47話 忍び寄る災厄
雪恋が立ち去った後、伝令を飛ばしたり訓練に戻ったりと、各々の役割に応じて仕事に戻った。
タルトが自室でオスワルドや各村への手紙を書き終わった所で、琉が部屋に入ってきた。
「只今、使いから戻りました。
来る途中で聞いたのですが、雪恋さんが来ていたそうですね」
「お帰りなさい、琉さん。
そういえば、桜華さんと姉弟ですから雪恋さんの事は知ってるんですよね?」
「勿論、よく知っております。
父上から同性ということもあり、小さい時に姉上のお側付きとして任命されました。
使命感が強く命に代えても姉上を守ろうとする性格ですね。
ただ、その堅いイメージが姉上の性格とは合わず、よく置いてかれていた記憶があります…」
「桜華さんの付き人じゃ、すごい苦労してそうだね…」
「ですので、僕が姉上に引っ張り回されていたんです…」
「つまり、被害者1号と2号というわけですか…。
ちなみにお兄さんは、どんな人なんでしょうか?」
「兄上は…姉上を溺愛していまして、國を出たと聞いて半狂乱になったのは想像出来ます。
それ以外の事は頭にありませんから、この町を滅ぼしても姉上を取り戻そうとしても不思議ではありません。
おそらく雪恋さんが諌めてくれてると思いますが…」
「随分と極端な性格みたいですね…。
何とか戦いにならず、穏便に済ませられると良いですね」
「そうですね…。
次、雪恋さんが来られたら、僕も出来る限りの戦わないようお願いしてみます」
「ぜひ、お願いしますね」
翌日の朝、タルトは日課の軽いジョギング、本人いわくマラソンを終えてリーシャ達と部屋で着替えていた。
廊下では、オスワルドが慌てた様子で走っていく。
タルトの部屋の前に着くと、思い切りドアを開けて、中へ駆け込んだ。
「大変ですっ、聖女様!
緊急ですので、失礼しま…す…」
そこには、下着姿で着替え途中のタルトやリーシャ達がおり、オスワルドと目が合った。
みるみるうちにタルトの顔は真っ赤に染まっていく。
「きゃああああああああっ!」
「お待ちくださいっ!?
これは誤解で、ぐはっ!」
目を手で隠しながら言い訳するオスワルドの腹部を魔力弾が直撃し、廊下まで吹き飛んだ。
オスワルドは痛みをこらえて顔をあげると、タルトが目の前に立っていた。
魔法少女の格好で手にはステッキを持っている。
物凄い威圧感を放ち、オーラが目に見えそうである。
「…言い残すと事はありますか?」
「お、お待ちくださいっ!
急いでおりまして、ついノックを忘れて…。
聖女様のお美しい下着姿なんて見ておりません!
水色の下着で、白く透き通った肌、成長期で控えめな胸、可愛らしいおへそなんて見ておりません!」
タルトの顔は更に真っ赤になっていく。
「しっかり見てるじゃないですかっ!?」
「し、しまった!
鮮明に記憶されたお姿を思い出して、つい…」
「そんなに鮮明に残ってるならしょうがないですね。
闇に惑いし哀れな影よ。人の着替えを覗きて貶めて。罪に溺れし業の魂…いっぺん、死んでみる?」
「ぎゃああっ、お許しください!
村にゴブリン襲撃の伝達がありまして…」
ゴブリン襲撃の言葉に怒りが消えて、焦りの色に変わった。
「今、ゴブリンって言いました!?
詳しい話を教えてください!」
「えっ、あ、はい!
伝令によると3つの村に同時襲撃があるとのことです。
数は各々、10体ずつくらいと思われゴブリンロードが率いてるようです」
「今は誰が町に残ってます?」
「桜華様、シトリー様、ティート殿かと」
「では、分散して当たりましょう。
一番近い村に桜華さんと一緒にオスワルドさん、お願いします。
シトリーさんとティート君で一組。
最後は私がリーシャちゃん達を連れて行きます!」
「承知しました!
すぐに皆様にお伝えします!」
オスワルドはさっきのことがうやむやになったと思われ、内心ほっとしていた。
「ああ、それと…」
「まだ、何かありますか?」
「さっきの件は戻ってから、しっかり断罪しますからね 」
「くぅ…、しょ、承知…しました」
タルトはリーシャ達を抱えて、急いで飛び出していった。
オスワルドと桜華は飛べないため、馬に乗って隣村へ急いでいた。
馬で急げば2時間で着く距離であるが、今はとても長く感じられた。
「くそっ!
もっと早く着かねえのか!」
「後少しです、桜華様!
そろそろ見えてくるはずですが…」
森林を抜け周囲が田畑に変わると、遠くから村の家が確認できた。
村から少し離れた所で、自警団とゴブリンが戦っているのが見えた。
何とか均衡しているが、後ろで控えているゴブリンロードが加われば一気に崩れるであろう。
「良し、ここまで来れば走った方が速いぜ!」
桜華は馬から飛び降り、一気に駆け寄っていく。
背中から刀を抜くや否や、一匹のゴブリンに近づき胴を一刀両断に斬った。
「待たせたなあ、お前ら!
よく頑張ったぜ、後はうちらに任せとけ」
「走るの速すぎです、桜華様…。
馬より速いなんて…」
オスワルドもやっと追い付いて息を切らしている。
「オスワルドよ、雑魚は任せたぜ。
うちはあのデカブツをぶっ潰してくる!」
「露払いはお任せください!」
桜華は走り出すとゴブリンロードに駆け寄った。
途中のゴブリンを切り捨てながら。
「おう、この領地を攻めてくるなんて良い度胸してるな、お前!
死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?」
「グ、ガ、オマエ、ツレテ…イク」
「ああっ!
何、意味不明な事を!
もういい、死んどけ!」
ゴブリンロードは大きな斧を振りかぶって迫ってきた。
桜華はそんな斧なんて気にしないように、一気に間合いを詰める。
斧の間合いまで近寄ったことでゴブリンロードは、全力で斧を振り下ろす。
人間であれば受けた剣ごと真っ二つにされてしまうほどの威力がある。
桜華はそれを刀で力に逆らわず、軽く受け流し、そのまま返す刀で五体に斬り裂いた。
「ちっ、雑魚が、手間とらせやがって」
桜華は鬼の種族の頂点に立つ一族だ。
ゴブリンはその底辺の種族であり、到底敵う相手ではなかった。
その頃、オスワルドも取り巻きのゴブリンを倒し終わった。
身体強化を身につけたオスワルドにとってもゴブリンなど敵ではなかった。
「こいつらは桜華様を連れて戻るように命令されていたんでしょうか?」
「あのバカ兄貴ならあり得るかもな…。
面倒だから自分で来いってんだ」
「自警団にも死者は出なかったみたいですね。
念のため、周囲を確認した上で町に戻りましょう」
二人は周囲の確認と被害状況を自警団より確認を行った。
襲撃は突然、発生したが決められた手順通りに避難や迎撃を行い、被害を最小に留められたようだった。
周囲も魔物の気配もなく、倒したゴブリン達で全部だったようだ。
シトリーデスワ。
タルト様の着替えを覗くなんて、後で焼却処分デスワ、汚物は消毒しなくテハ。
次回はワタクシやタルト様の活躍を期待してクダサイワ。




