42話 将来への投資
「突然ですが学校を作ります!」
いつものごとく、皆を集めて唐突に宣言をするタルトであった。
「がっこう…とは何でしょうか?
聖女様、ご説明をお願いできますか?」
オスワルドが知らないのも無理はなかった。
この世界に学校は存在せず、貴族階級などが自宅学習するくらいだった。
宗教上、技術の発展を禁じられてるので、知識を広めるような行為は良く思われないのだろう。
その為に識字率はとても低いのであった。
「ふっふっふっ、良い質問ですねー。
学校とは…、そう、民明書房の教科書を使い、名物として油風呂や愕怨祭があったり、ゆくゆくは大威震八連制覇を開催と…」
ここで皆がポカンとしていることに気付いた。
「…えぇー、こほん。
簡単に言えば主に子供を集めて色々な事を学ぶ場所の事です。
将来を担う、子供に自分達で考えて道を切り開けるようになって欲しいんです」
「それは良い考えだと思うが、タルト殿はどんなことを教えるのだ?
やり過ぎるとフォス教の不興を買うことになるぞ」
ノルンの指摘はもっともであった。
タルトがその気になれば、現代日本の知識であれば教える事が出来る。
それこそ、発電設備や自動車を作るなど産業革命どころではない。
また、火薬から銃を作り、核兵器でもウルの知識があれば可能だった。
だが、タルトはそんな世界は望んでいなかった。
色々、足りない素朴な生活で純粋な人達に触れて、今の生活が好きだったのだ。
「それは分かっています。
だから、まずは生活に必要な知識として、文字や算術、農耕技術などを教えます。
次に魔物の生態から最低限の戦闘技術を教え、自己防衛出来るようにします。
他には道徳を教えて、心優しい大人になれるよう教導したいですね」
「将来への投資という訳デスネ。
素晴らしい考えデスワ!」
「確かに生きる術を教えるのであれば、問題ないと思われます」
「タルト様、俺も是非、そこで学びたいと思います」
「ティート君も大歓迎です!
大人向けにも希望があれば、勉強会みたいなものが出来ればと思ってます。
そこで問題が誰が教えるかですが…」
ここでオスワルドが手を挙げた。
「聖女様、我が領地にいる学士にお任せください。
戦闘についても、引退した老兵に募集を掛けるのはどうでしょう?」
「それは助かります!
まずは選抜メンバを集めて教育内容を決めましょう」
「うちが戦闘訓練してやるぜえ!」
「桜華さん、手加減してくださいね…。
時々は特別講習で良いかもしれないですね」
「そうですね、優秀なものがいれば兵士として採用したいですね」
「うん、適性をみて職業が選択できるようにしても良いですね」
他のメンバーからも色んな意見が出て、活発な討論が続いた。
概ねの方針が決まり、この日は解散となった。
その後、町の外れに校舎の建設が始まった。
他の村からも受け入れるため、宿舎も併設する予定である。
また、教師候補を集めて、タルトが直々に内容を説明した。
教師からの意見も取り入れ、より良い内容への修正も行われている。
開校へ目処が見えた頃、各村への案内も行われた。
基本、無料で勉強と宿泊、食事付きのため、応募が殺到した。
学習期間を2年と定め、順番に受講させる事とした。
年齢もずらして、年下の面倒を見させることも教育の一環とした。
もちろん、種族は問わない。
準備も自分の手を離れてタルトはリーシャとミミを連れて、町から離れた一軒の家を訪ねていた。
「すいませーん、誰かいますかー?」
中から一人の老人が現れた。
「どちら様ですかな?
おおっ!これは聖女様、こんな寂しい所にどんなご用ですかな?」
出迎えてくれたのはジルニトラであった。
後ろには孫と思われるリリーもいた。
二人とは村の拡張時に出会って以来、時々、食料などをエグバートの店に買いに来るので、顔見知りであった。
「こんにちは、ジルさん。
リリーちゃんも久しぶりだね!」
「こんな所では何ですから、中へお入り下さい。
これ、リリーよ、お茶の準備をしてくれるかい?」
こくっ
リリーは頷くと奥の台所に向かっていった。
客間に案内され、椅子に座るとリリーが台所から戻ってきた。
「お茶…」
「ありがとう!
