいのにワシ等の為に、時間を作り病人や老人の治療をしてくれてるしの」
「ワシも腰を治して貰ったんじゃ。
こんなジジイだが、心配してくれたり楽しそうに話してくれてのう」
「そんな聖女様が大変な時期だ。
ワシらも出来ることをしなくてはな。
それにしても、町は襲撃に備える準備で大忙しのようじゃな」
「他の村の連中とは連絡は取れたか?」
「明日には到着するようだ」
「それは上々じゃの、プリュディック…じゃなくて、今はジョンだったな。
先に逝きよって、アイツにばっかり格好つけさせられないからのお」
「あの可愛らしい聖女様に恩返しせんとなあ」
「あの泣く姿を見て、じっとなどしてられんわ」
「ワシ等の聖女様を泣かせる不届きものには、きっちりお仕置きせんとな」
翌日、タルトは相変わらず防壁造りに勤しんでいた。
そこへどこから現れたか、500名ほどの老人達が集まっている。
「これは立派な防壁ですのお!」
「ん、おじいちゃん達、どうしたんですか?
しばらくは治療院が開けそうになくて、すいません…」
「いやいや、聖女様が町を守るのに、お忙しいのは知っておりますぞ。
今日は別のお願いがありますのじゃ」
「別のお願いですか?」
「そうですじゃ、ワシらも戦いに参加させて欲しいのです」
「えっ!?」
良く見てみると、老人達は使い古した防具や武器を身に付けている。
「他の村にも声掛けしましての、こんだけ集まりましたわい。
ワシらは元は兵士やハンターをしておったんじゃ。
まだまだ、若いものには負けませんわい」
「いやいやいや、駄目ですよっ!
相手はサイクロプスやギガンテスもいるんですよ!
おじいちゃん達は足腰が悪い人もいっぱいいるんですから!」
「そんな相手では年齢など関係ないですぞ、人間では到底、相手できませんわい」
「それに人手が足りないのでしょう」
「確かに、兵の数が足りてないですが…。
でも、壁と壁の間を走らないといけないんですよ!
もし、逃げ遅れたら殺されちゃう…」
「まだ、走れますわい!
いつも治療して貰ってるから足腰もバッチリですわ。
まあ、長いこと生きて、最後に可愛らしい聖女様に出会えたんじゃ。
もう思い残すことはない」
「ワシらは町長と長い付き合いで一緒に、この町を作ったんじゃ。
アイツ一人逝かせる訳にはいかんしのお」
「だめだめ…絶対に駄目です!
死ぬ気じゃないですか!」
「死なないようには努力しますぞ。
まだまだ、聖女様の治療を受けたいですからのお」
「もし、認めて頂けないなら、遊撃隊として好きに出撃させてもらいますかの」
両者のやり取りを聞いていたノルンが口を開いた。
「タルト殿、彼らは既に覚悟を決めて揺るぎない信念を持っているようだ」
「でも、それじゃあ、死んじゃうよ…」
「むしろ、作戦に参加して貰って、弩弓のサポートをするほうが生き残れるだろう」
「そう…かもしれないですね。
では、必ず私の指示に従って行動をしてください!
そして、絶対に生きて帰って来てくださいね!
何か移動する手段は考えておきますから」
「それはありがとうございます!
天使様も助言、助かりましたわ」
「いや、大したことはしていない。
貴公等の強い想いの結果だ。
だが、決して命を無駄にしては駄目だぞ」
「それは良く分かりましたぞ。
これからも子供らの面倒を見ないといけませんしのお」
「では、オスワルドさんには伝えておきますので、そこで指示に従ってください。
はぁ…困ったおじいちゃん達です」
「はっはっはっ、歳を取ると頑固になるんですじゃ!
では、領主様の所に向かいますかの」
老人達は意気揚々と引き上げていった。
残された二人はその様子を見ながら佇んでいた。
「気持ちは嬉しいんですが、無理しそうで怖いです…」
「私は今まで多くの人間の戦士を見てきたが、誰かのために命を懸けて戦う彼らは美しいと思う」
「天使のノルンさんには、そう写るんですね。
私には良く分からないです…」
「人間の寿命は短いからな。
花のように短い人生を一生懸命生きてる姿は美しいと感じるんだ」
「うぅーん、何か哲学みたいですね…。
確かに誰かの為に戦うなんて、凄い勇気だと思いますが」
「そういうタルト殿は、いつも皆の為に命懸けで戦ってるじゃないか」
「それは戦える力を持ってるからです。
本当の私は何も出来なくて弱っちいんですよ…。
あのおじいちゃん達は勝てるわけない相手でも平気で立ち向かえる強さがあるんです」
「…私には例え弱いままのタルト殿でも、同じように誰かを助けようと全力で立ち向かうと思うがな」
「それは買いかぶり過ぎですって…」
だが、実際に魔法少女になる前の状態でも、逃げずに親友を助けようとする勇気を持っていた。
自分では自覚していないようではあるが。
作者もうろ覚えで1話目を念のため確認したが…。
結果として約500名の増員となり、弩弓の増産も行うこととなった。
数でみると、まだまだ圧倒的な差があるのは変わらない。
それでも決戦に向けて、準備を黙々と進めていった。
ある日の夕暮れ、タルトと桜華は町の外れにある大きな倉庫の中にいた。
「本当に良いんですね?」
「ああ!二言はねえ!
おもいっきりやってくれ!」
「分かりました。
これがもうひとつの秘策になると思います」
「分かってるさ、うちの為に迷惑をかけてるからなあ。
何でも協力しねえと」
「では、準備が整い次第、オスワルドさんに連携しておきますね」
「くっ…心が引き裂かれるようだぜぇ…」
凹んでる桜華の横で黙々とタルトは仕事をこなしていった。
弩弓と双璧となるかもしれない秘策の準備であった。
雪恋だ。
老人達の気持ちは良く分かる。
誰かのために命を賭して戦おうとするなんて、彼らは年老いても武士なのだな。
次回は、準備が整う頃だな。




