40話 ティートの過去
来ることが出来たメンバーが部屋に入ったところで、モニカがお茶を出してくれた。
「じゃあ、タルトちゃん、ごゆっくり。
何かあれば呼んでね」
「ありがとうございます、モニカさん!
いつもお店に迷惑かけてすいません」
「タルトちゃんも大変だねー、今度、美味しいものを奢ってね!」
「任せてください!
最近、新メニューを開発したので」
ティートとミミは二人のやり取りを見て、タルトに親近感が湧いたことで緊張がとけた。
モニカが部屋から出た途端、部屋は鈴かになったが、タルトが静寂を破った。
「えぇっと、ティート君でしたっけ?
私を探していた理由を教えてくれますか?」
ティートは他の面々を見ながら口を開いた。
「俺の家族の恥部でもあるから、人払い出来ないでしょうか?」
「ここにいるのは私の家族も同然です。
秘密は漏らしませんので安心してください」
「…タルト様がそうおっしゃるなら。
皆さんを信じて隠さず話します。
俺達の父親は獣人の国で大元帥の役に就いていて、知らぬものはいない人でした。
家族には優しい父親でしたが、獣王様の次に強く、部下には厳しかったです。
それでも、その強さに惹かれ面倒見の良かった事から皆に慕われていました。
戦になれば、先陣をきって戦い、沢山の功を立て、味方を守っていたのです。
俺達はそんな父親が誇りだったのです…」
ティートは昔を思い出すように穏やかな笑顔になった。
但し、その笑顔には何処か悲しさも感じられる。
「それがミミが生まれてから陰りが出てきました。
ミミは見ての通り、人間とのハーフです。
捕虜として連れてこられた女性を父親が気に入り、召し使いとして家に入れ、その後にミミが生まれました。
人間だった母親ですが、俺達の家族は幸せに暮らせていたと思います。
ですが、周りの獣人はそれを良しとしませんでした。
最初は陰口をするものが少しいたくらいでしたが、ミミが大きくなるにつれて顕著に増えてきました。
そして、ありもしない悪い噂が流れて、父のもとを去る者も現れました」
「散々、世話になっておいて裏切るとはひでえなあ」
「俺もそう思います…。
特に血の気の多い若者が去り、昔馴染みの年寄りは残ってくれました。
そして、その日はやって来たのです」
ティートの顔は憎悪に染まっている。
「その日、父は人間が襲撃をしにきたという情報が入り、少人数ながら残ってくれた信頼の出来る部下を連れて迎撃に出掛けました。
いつもであれば日が暮れる頃には帰る父が帰って来ませんでした。
翌日に捜索隊が編成されましたが、既に遅すぎました。
複数の人間の死体と共に父達の亡骸が見つかったのです…。
俺はあの父が人間に殺されたなんて、信じられませんでした。
悲嘆に暮れたミミの母は、病弱だったのもあり後を追うように亡くなりました…」
「ティート君…」
「だが、それだけでは終わりませんでした。
父がいなくなったことで、ミミが他の獣人から忌み嫌われるようになったのです。
それで俺達は町を出ていくことにしたのですが、街道を進み人気がない所でアイツが現れたのです。
父のせいで常に三番手だったカルヴァンという獣人が俺達の命を狙いに来たのです。
アイツは冥土の土産と真実を語りだしました。
悪い噂を流し、父を孤立化させたのです。
その上で襲撃という嘘の情報を流し、部下も含めて闇討ちしたと…。
力では敵わないので、援軍の振りをして油断した所を後ろから襲ったそうです。
しかも、死ぬ間際に家族の無事をお願いした父を笑いながら、止めを刺したとぬかしやがってっ!」
隣のミミは辛い過去を思い出して、今にも泣きそうになっているのを必死に堪えていた。
ティートは今にも爆発しそうな怒りを必死に抑え、続きを話し始めた。
「カルヴァンは強かったです。
まだ、私が若いのもありますが、父に次ぐ実力は本物でした。
勝てないと悟った俺はミミを抱えて、全力で逃げました。
そのままでは追い付かれる所を崖から川に飛び込み、何とか逃げ切れました…。
それから、逃亡生活を送る内にタルト様の事を知ったのです。
種族を差別ない町を作り、圧倒的な強さを持ち、慈悲深い聖女様であれば助けてもらえると思ったんです」
長い説明が終わり、ティートは肩の荷がおりたように力が抜けていた。
「それでティート君は私に何を求めてるんですか?」
ティートは少し考えて、決心したように切り出した。
「俺は両親の仇をうち、父と同じように大元帥になりたいんです!
アイツは大勢の部下に守られているので、一人ではいくら強くても勝てないでしょう。
その為に力を貸してくれる人を探していたのです。
出来れば強くなるために、修行をして貰えると嬉しいのですが…。
急なお願いですが、他に頼れる人がいないんです、何とかお願いしますっ!」
ティートは床に土下座をした。
その本気度は痛いほど伝わってくる。
「どうするんだあ、タルト?
そのカルヴァンってのは、確かに気に入らねえなあ」
「私も同感だ。
武人の片隅にも置けぬ奴だな」
桜華とノルンはティートの話に共感を示した。
「ワタクシはタルト様のご命令に従うだけデスワ。
滅ぼせと仰るなら、直ぐにでもカルヴァンなるものを消しに行きマスワ」
シトリーはいつも通りタルトの命令を待つようだった。
「だが、魔族は弱肉強食ダロ。
騙されたのも、見抜けなかったコイツの父親の実力不足だとも言えるナー。
獣人は力が全てだからナ。
力あるものは多少の無理も通せるカラナー」
カルンは元闇の眷属としての意見を述べた。
タルトは皆の意見を聞きながら、目を瞑り黙ったまま考え込んでいた。
しばらくした後、目を開き決心したように話し始めた。
「ティート君の気持ちは伝わりました。
でも、仇討ちには力を貸せません!」