ちゃんと出来て偉いねー。
リーシャちゃんは知ってると思うけど、この子は新しく来たミミちゃんだよ。
仲良くしてあげてね!」
「えと…ミミです。
よろしくなのです」
「ん…」
リリーは頷くとリーシャとミミの隣に座った。
「改めてお伺いしますが、どうされましたのじゃ?」
「突然、すいません。
ちょっとお願いがあってきたのですが、今、町に学校という学ぶ場所を作ってるんです。
そこにリーシャちゃんとミミちゃんも通うので、ぜひリリーちゃんも来て欲しいと思いまして」
「そうでしたか。
学校とは面白い発想ですな。
だが、ワシらは世捨て人のような生活をしておりまして、リリーは人が多いところは苦手ですからどうしましょうかのう…」
「私、行く…」
「おおっ、リリーよ。
人がいっぱいいるのだぞ?」
「大丈夫…リーシャとミミいる。
行こ…面白いもの見せる…」
「わわっ、どこいくの、リリーちゃんっ」
リリーは二人の手を引っ張って、外に遊びに行った。
「ふふっ、同じ年頃の子と遊びたかったのかもしれないですね。
ここに来て正解だったみたいです」
「そのようですな。
手の掛かる子ですが、宜しくお願いします」
「ここはちょっと遠いですので、私の家に泊まることになりますが、ここにジルさん一人で寂しくないですか?
良ければ一緒に暮らしても大丈夫ですが」
「はっはっはっ。
一人で大丈夫ですよ!
まあ、時々、顔を見に伺いますのじゃ」
「何時でも来てくださいね!」
タルトとジルニトラはしばらくお茶を飲みながら会話を楽しんだ。
親戚の叔父さんと話してるようで、何だか気楽に話せる感じがした。
「そういえば、ジルさんは女神様の事を何か知ってますか?
良く名前は聞くんですが、誰も詳しいことを知らなくて…」
「ふむ…、聖女様が女神様を知らないとは…」
「すいません…、いつの間にかその名称が定着しちゃって」
「いや、気にせんでくだされ。
女神様については、昔話を知ってるだけじゃよ。
今よりどれくらいか分からない大昔には二人の神様がいたそうだ。
一人が男性でもう一人が噂の女神様です。
当時は争いもなく全ての種族が仲良く暮らしていたそうですじゃ。
聖女様の目指す世界に近いのではないですかな?」
「そう…ですね。
過去に実際にあったのであれば不可能ではない気がしてきました」
「ほっほっ、頑張ってくだされ。
その幸せの世界も急に終わりが訪れました。
女神様がお隠れになり、悲嘆した男の神も去ったそうですじゃ。
その後に現れたのが、光と闇の神様で非常に仲が悪いそうですじゃ。
地上の各種族もどちらの眷属となり、長い争いが始まったそうです。
それが今の戦争の始まりと言われておりますな…」
「何だか悲しいお話ですね…。
その神様をぶっ飛ばせば平和になりますかね?」
「はっはっはっ、神様をぶっ飛ばすとは面白いお方ですじゃ!
貴方様なら出来るかもしれませんな」
「そう言われるとやる気が出てきました!
かつての平和を取り戻して見せますね!」
「これは新しく可愛らしい女神様の誕生ですかな?」
「もう聖女だけで十分ですよー。
分不相応って感じですね…。
最初はリーシャちゃんの為に頑張ってたんですけど、今は守りたいものが増えちゃって…でも、助けられるのは手が届く範囲だけで力のなさを実感してます…」
「聖女様はよく頑張っておられます。
力あるものは、それに伴う責任も負うことになりますが、精一杯努力していると思いますのじゃ。
神とて万能ではないのです。
こんなジジイが生意気かもしれませんな。
はっはっはっ!」
「ジルさん…。
そうですよね、今は出来ることを頑張ります!」
丁度、その時にリーシャ達が帰ってきた。
何をしてきたのか、聞きたいくらい三人の服は泥だらけであった。
「お帰りー、って、どうしたの?
泥だらけになって!」
「ただいまです、タルトさまー。
リリーちゃんにぬまにはえる、きれいな花をみせてくれたんです」
「その時にぬまからまものがあらわれたけど、リリーちゃんがいっしゅんでたおしのです!」
「あれくらい余裕…」
「もう分かったからじっとしててね。
洗浄魔法かけるから」
タルトがステッキを出して魔法を掛けていく。
単純に汚れだけを分解してるだけなのだが。
「洗浄魔法とは面白いものが使えますのぉ」
「いえいえー、汚れを取るくらいしか使えませんよー」
「ありがとうございます、タルトさま!」
「ありがとうなのです。
すごいのです、いっしゅんでもとどおりに」
「便利…毎日これで良いのに…」
「あはは…、リリーちゃん、ちゃんと毎日着替えようね…」
少ししてからタルト達は帰ることにした。
「入学の案内を今度、送りますね!
じゃあ、リリーちゃん、次は学校でね!」
「お気を付けてお帰りください。
孫の事を頼みますぞ」
三人が帰ったあと、ジルニトラとリリーは茶器を片付けていた。
「リリーよ、ずいぶんと気に入ったようじゃの?」
「…駄目?…あの二人といる、楽しい…。
ジルも同じ…タルト気に入ってる」
「確かに。
あの子がどのような道を進むのか楽しみじゃな。
だが、あまり干渉するでないぞ」
「大丈夫…」
後日、タルトからの案内に従い、リリーは町に住み学校に通うこととなった。
こうして開校を無事に迎えたのであった。




